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菓子業界のミライ⑥imperfect表参道 日常で気軽に社会貢献。一人一人の行動が世界を変える大波に

笹木理恵フードライター
「imperfect表参道」で扱う商品の一例 ※画像提供/imperfect

SDGs、エシカル、サステナブル…。地球環境や世界の様々な問題に対してアクションを起こし、よりよい社会にしていこうという活動が、日本でも徐々に浸透しつつある。菓子業界も例外ではなく、フードロスやプラスチックごみの削減、エネルギー資源の節約、温室効果ガス排出量の削減、労働環境の改善、資源のリサイクルなどに取り組む店が増えてきた。消費者の価値観も変わりつつあるいま、よりよい未来のための行動がより求められている。そうした中、ユニークな取り組みで消費者への情報発信を続けている店がある。2019年7月にオープンした「imperfect(インパーフェクト)表参道」だ。

表参道ヒルズに店を構える「imperfect表参道」※画像提供/imperfect
表参道ヒルズに店を構える「imperfect表参道」※画像提供/imperfect

同店では、「Do well by doing good.(いいことをして世界と社会をよくしていこう)」をコンセプトに、社会的・環境的価値の高い取り組みを通じて生産されたナッツやスパイス、カカオ、コーヒーなどを掛け合わせた「ウェルフード&ドリンク」を販売している。ここでいう「社会的・環境的価値の高い取り組み」とは、生産国の農家の自立支援や、環境に配慮した生産方法、女性の自立支援、フードロスを減らす取り組みなど。オーガニックやフェアトレードといった一般的な枠組みにとらわれず、幅広い視点から「社会をよくするための取り組み」を定義しているのが特徴だ。

売上の一部で実行する生産地支援を、消費者の投票制に

店内に設置された投票ボックス ※画像提供/6D
店内に設置された投票ボックス ※画像提供/6D

さらにユニークなのは、単に商品を提供するだけでなく、消費者が食と農の社会課題に触れるきっかけを提供し、商品の購入などを通じて社会課題のアクションに参加できるという仕組みを作っている点だ。代表的なのは、店内に置かれた3つの投票ボックス。①環境、②教育、③平等、というプロジェクトテーマが掲示されており、商品を購入したお客はレジでチップを受け取り、応援したいテーマに投票。1年間で最も票を集めたプロジェクトを、売り上げの一部を活用して生産地現地で実行するというものだ。第一弾では「2万本の苗で森と生き物の命をまもろう!」が最も票を集め、コートジボワール共和国にて2万1,000本の苗の植樹を実行。第2弾では「女性たちの農の学びを支えて平等な社会を!」が選ばれ、ブラジルの女性6名に学びの機会をサポートするプロジェクトを提供している。

よりよい社会を作る行動が、消費のメインストリームに

imperfect表参道を運営する佐伯美紗子さん ※画像提供/ethica brand studio
imperfect表参道を運営する佐伯美紗子さん ※画像提供/ethica brand studio

ブランド設立の経緯について、立ち上げメンバーで現在は代表を務める佐伯美紗子さんは、「社会や経済の仕組みを変えたかった」と明かす。幼少期をアメリカで過ごし、子どもの貧困を目の当たりにした経験や、前職で世界各地から食の原材料を調達する事業に携わるなかで得た産地とのネットワークが、新規事業の構想に繋がったという。開業の地に表参道を選んだのは、「世の中を変えるためには、情報発信がしやすく、共感が伝わりやすい場所がいい」と考えたからだ。

「近年、サステナブル、SDGsといった言葉をよく耳にするようになりましたが、実際に何をすればいいんだろう?という人も少なくないと思います。そうした中で、毎日の生活を大きく変えなくても、気軽に取り組める場として『インパーフェクト』を作りました。開業当時は、消費者のアクションによってよりよい社会をつくっていくという構図はまだ珍しかったですが、今後、次の消費のメインストリームになっていくだろうと考えていました」。

消費者がいかに興味・共感をもてるかがカギ

開業以来の人気商品「チョコレートバーク」4種類を詰め合せた「チョコレートバークボックス」 (9枚入り2,000円) ※画像提供/imperfect
開業以来の人気商品「チョコレートバーク」4種類を詰め合せた「チョコレートバークボックス」 (9枚入り2,000円) ※画像提供/imperfect

商品は、ミツバチの生育環境を整えながら育てられたアーモンドなどを使った「グレーズドナッツ」と、産地支援を行なっているコーヒーからスタートし、カカオ豆から作るチョコレート、廃棄されてしまう国産のオーガニック栽培の果物を使ったアイスキャンディー など、商品のバリエーションも増えてきた。素材を選定する基準は、第一に「その素材を使うことが、社会課題を解決することに繋がるかどうか」。加えて、商品として売るためには、「日本人が興味・共感をもちやすい課題」であることも重要だという。「プロジェクトの第一弾では、農園の人が抱えている課題で、かつ日本人に関心をもってもらえるものとして、『環境』、『平等』、『教育』の3つのカテゴリーを掲げました。また一方で、産地の農家の方々も、最初から100%我々の取り組みに賛同してくれるわけではありません。カカオが育つ森を育てる為の植林や、カカオの実に適切な日差しが当たる様に適切にカカオの木を剪定する等でカカオがより育つ農業方法を伝えるといった 活動を何年も続けて、その結果としてカカオの品質が上がって、それにより収入が上がる、といった具合に、継続することで成果が見えてくることが大事だと考えています」。

老舗企業との協業で、社会への影響力を高める

日新化工から発売された「サステナブルチョコレートダークカカオ 70%」※画像提供/imperfect
日新化工から発売された「サステナブルチョコレートダークカカオ 70%」※画像提供/imperfect

近年は社会に対する影響力をより高めるために、企業との協業にも積極的に取り組んでいる。2022年4月には、70年以上の歴史を持つ業務用製菓材料メーカーである日新化工と協業し、サステナブルに生産されたカカオ豆を使った製菓用素材「サステナブルチョコレートダークカカオ 70%」を発売。売上の一部が、ガーナでのカカオの森を守る植樹活動や、女性の地位向上のためのプロジェクトの活動資金に充当される。チョコレートを使用する人は、事業の規模を問わずガーナのカカオ農家へ直接貢献でき、さらにインパーフェクトからの情報発信によってプロジェクトの内容と成果を消費者に伝えられるという仕組みだ。さらに7月からは、製菓用小麦粉の高級ブランド「宝笠印粉」シリーズで知られる増田製粉所とともに「宝笠スイーツ・スマイル・プロジェクト」を始動。「宝笠印」の小麦粉の売上の一部を、マレーシアの熱帯雨林の保護活動に寄付するという。

「パティシエや職人の方はチョコレートや小麦などの素材と毎日向き合い、環境や社会、地域コミュニティへの意識が高い。そうした中で、製菓業界で歴史があり、市場規模も大きな企業との協業によって個人のケーキ屋さんにも私たちの取り組みに参加してもらえることは、とても大きな意義があると感じています。サステナブルな活動は、競合他社でも歩みを一緒にできるという特殊性があり、いずれは製菓業界だけでなく、包材やアパレル、エネルギー産業など、いろんな業界の橋渡しになれる可能性もあるのではと期待しています」。

※「菓子業界のミライ」シリーズでは、今後も新しい取り組みで、製菓業界の未来を切り拓こうとする企業やパティスリー、シェフなどを取材していきます。

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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