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姉の不幸が自分の幸せ。狂気じみた妹を演じる浅川梨奈が「イヤな女の役の愛おしい部分を見つけました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)さいマサ/エブリスタ(C)竹野筍・ましき/comico(C)NTV

幸せな結婚生活を送る姉を、親密に見えた妹が不幸に陥れていくドラマ『どうか私より不幸でいて下さい』。姉の不幸が自分の幸せと、夫を奪う妹を演じているのは浅川梨奈。狂気じみた策略を巡らす裏表のある悪女役が、強烈なインパクトを残している。この役への取り組みと、ひとり立ちして5年の女優活動で培ったものを聞いた。

不倫は絶対しないので演じるのは楽しいです

――「不倫ドラマで演じてみたかった」とコメントされていますが、そういう作品を観ていたんですか?

浅川 ドラマをいろいろ拝見していた中で、最初に『昼顔』を「わっ、すごい」と思いました。マンガでもドラマ化された『ギルティ』とか、面白いと思ってサイトで購入することが多かったのが、このジャンルでした。

――役者としては演じ甲斐もあると?

浅川 不倫って私は絶対しないので、新鮮な気持ちで観られたのと、演じるうえで楽しいのは、普通できない経験をすること。悪い女って実際にいたらイヤでも、演じる分には一番楽しい、というのはありました。

――人間の生々しい感情も出てきて。

浅川 イヤな部分、醜い部分、裏と表を描いたりしますよね。今回の志保もそうで、台本を読んで「これ、これ!」という。本当にやりたかったタイプの役でした。

――外面が良くて裏でニヤッとしている感じが、すごくハマっています。

浅川 それは良いことですか(笑)? 自分と似ている部分は1コもないから、どうしようかと思いましたけど、愛おしい部分や理解してあげられる気持ちは結構あったので、そういうところからイメージを浮かばせました。

理由が描かれていくと共感より同情します

――コメントでも「志保はとても愛らしい子」とありましたが、どういう部分でそう思いました?

浅川 不倫する側とされる側だと、どうしてもする側がイヤな女に見えますよね。志保もイヤな女の子ではあって、「こいつ嫌い」となると思いますけど、観ていくにつれて、気持ちがわかる部分が出てきます。共感というより同情。どうして志保がお姉ちゃんの景子に、ひどいことをしているのかが描かれていくほど、何だかんだ言っても、お姉ちゃんのことが好きなんだろうなと。執着するくらい気になって、その愛情がうまく表現できず、こんなアプローチになってしまう。そういうところは愛おしく思いました。

――小さい頃からの屈折があったようで。

浅川 そうなんです。私はひとりっ子で経験ないですけど、姉妹で比べられたり、親の愛情を自分よりお姉ちゃんのほうが受けているように感じてしまう、という話は聞きます。お姉ちゃんを不幸にするための行動も、きのう今日に始まったのではなくて。子どもの頃にものを隠したりから、どんどんエスカレートしただけで、志保の中ではルーティンみたいになっているんです。とんでもないことをしていますけど、お姉ちゃんが不幸になるのが自分の幸せだと、カン違いしている感じがしました。

奪うものは何でもよくて反応が楽しみで

――念願の不倫もので主演して、実際楽しいですか?

浅川 めちゃめちゃ楽しいです(笑)。普段やらないことをして、いろいろな顔を見せていく。表面的な姿、心の中の姿、お姉ちゃんといるとき、(姉の夫の)信一さんといるとき……。演じていくうえでは面白い反面、難しくもありました。

――お姉さんの夫を奪うのも、演じる分には楽しいと?

浅川 やっていることが楽しいというより、お姉ちゃんの反応ですね。自分がこういうことをしたら、お姉ちゃんはどうするんだろう? その反応が満足のいくものだから楽しい。奪うものは別に何でもいいんです。ダンナさんでも彼氏でも親友でも、引き剥がしたときにお姉ちゃんがどんな顔をして、どういう気持ちになるのか。志保はそこにしか執着していません。

――そのために周到な計画を立てていて。

浅川 すごく頭がいい子ですけど、そんなことに人生を賭けている感じで、ある意味アホですね(笑)。

――信一に関しては「何もかもが私の理想だった」とも言ってました。

浅川 志保は信一さんを好きだとは思います。でも、何をやるにも第一にお姉ちゃんを困らすことが前提で、私もそれ以外の気持ちはほぼ考えていません。

――姉夫婦と食事していて、テーブルの下で脚で信一の太ももをツンツンしている場面もありました。

浅川 何をしているんだろう? って感じでした(笑)。狂気じみていることだと、そういう1コ1コの行動もですけど、1話からいい子に見えた志保が裏でこんなことを考えていた……というところに一番出ていて。すべての行動が繋がっていて、お姉ちゃんを不幸にする計画のため。怖いなと思います。

表面と心の中が違うまま接するのが難しくて

――難しいのはどんなことですか?

