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ペット「カワウソ」の悲惨な境遇とは

石田雅彦科学ジャーナリスト
(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

 コツメカワウソ(Asian small-clawed otter、Amblonyx cinereus)をタイから密輸しようとした男2人が逮捕された。報道によれば、5匹のカワウソのうち発見時に2匹が死んでおり、その後に2匹が死んだという。ペット需要があるため、高値で売買されている闇市場があると考えられるが、日本の住環境でカワウソを飼うことは不可能に近い。

まず合法的に入手できない

 近年、ワシントン条約で国際的な商取引が規制されている動物の密輸入が急増している。今回の事件はコツメカワウソで、国際自然保護連合(IUCN、※1)のレッドリスト(※2)の「VU(危急種)」だ。

 コツメカワウソは、カワウソの仲間の中でも特に小型で愛らしい姿形をしている。動物園で見たりテレビ番組などで紹介されたコツメカワウソに魅了され、ペットとして飼おうと考える人が増え、違法な取引も急増しているのだろう。

 もちろん、ごく少数だが国内の民営動物園などで繁殖した個体が流通し、ペット市場へ出てくることもなくはない。だが、これだけの数では、需要をまかなえないだろう。

 少なくとも上野動物園など公営の動物園から、コツメカワウソがペットとして売りに出されることはありえない。だから、コツメカワウソがペットとして扱われていたとすれば、それはほぼ間違いなく違法に密輸されたものといえる。

 コツメカワウソは、両親を中心とした数匹~10匹前後の大家族で暮らす(※3)。テリトリーは周囲10km前後と広大で、豊かな水辺が必要だ。

ペットとして飼うのは虐待

 つまり、1匹や2匹の野生のコツメカワウソを、日本の狭い住環境で飼うことは一種の虐待と同じことになる。家族とのつながりが強く、仲間同士での音声コミュニケーションが必要なコツメカワウソが、精神的なストレスを感じることは間違いない。

 また、コツメカワウソもアナグマなどと同じイタチ科の動物で肉食獣だ。鋭い牙を持ち、凶暴な一面もある。

 コツメカワウソの密輸が絶えないのは、国内にそれだけの需要があるからだ。ペットとして飼うことは、彼らを悲惨な境遇に落とすことにほかならない。

 日本には、北は札幌市の丸山動物園から南は鹿児島市の平川動物公園までコツメカワウソに会える動物園も多い。コツメカワウソを本当にかわいいと思うのなら動物園で会ってあげて欲しい。

※1:国際自然保護連合(IUCN、International Union for Conservation of Nature and Natural Resources):1948年に創設された国際的な自然保護団体(IUCN日本委員会)。本部はスイス。89の国家会員、129の政府機関会員及び1163の非政府機関会員等が加盟(2017年2月現在)。日本は政府とともに国内のNGO団体などが加盟している。

※2:国際自然保護連合のレッドリストでは、野生生物の保全状況(IUCNレッドリストカテゴリー)において、絶滅(EX)、野生絶滅(EW)、絶滅危惧IA(CR)、絶滅危惧IB(EN)、絶滅危惧II(VU)、準絶滅危惧(NT)、軽度懸念(LC)、情報不足(DD)、未評価(NE)の9段階に分けられている。

※3:Alban Lemasson, et al., "Vocal repertoire, individual acoustic distinctiveness, and social networks in a group of captive Asian small-clawed otters (Aonyx cinerea)." Journal of Mammalogy, Vol.95, Issue1, 128-139, 2014

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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