小人の国の世界一小さな蜂の巣?=ミニチュア細工の作者は誰?
冬になると、蔓(つる)草の茎に付いた、1円玉よりずっと小さい蜂の巣のような物体をよく見かける。これは、タテハサムライコマユバチという寄生蜂が羽化した後の、集合住宅の残骸だ。実態は繭(まゆ)の集まりだが、その形状はまさに蜂の巣。蜂の幼虫が作ったもので、中から蜂が出てくるので、「蜂の巣の一種」と見なしてもいいかもしれない。
このミニチュア細工のような極小の蜂の巣は、サルトリイバラ(西日本では柏餅のカシワの葉の代用品として良く知られている)という蔓性植物の茎に付いていることが多く、冬にサルトリイバラが葉を落とすと、その存在が目につくようになる。
なぜサルトリイバラかと言うと、この植物にルリタテハというタテハ蝶の幼虫が多いからだ。タテハサムライコマユバチは、ルリタテハの幼虫に好んで寄生する。
十分に育ったタテハサムライコマユバチの幼虫は、ルリタテハの幼虫の体を食い破って外に出て、繭の集合体を作る。
この繭の集合体は、たいていルリタテハの幼虫の腹とサルトリイバラの茎の間に作られる。このため、棘だらけのルリタテハの幼虫が、この集合体を抱きかかえて、大切に守っているように見える。
この段階ではルリタテハの幼虫はまだ生きていて、刺激を与えると、トゲだらけの体をゆすって威嚇してくる。自分の体から栄養を吸い取った寄生蜂を、必死に守るようなルリタテハの幼虫の行動は、哀れにも見えるが、これが自然の厳しさだ。
おとぎ話の小人の国の産物のような、可愛らしい極小の蜂の巣が実は、蝶の幼虫を寄生蜂が食い殺した証拠の品だという事実は、けっこう衝撃的だ。小さい子どもに説明する時には、「小人の国の蜂の巣だよ」などと、罪のないうそをつこうと思う。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)