日本代表に追加招集の武藤嘉紀は誓う。ニューカッスルで「ポジションを奪い返す自信はある」
12月15日に行われたハダースフィールド対ニューカッスル戦後のピッチに、黙々と練習をこなす武藤嘉紀の姿があった。
最初は武藤を含めた控えの3選手がスプリントを行っていたが、気がつくとほかの2人は先に切り上げ、最後は武藤ひとりになった。この日の気温は0度。降りしきる雨の中、長い距離のダッシュを終え、武藤は肩で息をする。しばらくすると、フィジカルコーチがそばに歩み寄り、先月の試合中に痛めた左ふくらはぎの状態を確認した。
このハダースフィールド戦で、武藤はふたたびベンチスタートを命じられた。タッチライン際で断続的にアップを行っていたが、ニューカッスルが1−0で勝利した一戦で、最後まで出番はなかった。ふくらはぎの怪我から復帰後、これで3試合連続で出番なし。一時は定位置を掴みかけていたが、負傷離脱が転機になってしまった。
試合は、ハダースフィールドにボールを握られる苦しい展開になった。しかし、ロングカウンターに狙いを定めたニューカッスルは慌てない。守備時は5バックに変形する3−4−2−1でディフェンスを固め、手数をかけないカウンターでゴールを狙った。すると55分、ニューカッスルが電光石火のカウンターで先制に成功。それまでチャンスらしいチャンスのなかったニューカッスルが1点を奪うと、ラファエル・ベニテス監督は守備に重心を置く5−4−1にシステムを切り替え、そのまま逃げ切った。
試合後、武藤は出番がなかったことに「仕方がないですね」と語りながらも、「やっぱり悔しいです」。さらに、次のように言葉をつないだ。
「チームが守りに入ると、前の選手は使ってもらえない。信頼されていないと(使われない)ということなので…。だけど、こういう状況から何度も這い上がってきた自信もあります。絶対にポジションを奪い返す自信もあるので、とにかく今は前向きに。これで落ち込んでいたら、それこそポジションを奪い返せなくなってしまう。とにかく前向きにやっていきたい。
今日の戦術では、(攻撃陣は)『全部、相手の裏に抜けろ』と言われていた。だけど、それができなくて前半は押し込まれた。後半に一本、みんなが裏に抜け出して点をとれた。戦術的には絶対に自分が活きてくると思う。だからこそ、前向きに。コーチたちも、ふくらはぎのことをすごく心配してくれていますけど、これ以上ズルズルいって、ポジションを奪い返せないのも自分としては納得できないので。とにかく、コンディションを上げていかないと」
チームの紅白戦では、3−4−2−1の最前線「1」や、トップ下の「2」の位置でプレーしているという。しかし1トップのポジションでは、レギュラーを務めるベネズエラ代表FWサロモン・ロンドンが好調。ハダースフィールド戦でも決勝ゴールを決めるなど、直近6試合で4ゴールを挙げる活躍を見せている。一方、トップ下の位置でも、スペイン人のアジョセ・ペレスが調子を上げてきた。
「とにかく、(先発メンバーから)ロンドンが変わらない。それでアジョセ(ペレス)も悪くない。しかも、今日の試合もこういう風に勝った。監督としても『最後に何かしらやってくれるんじゃないか』という期待感があって代えられないと思うので。だから、自分が途中から出て点を決められることを見せないといけない」
ポジション奪回のチャンスがあるのは、2枠あるトップ下だろう。ペレスとコンビを組むMFクリスティアン・アツは攻守両面で存在感が薄く、武藤が割って入る隙は十分にある。
それでも、調子の悪くないチームをいじりたくないのか、武藤のコンディションを不安視しているのか、あるいは、守備の点でアツの方を評価しているのか。ベニテス監督は、アツを継続起用している。武藤が言うようにゴールでアピールしたいところだが、ピッチに立たないことにはネットも揺らせない。武藤としては、もどかしい状況が続いている。
ただ、ここからプレミアリーグは年末年始の過密日程に突入する。22日のフラム戦を皮切りに、26日のリバプール戦、29日のワトフォード戦、1月2日のマンチェスターU戦と連戦が続く。武藤にも、どこかのタイミングで先発のチャンスが回ってくるのは間違いない。そのチャンスを活かせるか──。年末年始は、武藤にとって今シーズンのターニングポイントになりそうだ。
そして、18日には浅野拓磨(ハノーファー96)の負傷離脱に伴い、武藤が日本代表に追加招集された。「代表で戦うことはやっぱり素晴らしいこと。モチベーションになる」と語っていた武藤。アジア杯に向けても、コンディションを上げていきたいところだ。