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15分で検査結果が出る「新型コロナウイルス抗体検査キット」とは?

柳田絵美衣臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士
以前からウイルスや細菌の感染検査に用いられてきた検査(写真:ロイター/アフロ)

■背景

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の世界的な感染拡大を背景に、国内ではPCR法による検査が行われてきた。この方法は遺伝子の増幅を行う検査であるが、結果が出るまでに時間を要する。検査も煩雑で、設備や機器も必要となる。そのため、簡便で迅速な検査方法のニーズが高まってきた。そんななか、多くの民間企業や研究所が新型コロナウイルスの簡便な検査方法や試薬の開発を進めている。

現在、開発・販売され始めた検査キットの中に「イムノクロマトグラフィー法」を原理としたものがある。以前から、細菌感染やウイルス感染の有無を判定する際に利用されている方法である。

■ウイルス感染による血清抗体

ウイルス抗体検査では感染初期に出現するIgM抗体検出、既往の感染有無にはIgG抗体検出が有用となる。感染時に体内で生成される抗体を検出することにより、感染初期の患者に対しても判定が可能である。ウイルス感染後に産生されるIgG抗体は、発症後1週間ほど経過した後に上昇する。その時点での感染状態を必ずしも反映しない場合もある。だが、新型コロナウイルス(COVID-19)は、多くの症例において潜伏期が数日~2週間程度と比較的長く、症状が出現してから約5~7日程度経過した後に、症状が急速に悪化し肺炎に至る。そのため抗体の有無が、確定診断や治療法の選択に役立つことが期待されている。

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先端医科学研究センター 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者血清中に含まれる抗ウイルス抗体の検出に成功

■新型コロナウイルス検査キット

イムノクロマトグラフィー法を原理とした新型コロナウイルス(COVID-19)の検査キットは、新型コロナウイルス感染の初期に体内で産生されるIgM抗体と、IgMより遅れて産生・増加するIgG抗体を、金コロイドを用いて測定する。一滴の血液検体から簡便に測定でき、10~15分で検査結果が得られる。

キットの感度、特異度ともに90%以上というデータが出ている。

塩野義製薬株式会社 新型コロナウイルスIgG/IgM抗体検査キット製品の導入に向けた マイクロブラッドサイエンス社との業務提携について

*感度:感染陽性者を「陽性」と判定する確率のこと

*特異度:感染していない人を「陰性」と判定する確率のこと

■イムノクロマトグラフィー法による新型コロナウイルス(COVID-19)検査

キットのろ紙(セルロース膜など)上を被検体が試薬を溶解しながらゆっくりと流れる性質(毛細管現象)を応用した測定法である。検体中のIgM、IgGは、検体滴下部にあらかじめ準備された金コロイドで標識された抗原(標識抗原)と免疫複合体(これを抗原抗体反応と呼び、目的の抗原とその抗原に対応する抗体は「鍵と鍵穴」の関係のように結合する)を形成しながらキットのろ紙上を移動する。キットのろ紙上の1本目の判定部位にあらかじめ固定化された抗体は抗原と結合した抗体(IgM、IgG)をトラップし、金コロイドが蓄積して呈色(色がつく)する。それを目視により判定する。

抗原と同じように検体滴下部位に準備されていた金コロイドで標識された抗体は、そのままキットのろ紙上を移動する。2本目の判定部位にあらかじめ固定化された抗体は、この金コロイドが標識された抗体をトラップし、金コロイドが蓄積して呈色(色がつく)する。それを目視により判定する。つまり、2本目の判定は「きちんと検体が最後まで流れて移動した。(検査完了)」を意味する。

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(参考)XueFeng Wang ORCID iD: 0000-0001-8854-275X

Development and Clinical Application of A Rapid IgM-IgG Combined Antibody Test for SARS-CoV-2 Infection Diagnosis

■陽性・陰性となる原理

感染陽性の場合、1本目の判定部位と2本目の判定部位に色がつく。

陰性の場合は、2本目の判定部位のみに色がつく。

2本目の判定部位に色づきが無い場合は、検査失敗を意味するため、再検査が必要となる。

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■キットの検査手順

1、血液検体をピペッターでキットの検体滴下部位に滴下したのち、検体希釈液(専用試薬)を滴下する。

2、一定時間放置する(反応時間)。

3、目視により判定する。

(二本目の「コントロールライン」で、適切に検査が完了したことを確認する)

■イムノクロマトグラフィー法による検査のメリットとデメリット

メリット

・目視による判定が可能

・特別な装置を必要としない

・簡便

・迅速

デメリット

・目視による判定のため、個人による判定誤差が生じる

・定量試験(どのくらいの量なのか?といった数値で表されるもの)ではない

測定時間、操作方法を守らなければ、陰性、陽性の判定が異なることがある

試薬などのロット間差、試薬間差が存在する

クラボウ(倉敷紡績株式会社) イムノクロマト法を用いて 15 分で判定が可能な研究用試薬キット

検査キットは通常、スクリーニング検査として用いられている。妊娠診断やインフルエンザ感染の有無などの検査キットも同じような原理(イムノクロマトグラフィー法)が用いられている。キットはあくまでもスクリーニング検査であるため、正確な診断の確定は病院で行う(精度の高いPCR検査などを行う)必要はある。検査のタイミングなども判定に影響を与える場合もある。しかし、安価かつ迅速に判定が可能なため、スクリーニング検査の一つとして、検査に貢献してくれることを期待したい。

(すべてのイラスト図は筆者によるもの)

臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士

医学検査の”職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる”サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として活躍。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。現在、米国にある世界トップクラスのがん専門医療施設のAI 病理ラボ研究員として奮闘中。

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