Yahoo!ニュース

【ガザからの報告】⑩ (24年2月8日)後編―“生き残る道”を模索するガザ住民―

土井敏邦ジャーナリスト
(電気もガスもない避難民生活/撮影・ガザ住民)

【ガザ脱出のための「出国税」】

(Q・住民はもし機会があれば、ガザを出たいと思っているのですか?)

 そうです。多くのガザ住民はガザの外に出たいと願っています。この破壊は想像を絶するものです。しかしあらゆるメディアやインターネットは、そんなガザの実態を伝えてはいません。年単位ではなく、10年単位でも復興はありえないと思われるほどです。だから大半の人はガザから出たいと願っているんです。

 現在、戦争が終わるのを待たずに、すでにガザを出ている人たちもいます。

今、エジプトとの国境から出ていくために、ハマスとエジプトの治安当局らのコーディネイションのために1人当たり6000ドルがかかります。その金を支払わなければ出られません。子どもたちは1人当たり2000ドルです。だからもし私自身の家族(私と妻と3人の子ども)が、エジプトへ逃れるためはと、18000ドルを支払わなければなりません。この金を支払える人が今、ガザの外に逃れているのです。

 そんな大金がない住民の中には、インターネットでこの国境通過のコーディネイションのためのお金を寄付してくれるように外国に哀願しています。

(Q・ハマスに賄賂を払わなければいけないということですか?)

 そうです。

(Q・つまりハマスが国境をコントロールしているということですか?)

 ハマスとエジプト軍の将軍です。双方が会社を設立しています。その会社はシナイ半島やラファ市内にたくさんの事務所を持っています。その会社が設立されたのはこの戦争後ではなく、6年前です。人びとはコーディネイションのためにお金を払ってきました。しかし今度の戦争前は、それほどの高額ではなく、1人当たり1200ドルでした。しかし今は6000ドル。大人1人当たりです。

 この会社の名前は「ヤハラ」です。パレスチナの方言で「welcome(いらっしゃい)」です。これはハマスと今度の戦争から始まったことではありませんが、この戦争で出国のためのコーディネイション代が跳ね上がっています。

(Q・それなら、あなたがガザを出ることはできませんね?)

 これだけのお金を用意できません。私はできないけど、他の人の中にはその金を集めてガザから出ています。

(Q・ガザを脱出できても、そこで生き延びる道はないのではないですか?仕事も、食べ物も、助けてくれる知人もいない。たとえガザを出ても、どうやって生き延びることができるのですか?)

 もし出ようとする人に聞いたら、彼らはこう答えるでしょう。

「出てもたいへんだとわかっています。でも私たちの“身の安全”が欲しいんです!」と。ガザ地区に留まったら、命の保障がない。いつ殺されるかわからない。だから“身の安全”が保障されないのだ」と。

「ガザ地区を出られたら、何でもできます。路上で乞食になることもできる。私は命を守りたいんだ!子どもの命を守りたいんだ!家族の命を守りたいんだ!」。

人びとは“生き残る”道を捜し求めているんです。

(Q・子どもたちの心理状態はどうですか?あなたたちは戦車に砲撃され、兄弟を殺され、家を破壊されて、ラファに逃れて1カ月もテント暮らしをした。それは子どもたちにとって、たいへんなことだったと思うが、その体験は、子どもたちにどういう影響を及ぼしているんですか?)

 私がガザを出ることを考えている最大の理由はそのことです。子どもたちのためです。私の子どもたちは精神的にひどい状態です。精神的に異常をきたしています。睡眠時もそうです。悪夢を見る。ずっと恐怖に襲われている。すべてに恐怖心を抱く。車の音にも恐がり、泣き出す。大きな声を聴くと。子どもたちはトラウマを抱えています。しかも治療ができないのです。医者のところへ連れていって、治療ができない。

【高価な野菜】

(Q・食べ物はどうしているのですか?)

 今は小麦粉が手に入るようになりました。値段も手ごろで、1キロの小麦粉が4シェケル(1.2ドル)です。母がよく言います。「パンさえあれば、飢えることはない。パンがあれば、おなかを満たせる」と。そのパンが手に入るようになったのです。

一方、相変わらず、期限切れの缶詰です。トルコやエジプトから、ごみとして捨てられるような缶詰を送ってきます。サンマや豆などです。ご存知ように缶詰の食べ物は身体によくないのです。

 もし野菜を買おうとすれば、「金持ち」でなければなりません。農家は、ラファ地区の一部を除いて、農業の仕事はできません。他の地域では近くに戦車がいて、またドローンがいつも上空を飛んでいるから危険で、仕事ができないのです。農業用水もありません。だから私たちはラファの農家に全面的に依存するしかありません。

 その結果、もし野菜を買おうとすると、恐ろしいほどの値段になっています。1キロの玉ねぎを買おうとすれば50シェケル(15ドル)、これが一番高い。トマト1キロは25シェケル、ズッキーニ(かぼちゃのようだが、小型。緑の小さなかぼちゃのような食べ物)は27シェケル、スイートペパー(ピーマン)は40シェケル、にんにく1キロは40シェケル。

 今朝、私はマーケットに行きました。2個の玉ねぎを買って10シェケル(3ドル)支払いました。つまり1個の玉ねぎが5シェケルです。人びとは玉ねぎをキロ単位で買うことはできず、個数で買います。とても高いからです。

(Q・以前、あなたは、「ハマスが食料を奪い、それを商人に売らせている」と報告してきましたが、そういう状況が今も続いているのですか?)

