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小人の国の世界一小さな蜂の巣?=ミニチュア細工の作者は誰?

天野和利時事通信社・昆虫記者
極小の「蜂の巣」は、タテハサムライコマユバチの作品。

 冬になると、蔓(つる)草の茎に付いた、1円玉よりずっと小さい蜂の巣のような物体をよく見かける。これは、タテハサムライコマユバチという寄生蜂が羽化した後の、集合住宅の残骸だ。実態は繭(まゆ)の集まりだが、その形状はまさに蜂の巣。蜂の幼虫が作ったもので、中から蜂が出てくるので、「蜂の巣の一種」と見なしてもいいかもしれない。

 このミニチュア細工のような極小の蜂の巣は、サルトリイバラ(西日本では柏餅のカシワの葉の代用品として良く知られている)という蔓性植物の茎に付いていることが多く、冬にサルトリイバラが葉を落とすと、その存在が目につくようになる。

冬に見つけたミニチュア蜂の巣。
冬に見つけたミニチュア蜂の巣。

 なぜサルトリイバラかと言うと、この植物にルリタテハというタテハ蝶の幼虫が多いからだ。タテハサムライコマユバチは、ルリタテハの幼虫に好んで寄生する。

 十分に育ったタテハサムライコマユバチの幼虫は、ルリタテハの幼虫の体を食い破って外に出て、繭の集合体を作る。

 この繭の集合体は、たいていルリタテハの幼虫の腹とサルトリイバラの茎の間に作られる。このため、棘だらけのルリタテハの幼虫が、この集合体を抱きかかえて、大切に守っているように見える。

ルリタテハの幼虫が抱えているように見える白い円盤は、タテハサムライコマユバチの繭の集合体。
ルリタテハの幼虫が抱えているように見える白い円盤は、タテハサムライコマユバチの繭の集合体。

サルトリイバラの葉を食べるルリタテハの幼虫。この大きな葉は、西日本では柏餅のカシワの葉の代用品になっている。
サルトリイバラの葉を食べるルリタテハの幼虫。この大きな葉は、西日本では柏餅のカシワの葉の代用品になっている。

ルリタテハの成虫。
ルリタテハの成虫。

 この段階ではルリタテハの幼虫はまだ生きていて、刺激を与えると、トゲだらけの体をゆすって威嚇してくる。自分の体から栄養を吸い取った寄生蜂を、必死に守るようなルリタテハの幼虫の行動は、哀れにも見えるが、これが自然の厳しさだ。

 おとぎ話の小人の国の産物のような、可愛らしい極小の蜂の巣が実は、蝶の幼虫を寄生蜂が食い殺した証拠の品だという事実は、けっこう衝撃的だ。小さい子どもに説明する時には、「小人の国の蜂の巣だよ」などと、罪のないうそをつこうと思う。

繭から出てきたタテハサムライコマユバチの成虫。
繭から出てきたタテハサムライコマユバチの成虫。

極小「蜂の巣」を1円玉に乗せてみた。
極小「蜂の巣」を1円玉に乗せてみた。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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