ヤフー社長室長による「ステルスロビー活動」記事の問題点。自らの利益のためにメディアを使うのを戒めよ
ヤフーニュース個人に掲載された同社の別所直哉執行役員社長室長の記事「旅館業法の怪」は大きな問題があります。事実関係を明らかにせず読者に行政批判を起こさせることで、自社への利益誘導を図っているからです。メディアは大きな影響力を持つからこそ、読者を欺いて自らの利益の為にメディアを使うことは戒めなければなりません。
記事は、軽井沢の別荘を個人間で貸し借りできる新たなサービスが省庁や県の対応によって中止となったと紹介、一方でAirbnbは米国のサービスであるため日本国政府は口出しできずに、一国二制度状態になると指摘しています。この記事を読めば、遅れた規制と行政指導が日本のインターネットビジネスを阻害しているという業界問題のように見えます。当然ですがソーシャルメディアの反応は行政批判に傾きます。
このように著名なベンチャー経営者や投資家などが相次いでツイートしています。情報がネットで拡散するだけでなく、経営者や投資家らは政府の審議会の場や政治家、官僚と会った際に、この話をするでしょう。それを見越してか、別所氏は
と呼びかけています(けしかけていると言ってもよいでしょう)。
別所氏の狙いは、人々がニュース記事を読んで批判の声を上げ、行政を動かす社会的な圧力を作り出す事にあるのでしょう。しかし、実は中止となったサービスはヤフーが取り組んでいた自社サービスだったのです。
隠す意図はなかったとのことですが、業界全体のことを書いているように見せながら自社サービスに関して行政に圧力をかけようとした点で、ステマ(ステルスマーケティング)ならぬ、ヤフーのステルスロビー活動と見られても仕方がありません。この記事を読んで行政を批判した人は、ヤフーのために動いたことになりかねません。
このようなステルスロビー活動で社会を動かすと、業界の課題を語ることも特定企業の利益誘導になり、本来行うべき新たな産業の育成やベンチャー支援のために何を変えるかという議論が停滞してしまう恐れがあるのです。
しかし、ヤフーはその問題の大きさを理解していないようです。
読者に不快感を与えたことが問題なのではなく、「ヤフー個人」という個人が発信する場で、会社の公式な見解をそれと言わず、自社サービスの課題を産業界全体の問題のように語り、圧力をかけるように呼びかけた事が問題なのです。
また、個人の立場で書いているはずの場で、指摘があったら「実は会社の公式見解でした」となるのであれば、「ヤフー個人」というサービスの存在を否定することになります。会社の公式見解であればプレスリリースや会見で発表すべきでしょう。
別所氏は、最初から自社サービスであることを明示して、個人として正面から論陣を張れば良かったのです。そうすれば読者は判断することが出来ます。「たったそれだけのこと?」と思う人もいるかもしれませんが、メディアの信頼を保つ努力は小さな積み重ねからしか生まれないのです。
もう一度言いますが、メディアは大きな影響力を持つからこそ、読者を欺いて自らの利益の為にメディアを使うことは戒めなければなりません。社長室長がこのような基本的なことを理解していないのであれば、ヤフーはメディア運営の根本的な倫理観が欠けている企業である可能性が高く、今後はヤフーの提供している情報の信頼は大きく崩れていくことになるでしょう。