 そうです。これは終りのない現状です。しかも新鮮な食べ物は自分たちが取り、期限切れのもの、新鮮でないものは住民に投げるんです。

(「ヤハラ会社」のマーク/ガザ市民の提供)
(「ヤハラ会社」のマーク/ガザ市民の提供)

 さらにハマス関連の商店「ヤハラ」が、テントも売っています。住民は既製品のテントは彼らから買うのです。ラファ市内やデイルバラ町ではそのテントを売っています。しかしそれを買うのに2000シェケル(約600ドル)を払わなければなりません。彼らは支援物資を奪い、それを売っているのです。

(Q・「ヤハラ」はハマスとエジプト軍の将軍の会社ですか?)

 それは数年前に、ハマスとエジプト軍の将軍によって設立されました。彼らはパレスチナ人住民の苦難を利用してビジネスをしているのです。

(Q・ということは、ハマスはエジプトとの境界に対する権限を維持しているのですか?)

 そうです。そこは手つかずの状態です。ラファの検問所をハマスは完全に支配しています。ラファ市の中には1台も戦車は入ってはいませんから。

(Q・これからどうなると思いますか?ハマスはせん滅させられるのだろうか?この戦争はさらに数か月続くのだろうか?)

 イスラエル軍はその作戦を終えるのに、さらに数週間、1カ月ほどかかると思います。イスラエル軍はハマスの旅団を完全に破壊するまで作戦を止めるとは思いません。ラファ市とデイルバラ町などガザ中部地区でハマス旅団をせん滅するまで作戦を止めないでしょう。そのためにイスラエルは高い代償を払うことになるでしょうが、結局、ガザの全地域に制圧すると思います。

(Q・イスラエル軍はハマスを完全にせん滅するつもりだと思いますか?)

 以前にも言ったように、私はネタニヤフ首相を信用していません。論理的に考えれば、ハマスは実際、破壊されようとしています。IDF(イスラエル国防軍)はハマスの指導者たちや軍事的力を破壊することによってハマスの大半を破壊することに成功しています。

 しかしイスラエル内でどういう政治的な判断がされるかわかりません。なぜなら以前、ネタニヤフ首相はかつてハマスが軍事力を回復しガザと住民の支配を回復する手助けをしたことがあるからです。

 私はネタニヤフが言うことを信用できないし、この戦争がどう終わるのかどうかもわからない。ネタニヤフはハマスをせん滅し、違ったパレスチナ人の政権を作ろうとするかもしれない。またはハマスは力を持ち続けるかもしれない。ネタニヤフは、ガザをコントロールするためにハマスを必要とするかもしれない。私はネタニヤフをまったく信用することはできませんから。

 一方で、カタールやトルコはハマスを支援しています。トルコはNATOの創設メンバーです。カタールは「アメリカの人形」です。カタールの米軍基地からとても近いところでイスマイル・ハニーヤやメシャルがどうやって暮らせるのか。こういうことを考えると、イスラエルが本気でハマスをせん滅しようとしているのか、私にはわかりません。

カタールは何百万ドルをハマスに与え、指導者たちをホストしているのか。だれがカタールにそうさせているのか。カタールにそうさせている権力は、ほんとうにハマスをせん滅させようとしているとは思えません。ハマスがガザの支配することを終わることを望んでいないのではないかと思えてならないのです。

 これはたいへん汚いゲームです。誰がハマスを動かしているのかわからない。欧米のだれかがハマスがこういう役割をさせているのではないかと疑ってしまいます。

(Q・イスラエル人の人質は生きているだろうか?)

 生き残っている者もいれば、すでに死んだ者もいるでしょう。ガザ内でのイスラエル軍の砲撃の規模は甚大で、あらゆる場所が破壊されています。この砲撃で人質の一部は殺されたと思いますが、他の大多数は生きていると思います。彼らはラファ地区に集中していると考えられます。最も安全な場所だから。

(Q・ラファが攻撃されたら、多くの犠牲者が出ると思うが?)

 その通りです。ラファは人で混雑し、もしミサイルが落とされたら、千人単位で人が死にます。そこに1ヵ月留まったけど、ラファは人でどれほど混雑しているかわかりました。とても大きな人口が集中しています。だからイスラエル軍がラファを攻撃する作戦を実行するのなら、住民を北に、デイルバラなど中部に移動させるべきです。とにかく攻撃の前に住民を移動させるべきです。もし今のまま住民を留まらせていたら、住民はハマスにとって“人間の盾”となります。ハマスのメンバーたちは住民の中に隠れるでしょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 その後、上記の記事に対して、あるジャーナリストから「事実と違う」という意見が出たので、その点に関して改めて、2月26日に確認した。以下はその回答である。

(Q・あるジャーナリストが送ってきた記事によれば、ハマスは10月7日の攻撃直後から国境の管理を止めたと言っているが、ほんとうですか?)

