西純矢投手のガッツポーズ問題から考える 感情表現の是非と必要な配慮
国、競技ごとに違う感情表現
世界には色んな国があり、色んなスポーツがある。国や競技ごとの様々なカルチャーがあり、「喜び方」ひとつ取っても違う価値観がある。
1990年代前半、西武ライオンズの黄金時代に活躍をしたオレステス・デストラーデは、本塁打を放つたびに「BOOM」と称される弓を引くようなガッツポーズをしていた。しかしこれは日本限定のアクションで、彼もそう説明していた記憶がある。
メジャーリーグベースボールには派手なガッツポーズを侮辱と受け止めるカルチャーがあり、ビーンボールなどの報復をされる可能性が高い。激しい感情表現、派手なポーズを見せないことが是とされる。
それと逆のカルチャーとしては、南米サッカーが思い浮かぶ。ワールドカップで得点を決めた選手が喜ぶのは当然としても、「育成年代」「日本国内で開催される小さな大会」でも感情表現の激しさが変わらない。特に凄まじいのがアルゼンチンのチームで、彼らはゴール、勝利のセレブレーションになると感情を爆発させ、激しく歌い踊る。
日本国内に話を移すと、卓球の張本智和がポイントを取るたびに喜ぶ姿と「チョレイ」の雄叫びは皆さんにもお馴染みだろう。相撲、柔道などの伝統的な格闘技や、ラグビーは「相手にリスペクトを払い、あからさまに喜ばない」ことを是とする傾向が強い。
日本の野球界はデストラーデの例を挙げれば分かるように、喜びの感情表現に関してやや寛容な傾向もある。一方で高校野球では喜びを表に出さないよう指導する監督もおり、「日本野球はこう」と言い切ることは難しい。
球審が止めた西投手のガッツポーズ
そんな中、8月15日の第100回全国高校野球選手権記念大会2回戦で起こったのが、西純矢投手(創志学園/岡山)のガッツポーズ問題だった。
西投手は高2ながら最速150キロの速球を持つ逸材で、1回戦は創成館(長崎)を相手に16奪三振、四死球0の完封勝利を挙げている。同時に彼は岡山県大会から豪快なガッツポーズが話題になっていた。
その西投手に対して、2回戦で下関国際(山口)戦の試合中に、球審からガッツポーズを控えるよう強い指導があったと報道され、その是非を巡って議論が発生している。
西は下関国際を相手に9四死球を出し、5失点(自責点4)を喫して敗退した。彼のガッツポーズはいわゆるパフォーマンスでなく、なかなか止められない自然な感情表現。「審判の注意で彼の投球リズムが崩れた」とも受け取れる結果だった
問題は決定プロセスと伝え方
派手な感情表現を認めるかどうか。それは国や競技によって違う。日本野球に絞って考えても、プロと高校では許容範囲が違うだろう。例えば「西投手のような感情表現は良くない」という合意、共通理解があるなら、そこにブレーキをかける判断はあっていい。
ただし「試合中に、審判独自の判断で注意する」ことはどうだろう――。
これはガッツポーズに限らず、「二段モーション」などに対する注意も同様だ。今は「バーチャル高校野球」のようなWeb媒体もあり、都道府県大会の映像を簡単に見られる。各選手のプレーと傾向も、事前にチェックができるはずだ。マウンド上の所作、フォームなどに問題があるならば、事前に話をして選手が「消化」できる時間を与えるべきだろう。
「派手な感情表現を許すかどうか」については、然るべき立場の人が議論をすればいい。具体的には日本高校野球連盟(高野連)や、竹中雅彦事務局長がどう考えるかという話だ。しかし今回は「球審が個人で判断をした」「伝えるタイミングの配慮が不足していた」ところが残念だった。