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NY 犬の散歩の口論で人種差別問題に発展 SNSで女性への執拗な死の脅迫が続々と

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
人種差別を受けた男性(右)。CNNのキャプチャー(筆者キャプチャー作成)

ニューヨークのセントラルパークで25日朝、犬の散歩をしていた女性とバードウォッチングをしていた男性が口論になり、人種差別問題に発展した。男性が録画したビデオがソーシャルメディアで瞬く間に拡散され、大炎上している。

公園のルールで付ける決まりになっているリードを付けずに犬を散歩させていた白人女性に、黒人男性が注意をした。女性が忠告を無視したため男性はその様子を録画し始めたところ、女性が逆上した。

なぜこれが人種差別問題に発展したのか。それには彼女の放った言葉の選び方に問題があった。

男性の姉妹がツイッターに投稿した録画。14万以上リツイートされ一気に拡散された。

2人の会話の内容

女性:すみませんが(録画を)やめるべきです。(と言いながら男性に近付く)

男性:近寄らないでください。

女性:ですから、録画を止めてとお願いしているのです。

男性:近寄らないでください。

女性:やめてください。警察に通報します。

男性:どうぞ通報してください。どうぞ、どうぞ。

女性:アフリカ系アメリカ人が、私の命を脅かしていると通報します。

男性:どうぞあなたのいいように言ってください。

女性:(犬の首輪をとって犬を引っ張り上げながら通報)セントラルパークで、自転車のヘルメットを着けているアフリカ系アメリカ人が私を録画し、私と私の犬を脅しています。

(911オペレーターが聞き返す)

女性:(犬の首輪をとって犬の引っ張り上げながら、取り乱した様子で)聞こえません!アフリカ系アメリカ人が私を録画し、私と私の犬を脅しています。男から脅されています。わかりません!今すぐ警察に来て欲しいです!

男性:ありがとう。(録画を終了)

この女性の問題点は3つ(1- 「アフリカ系アメリカ人」と何度も強調し、嘘の内容を通報したこと 2- 犬を引っ張り上げるなど不適切に扱っていること 3- 犬をリードなしに放し飼いしていること)。これらについては昨日オーサーコメントで触れたので、参照して欲しい。

女性は勤務先からしばらくの休職を求められた後、翌日解雇された。またNYC Commission On Human Rights(ニューヨーク人権委員会)は27日、人種差別問題として、調査に踏み切った。

日本に住んでいれば「これで解雇になるのか」と思うかもしれない。しかし、上の会話の内容で「アフリカ系アメリカ人」のところを「日本人」や「アジア人」に置き換えて想像してみたら、問題点がよりわかりやすいだろう。何度も「日本人」や「アジア人」を強調されて通報されたとしたら、アジア系へのヘイトではないかと不審に思うのは当たり前だ。

アメリカでは、会話の中で人種や民族について触れることは必ずしもタブーではない。しかし、かなり注意が必要だ。まず相手との間柄やシチュエーションによって許容されたり、タブーになったりする。また同じ人種や民族間同士なら許容される表現でも、異人種だったり、ネガティブなシーン(注意、侮辱、悪い噂を立てるときなど)でわざわざ何人(ナニジン)、何系、体や顔、髪型などの特徴について触れることで、相手の逆鱗に触れることにも繋がりうる。

(* 特徴についての言及は、よほどの間柄でない限り、黒人以外でもタブーなので注意が必要)

この女性はなぜ「アフリカ系アメリカ人」と何度も強調したのだろうか?

「黒人男性に襲われた女性」を演じることで、早く警察を出動させたかったのかもしれない。また、自分にとって有利になるように物事を展開させたかったのかもしれない。しかしこの男性は何も危害を加えていないどころか、近寄っているのは女性の方で、男性は「近寄らないで」と言っている。

女性はその後CNNを通して謝罪し「怖かっただけで、自分は人種差別主義者ではないし、あの男性やアフリカ系アメリカ人コミュニティを脅かす意図はなかった」と釈明した。

それに対し男性は、「彼女の謝罪は誠実だが、人種差別主義者でないという発言について私は何とも判断できない。そしてあの時の『行動』は人種差別だと言える」と表明した。

筆者は個人的に、いくら自分は人種差別主義者ではないと言ったとしても、心の奥底に差別の意識が少しでもあれば、平常時は出なかったとしても、非常時や興奮した時(そして冗談など)に「本音」が思わず出ると思っている。

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  • 差別的意図がなくても、行為そのものが人種差別的なDNAを含んでいることがあるので、注意が必要。

日本でも最近、ソーシャルメディアで誹謗中傷を受け、死に追い詰められた木村花さんが話題になった。ここアメリカでも筆者はアメリカ人の知人からこの件について教えてもらったくらい、一部で話題に上った。

このセントラルパークの口論の件についても、ソーシャルメディア上ではまだまだ収束しそうにない。ツイッターでは女性の名前にハッシュタグが付けられ、さらにはクセのある白人中年女性をネット上で指す場合によく使われるKaren(カレン)と言う古風な名前にもハッシュタグが付けられ、この件が今も拡散し続けている。

被害男性はこれについて、「彼女のもとへ死の脅迫メッセージがたくさん届いていると聞いているが本望ではない。そのような嫌がらせは不適切であり、即刻やめるべきだ」と発言した。

もともとこの2人の口論は、相手の忠告を聞いておけばここまでの問題に発展しなかったはず。女性は注意された時点で素直にリードを付けるべきだっただろう。

人種差別を無意識にしてしまった女性側は、反省すべきことをきちんと反省し2度と同じ過ちを繰り返さないように、で良いではないか。相手を執拗に攻撃して、その人の人生まで全否定したり、死に追い詰めたりするような書き込みは間違っている。

(*Updated: 男性が行った録画の記述について、本文の一部に修正を加えました)

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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