浅川 モノローグ部分で、心の声を映像でも別録りしていて。そこでどんな表情をするか。表面ではこんな顔をしているけど、心の中ではこう思っていて……とか考えながら、お姉ちゃんと接するのは難しいです。序盤では台詞にある通り、志保がかわいらしくて天使のような子でいるために、どうするかばかり考えていました。やさしくて明るくて、誰とでも仲良くできる。お姉ちゃんとは真逆の太陽みたいな子、というのを前半はずっと意識していました。

――それが後半に裏の顔が出たときに、ギャップとして効くわけですね。

浅川 できるだけ効くようにしました。後半でいろいろあったあとの志保はだいぶ変わっていくので、そこは見どころかなと思います。

――原作マンガの志保は、悪魔的にイヤ~な顔を見せてます。心の声のシーンでの梨奈さんの表情もすごいですね。

浅川 マンガで描かれた表情を実際にすることはできませんけど、「このシーンではこういう顔をしていたな」という狂気じみた笑顔は、常に頭に入っていました。

普通の生活に幸せを見つけるのが一番です

――回想シーンでは、姉の恋人を「奪うのは簡単だった」というモノローグもありました。男がなびいてしまう女性像は、梨奈さんだと自然に醸し出せるものですか?

浅川 志保は愛想が良くてかわいらしいから、初めて会ったときは誰にでも好印象を持たれるのは、演じるときに気をつけていました。声のトーンを明るく聞こえるようにしたり。耳から入る印象って、見た目と共にだいぶ大きいと思うんです。だから、できるだけかわいらしい印象を持たれる発声は心掛けました。

――『快感インストール』や『おとななじみ』でのモテ女の役もハマっていましたし、そういうのは得意だと?

浅川 そんなことはないです。一時はホラーで人を殺す役ばかりやっていましたから(笑)。

――志保のモノローグでは「毎日ごはんを作って、夫の帰りを待つことに幸せを感じるような平凡な女とは、私は違う」ともありました。梨奈さんはそういう生活に幸せは感じられそう?

浅川 普通が一番です。刺激なんて要りません。帰る家があって、食卓を囲んで、温かいごはんを食べられる。そういうことに幸せを見出せないのは良くないです。当たり前の生活に幸せを見つけられることが一番だと、私自身は思っているので。

――華やかな芸能界にいても、そういう感覚なんですね。

浅川 別にこのお仕事が華やかだとも思っていません。平凡な生活を送れることがどれだけ幸せか、志保に教えてあげたいです。

2匹の猫が成長していくのが見られて

――今はどんなことに幸せを感じていますか?

浅川 うちに猫が2匹いて、元気にごはんを食べて、スヤスヤ気持ち良さそうに寝ているのを見るのが幸せです。すごく手が掛かるし、しょっちゅうケンカをするし、朝起きたら、たぶんお兄ちゃんにむしられた弟の毛がいっぱい落ちているんです(笑)。「またやられたんだね」と言いながら掃除しますけど、そういうことが子育てでもあるので。どんどん大きくなって、ジャンプも高くなったり、成長していくのを見るのが一番幸せかな。

――完全にお母さん目線ですね。

浅川 たぶんそうだと思います。今回の現場でも、赤ちゃんと4歳くらいの子役の女の子がいて、すごく仲良くなれました。普段猫を育てているから、小さい子との接し方も昔よりわかるし、赤ちゃんを笑わすこともできて嬉しかったです。

――インスタでは猫の写真と共に、舞浜通いの写真もよく上がっています。

浅川 休みがあれば行きますし、今回のドラマでも、撮影が終わって「じゃあ、行ってきます!」と何回やったことか。クランクアップの日も「お疲れさまでした。では」と、もらった大きい花束を持ったまま、舞浜に行ったので(笑)。そのふたつが私の幸せですね。

役の気持ちを読み取って熱量を持てるように

――グループを卒業してから5年になりますが、女優として順調に歩んでいますね。

浅川 順調なのかはわかりません。昔からスロースターターで、理想よりはずっとのんびりだと思っています。でも、こうしてお仕事をいただいて、いろいろな役をやらせてもらっているのはありがたいです。

――自分の成長を感じることもありますか?

浅川 役の気持ちを読み取ることは、昔よりはできるようになった気がします。昔は自分と掛け離れた役だと理解できなくて、想像の中でやっていたんです。今回の志保も掛け離れすぎていて、共感できることはないですけど、寄り添ってあげたい部分を見つけて役作りをしました。いただいた役は自分が一番理解してあげてないといけない。愛してあげられるところを探すことによって、以前より熱量を持って演じられるようにもなったと思います。

――準備の仕方も変わりましたか?