 この記事はハマスについては何も言及していません。この腐敗にはハマスが関わっています。ハマスはこの汚職で集めた金の一部を手に入れています。ヤハラ会社の利益の一部を手にしているのです。この会社はエジプト側とガザ側の両方に支社を作っています。このガザ側の支社のメンバーはハマスです。

 1月から2月まで、エジプトに対するキャンペーンがありました。イスラエルやアメリカから、「ヒューマンライツ・ウォッチ」などの組織がハマスを批判しました。ハマスにこの汚職の責任があることを指摘しています。「ハマスは腐敗していて、ガザから出るために大金を徴収している」ことを指摘しています。

ヤハラ会社は5年前から活動しています。エジプトに出国する人から金を徴収しています。

 たしかに戦争後にも大金を徴収しているが、その前から金を徴収していました。2000ドル、1700ドルを1人当たりから徴収していたんです。

どうして1月前には、なぜ「ヒューマンライツ・ウォッチ」などはそのことを言及しなかったのか。それはガザの住民のためにエジプト側に国境を開けさせたかったからでした。

「ヤハラ会社」イブラヒム・アルジャーニの会社です。ハマスはパートナーなのです。ガザのパレスチナ人でハマスのメンバーであるランナ・ムスタファはエイジェンシーのオーナーです。ヤハラ会社のために働いています。彼とそのいとこは、ガザ最大のトラベル・エイジェントを経営しています。ランナ・ムスタファはいつもエジプトに出向き、ヤハラ会社のトップ、イブラヒム・アルジャーニと会談しています。ランナ・ムスタファはイブラヒム・アルジャーニとビジネスをやっています。この記事はそれを無視し、エジプト側だけにスッポットを当てています。世界はこの腐敗にエジプトだけが責任があるように伝えています。これは事実ではありません。この問題について、ガザの人に聞いてみればいいのです。

(Q・誰がガザ側の境界をコントロールしているのか?)

 ハマスです。この地域はハマスがコントロールしています。ラファの検問所もそうです。ハマスです。

(Q・そのジャーナリストはヤハラ会社のスタッフが管理していると言っていますが)

 会社は境界の管理にはまったく関係ありません。エジプトとガザの境界は、エジプト軍とハマスによってコントロールされています。

(国境を管理するハマスのスタッフ/ガザ住民・提供)
(国境を管理するハマスのスタッフ/ガザ住民・提供)

(Q・そのジャーナリストは、国境は軍は関与せず、情報機関が関与していると言うのですが)

 これは複雑な問題です。説明しましょう。私が言っているのは通常の管理です。入国スタンプを押しエジプト側に送り出すのは、軍です。

(Q・情報機関ではないですか?)

 違います。軍です。軍はいろいろなグループがあります。コントロールしているのは「エジプト国境警備隊」です。これは軍の一部です。だからエジプト側の国境の建物全体を管理しているのは軍です。そんな建物を一般市民や情報機関が管理できるというのですか。それは論理的ではありません。そこには兵士を配置されています。また軍の車が置かれています。小さな戦車さえも配備しています。エジプト側に入れば、7~8台の軍の車両があります。つまり軍が存在しているのです。

 ガザ側はハマスのセキュリティーがいます。

情報機関の役割について説明します。エジプトには2つの情報機関があります。ジェネラル情報機関とミリタリー(軍)情報機関です。それぞれが国境で役割を担っています。インテリジェンス(情報機関)が国境で役割を果たしているというは間違いありません。彼らがやってくる渡航者たちをチェックします。

ヤハラ会社イブラヒム・アルジャーニが支配しています。彼はシーシ大統領の個人的な友人です。重要な話をしますが、シーシが大統領前には軍のインテリジェンスのチーフでした。だから軍のインテリジェンスはジェネラル情報機関より強力です。その後、かれはムスリム同胞団のムルシ時代に防衛大臣になり、その後、ムルシに対してクーデターをやり、大統領になったのです。

 ヤハラ会社に集中しましょう。この会社がガザにおいて民衆に対して腐敗的な行為をやっていますが、イブラヒム・アルジャーニは多くのエジプト軍の将軍にサポートされています。ある者は現役で、ある者はすでに引退しています。ある者は軍、ある者はジェネラル情報機関、またある者は軍の情報機関です。だからそれぞれに背景を持っています。すべてが同じ情報機ではないのです。

(Q・ガザ側の国境がハマスによってコントロールされているという証拠を私に送ってくれませんか?)

 私はあなたに証拠を送ります。インターネット、「ハマス政府内務省」のウェブサイトから国境の情報を得られます。そこでいつ開くのかの日時が示されています。また国境で、ハマス・スタッフの制服姿を観ることができます。国境はハマスがコントロールしていて、イスラエルはコントロールしていません。かつて数週間だけPA(自治政府)との協議で、PAが一部をコントロールしていました。しかし腐敗や汚職のために、PAのスタッフは追放されました。それ以後は、完全にハマスのセキュリティーによってコントロールされています。

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

土井敏邦の最近の記事