とびひ(伝染性膿痂疹)は、どのように対応すればいいの?小児科医が解説
夏も盛りになってきました。
夏季には、『とびひ(伝染性膿痂疹)』のお子さんが増えてきます。
とびひは、皮膚の細菌感染による病気で、皮膚の各所に『飛び火』していくように広がっていくことが多いので、このような名前がついています。
特に、アトピー性皮膚炎のあるお子さんは『とびひ』になる可能性が高くなることがわかっています。そのためアレルギーのあるお子さんを診療することが多い私は配慮しながらお話しています[1]。
そこで今回は、とびひの原因や治療に関してお話したいと思います。
[1] Journal of dermatological science 2010; 60:173-8.
とびひ(伝染性膿痂疹)って、どんな病気?
とびひは大人でも起こることがありますが、2〜5歳の子どもにもっとも多いとされています。そして、皮膚に擦り傷、虫刺されがあったり、鼻の穴をいじったりして発症することがあります[2]。
原因となる細菌には大きく2つあります。
1つ目は、黄色ブドウ球菌。
2つ目がレンサ球菌です。
名前は覚えなくて構わないのですが、それぞれ、すこし見た目が異なることから医師は配慮しながら診療しています。
とくに原因として多い黄色ブドウ球菌は、毒素を産生して皮膚をつよく結びつけているたんぱく質(デスモグレイン1)を分解するので、水ぶくれ(水疱)を起こしてきます[3]。
そして、その水ぶくれを掻き壊してその内容物がついた手で他の場所をひっかいて『飛び火』させていくわけですね。
[2]Impetigo: All You Need to Know(CDC)
[3]小児科診療 2019; 82:1437-42.
治療はどのようにすればいいでしょうか?
細菌が相手なので、まずは抗菌薬…と思いがちですが、じつはその先にしなければならないことがあります。
それは、皮膚を清潔に保つことです。
まず十分泡立てた石鹸で皮膚を優しく洗い、シャワーで流します。皮膚が傷んでいるので、ごしごし擦るとさらに皮膚がめくれてしまいます。
そしてとびひがある場所を包帯などでカバーします[4]。
とびひの内容物が傷のある皮膚につくと、広がっていくとお話しましたね。
つまりとびひにかかっている人の衣服、寝具のシーツ、タオルなどは毎日洗ったほうが良く、他の人と共有しないようにします(もちろん、洗った後の衣服やシーツ、タオルを共有することは大丈夫ですよ)。
[4]小児科臨床 2018; 71:2537-9.
さて、その次に抗菌薬を使います。
実は、とびひは皮膚のケアをするだけで改善する方もいらっしゃいます。
抗菌薬が効きにくい菌(耐性菌)だとしても、改善することもあるくらいです。
そのうえで、外用薬で治療したり、場合によって内服薬で治療したりします。
一般的に、面積が小さい場合は、抗菌薬外用薬で治療します。
最近は、黄色ブドウ球菌がゲンタマイシン(ゲンタシンなど)という抗菌薬に対して効きにくくなってきている(耐性を持っている)ケースが増えたので、ほとんど使用されなくなりました。
個人的には、フシジン酸(フシジンレオ)、ナジフロキサシン(アクアチムなど)、オゼノキサシン(ゼビアックス)という抗菌薬入り外用薬を使っています。
内服する抗菌薬のほうが外用薬より楽で有効のように思いがちですが、その効果は内服薬も外用薬も効果は変わらず、外用剤のほうがより副作用が少ないことも報告されています[5]。
また私は、乳児期に抗菌薬の内服を繰り返すとその後のアレルギー疾患の発症を増やす『かもしれない』という報告を気にしているところがあります。あくまで私はですが、アレルギー体質の強いお子さんを診療することが多いのでちょっと留意することにしています[6] 。
しかし、とびひの面積が広い場合には塗ることが難しくなるので、抗菌薬の含有された内服薬を使用します。とびひの面積が広い場合は、黄色ブドウ球菌の出す毒素によりとびひが大きく悪化する場合(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)もあるためです。
なお、内服薬に関して、抗菌薬に耐性を持つ菌が増えている現状があります。
ですので、内服薬を開始する場合はどんな菌が皮膚にいるのかを培養検査を行って、抗菌薬が有効かどうかを調べています。
培養検査は結果が判明するまで数日以上かかるのですが、もし最初に処方した抗菌薬の効果が不十分な場合は、抗菌薬を変更する目安になります。
[5] 日小皮会誌 2000: 19: 125-30.
[6]Allergy 2018; 73(5): 971-86.
とびひになったお子さんは、学校や保育園をいつ再開できるでしょうか?
基本的に、治療を開始してとびひのある部分をガーゼや包帯で覆っていれば登校・登園して構いません[7]。米国小児科学会は、『適切な抗菌薬治療開始後24時間』を目安として提案しています[8]。
ただし、プールや水泳に関しては別です。
平成22年に公表された「皮膚の学校感染症に関する日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会・日本皮膚科学会・日本小児感染症学会の統一見解」では、プールや水泳は完全に治癒するまでは禁止と定められています。
似た皮膚の病気である『伝染性軟属腫(みずいぼ)』は、プールに関して許可されますので、対照的ですね[9]。
さて今回は、とびひ(伝染性膿痂疹)に関して解説しました。
とびひは普段から皮膚のケアをしておけば、かかることを少なくすることができます。そして適切にケアをすることで、集団生活にもはやめに戻ることもできます。
医療者に相談しながら、夏をお過ごしくださいね。