浅川 それは昔から変わらないかもしれません。衣装合わせで監督さんとお話ししたうえで、台本を読みながら役を入れていく。私は憑依型ではないので、ずっと役を引きずって生きることはなくて。カメラ前に立ったらスッと役を下ろすタイプで、そこもあまり変わっていません。カットが掛かったら、すぐゲラゲラ笑っていたり。

――今回の修羅場的なシーンでも、集中して気持ちを高めたりはせず?

浅川 私も景子役の吉谷(彩子)さんも、泣きのシーンの直前まで笑っているタイプなんです。2人で笑いすぎて、助監督さんに「はい、やるよ!」と言われたこともありました(笑)。感情を入れるシーンでもフラットな感じでいます。

ちゃんとやるときとふざけるときのメリハリを

――この5年で壁にぶつかったようなこともないですか?

浅川 たぶんぶつかってはいますけど、寝たら忘れてしまいます。反省しないといけないことはずっと持ち続けていても、多少のことだったら、引きずっても仕方ない。「よっしゃ、次頑張ろう!」となって、そんなに悩んだりはしません。

――ここまで出演作が途切れず、今回はW主演まで務めたのは、自分の何が強みになっていると思いますか?

浅川 良くも悪くも私は素直なんです。いつもこのまま。現場でもずっとしゃべって、にぎやかにしていて。今回はアップのとき、監督の長尾(くみこ)さんに「現場の空気を作ってくれて助かった」と言われて良かったです。他の現場でもそう言っていただくことは多くて、自分でも意識している部分ではあるので、強みはうるさいことですかね(笑)。

――吉谷さんも「普段は明るく盛り上げてくれて、スイッチが入ると、しっかり役者の顔になる」と話していました。

浅川 やるときはちゃんとやる、ふざけるときは誰よりもふざける、というのが私のモットーです。メリハリを大事にしているところはあります。

自信がないのは乗り越えてフラットになりました

――以前は「自分に自信がない」という発言もありましたが、今は自信が付きました?

浅川 自信を付けたことは一度もないですけど、自信がないのは1コ乗り越えてフラットになりました。気負ったりしないし、自分を過大評価も過小評価もしない。今は自信がなくもないし、あるわけでもない、という感じですかね。

――気づいたら、そうなっていたわけですか?

浅川 気にしても仕方ないことはいっぱいあるし、観ている人が評価してくれたら、それが結果。自分でしんどい方向に追い込んだって、いいことはありませんから。かと言って、自信満々に振る舞っても「どうした?」ってなるし(笑)、今くらいがちょうどいいのかなと思います。

――年齢を重ねて、大人として成長したところもあるみたいですね。

浅川 成長しているのか、してないのかわかりません。久しぶりに会った人には「変わらないね」と言われます。

物語が動いて意外と救いもあります

――『私より不幸で』の後半は、より熾烈な展開になっていくんですか?

浅川 景子もどんどん動いていくし、志保もパワーアップしていく。物語が大きく動いて、最後の最後まで「こういうふうになるんだ!」と、台本を読んでも演じていても思いました。意外と救いもある感じです。スピード感がすごいので、観てくださる方はぜひ頑張ってついてきていただいて、後半も楽しんでもらえたら。

――そんな中で、梨奈さんはこの夏をどう過ごしますか?

浅川 夏は暑くて日差しも強いから、舞浜にはあまり行きません。その分、1ヵ月はちゃんと貯金をして、ハロウィンに備えたいと思います(笑)。

エイベックス・マネジメント提供
エイベックス・マネジメント提供

Profile

浅川梨奈(あさかわ・なな)

1999年4月3日、埼玉県出身。2017年に『人狼ゲーム マッドランド』で映画初主演。主な出演作は映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』、『おとななじみ』、ドラマ『親愛なる僕へ殺意をこめて』、『大病院占拠』、『帰ってきたらいっぱいして。』など。ドラマ『どうか私より不幸でいて下さい』(日本テレビ)に出演中。映画『赤羽骨子のボディガード』が公開中。2025年3月に舞台『きたやじ オン・ザ・ロード~いざ、出立!!篇~』(日本青年館ホール、SkyシアターMBS)に出演。

ドラマDEEP『どうか私より不幸でいて下さい』

日本テレビ・火曜24:24~

出演/吉谷彩子、浅川梨奈、瀬戸利樹、村瀬紗英ほか

公式HP

(C)さいマサ/エブリスタ(C)竹野筍・ましき/comico(C)NTV
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埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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