オバマ元大統領が「家康」でトランプ前大統領が「信長」ならばバイデン大統領は「秀吉」か!
バイデン政権の対北政策が定まったようだ。結論から言うと、北朝鮮の非核化が目標であることは歴代大統領と変わりはないが、解決策は副大統領として仕えたオバマ政権の方式でもなければ、前任のトランプ政権の方式でもなく、その中間を採用するとしている。トランプ前大統領の「オールオアナッシング」方式も、またオバマ元大統領の待ちの姿勢も取らず、実用的にアプローチし、段階的な合意を目指すとしている。
(参考資料:米国の政権交代の度に振り出しに戻る米朝関係 クリントンーブッシューオバマートランプ政権下の「合意」)
実際に、この対北政策を立案した一人であるサリバン大統領補佐官は昨日、米ABCに出演し、「朝鮮半島の非核化という究極的な目標に向かってオールオアナッシング方式よりもより調整された、実用的で慎重なアプローチを取る」と説明していた。簡単な話が、オバマ政権の「戦略的忍耐政策」でも、トランプ政権の「オールオアナッシング政策」でもない、その中間の策を取り入れるとのことだ。
(参考資料:バイデン新政権の対北政策で検討されている「ペリー報告」とは?)
北朝鮮(金正恩委員長)をあえて「ホトトギス」に例えるとすると、「オバマ方式」は「鳴かぬなら鳴くまで待とう」、「トランプ方式」は「鳴かぬなら殺してしまえ」、そして「バイデン方式」は「鳴かぬならば鳴かせてみよう」ということかもしれない。まさに、3人の大統領を日本の戦国の武将に例えるならば、オバマ元大統領は我慢強い徳川家康、トランプ前大統領は気の短い、激しい気性の織田信長、そしてバイデン大統領は知恵を凝らす策士の豊臣秀吉と言っても良いかもしれない。
オバマ政権の対北政策は「戦略的忍耐政策」である。北朝鮮が核を放棄するまで制裁と圧力を続けていけば、そのうち北朝鮮が手を上げるというものであった。
オバマ元大統領自身も「地球上で最も孤立し、隔絶されている。国民を食べさせることもできない。このような体制は結局崩れることになるだろう」とみて、経済制裁と外交的圧力を加え、兵糧攻めにすれば、北朝鮮は白旗を上げると楽観視していた。
実際にオバマ政権は北朝鮮が非核化の措置を取るまでは制裁も外交圧力も緩めないどころか、金正恩委員長と党・軍幹部ら11人を「人権抑圧者」「人権犯罪者」と告発し、「制裁対象」に指定するなど心理的プレッシャーも掛けた。
しかし、制裁と圧力を掛け続けていけば北朝鮮が音を上げるとの2009年から2016年までの8年にわたる「鳴くまで待とう」の「戦略的忍耐政策」は皮肉なことに北朝鮮に時間的余裕を与え、4度の核実験と長距離弾道ミサイル開発向上という逆結果を招いてしまった。
一方トランプ政権は一転、「戦略的関与政策」を取った。北朝鮮の核とミサイル開発を止められない場合は、「軍事力の行使も辞さない」と北朝鮮を威嚇した。
トランプ前大統領は2000年の大統領選に自らがつくった政党「改革党」の候補として出馬した際に出版した著書「我々にふさわしい米国」で「私は好戦狂ではないが、北朝鮮の核脅迫と米国の人命被害を防げるならば大統領として通常兵器を利用して北朝鮮の目標物を打撃する命令を下す準備ができている」と綴っていた。
トランプ政権の対北朝鮮政策には米韓特殊部隊を北朝鮮に派遣し、金正恩総書記の除去(殺害)と先制攻撃もオプションに含まれていたのは周知の事実である。トランプ大統領自身も2017年には「軍事的解決策が完全にでき、スタンバイの状態にある」として「北朝鮮が米国を脅かすなら今すぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」と発言し、国連での演説でも「米国と同盟を防御すべき状況になれば、他の選択の余地なく北朝鮮を完全に破壊するだろう」と威嚇していた。
幸い、米国がレッドラインとしていた中長距離弾道ミサイル「火星12」のグアム包囲作戦の一環としての4連射や模擬の水爆を搭載した大陸間弾道ミサイルの太平洋上の発射実験を北朝鮮が自制し、米朝交渉への復帰を表明したことで軍事行動を取ることはなかった。しかし、1期で終わったこともあって、トランプ政権も北朝鮮の非核化を達成することはできなかった。
「オバマ方式」でもなく、「トランプ方式」でもない、「バイデン方式」が功を奏するかはひとえに北朝鮮の対応にかかっているが、オバマ政権の時代から「米国の対朝鮮敵対視政策と核脅威の根源的清算なくしては、100年経とうと我々が先に核兵器を放棄することはない」(2009年1月13日付の北朝鮮外務省談話)と言い続けてきた北朝鮮が制裁の緩和、撤回なくしてバイデン政権との非核化交渉に応じるとは考えにくいが、ここはバイデン政権の腕の見せ所である。