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【高校野球】仙台育英と石川県・飯田、輪島の交流 2日目

高橋昌江フリーライター
仙台育英と飯田、輪島の交流2日目は練習試合が行われた。写真は仙台育英対輪島

 仙台育英(宮城)で27日から始まった、石川県の飯田と輪島との交流。2日目の28日は仙台育英対輪島、仙台育英対飯田で練習試合が行われた。1月1日に発生した能登半島地震で飯田(珠洲市)、輪島(輪島市)の両校は地元から避難中の部員がいたり、グラウンドも地割れしたりと甚大な被害を受けている。

※1日目はこちら

■輪島・冨水監督「野球を愛する仲間といいゲームをしよう」

 日本海に沈んだ夕陽が朝日となって太平洋を昇る。天気は、快晴。東北地方の中央を南北に走る奥羽山脈もくっきりとその姿を現していた。試合日和だ。

青空の下、気持ちよく2日目がスタート
青空の下、気持ちよく2日目がスタート

 今回、飯田と輪島の男子部員は、仙台育英の須江航監督や部員の自宅に分散してホームステイしている。7時30分前後、ホームステイ先から続々とグラウンド入りし、8時を前に一塁ベンチ前に3校で集合。1日が始まった。

 1試合目を戦う輪島がレフトで、仙台育英がライトでウォーミングアップ。飯田は外野フェンス沿いをランニングし、ストレッチとそれぞれが準備を進めていく。

 9時。キャッチボールを終えた輪島と仙台育英は一塁ベンチ前からグラウンドに飛び出した。シートノックは合同だ。ノッカーは須江監督。両校の選手の元気な声が響く。

シートノックのため、グラウンドに駆け出す仙台育英と輪島の選手たち
シートノックのため、グラウンドに駆け出す仙台育英と輪島の選手たち

一緒にシートノックを行う仙台育英と輪島の選手たち
一緒にシートノックを行う仙台育英と輪島の選手たち

 ノックを終え、三塁ベンチに戻ってきた輪島。冨水監督が円陣で語りかけた。

「野球を愛する仲間といいゲームをしよう。強いとか弱いとか、抑えられたとか打てなかったとか、関係ないから。ワンプレー、ワンプレーに集中して、辛いことやきついことがあっても、それでも前に進む。楽しむ、を体現できるように。反省は後でいいから、どうやって勝てるか、最後まで考えて。試合が終わったら勝ち負けの結果は出ているけど、試合中はそんなこと、関係ないから。できることをしっかりやろう」

 9時20分。3校の部員や関係者がグラウンドに整列。仙台育英の鈴木拓斗(新3年)、蛯原琉伽(新3年)の司会で開会セレモニーが始まった。来賓紹介の後、仙台育英・湯浅桜翼主将(新3年)が「みなさん、おはようございます。本日は天気にも恵まれ、青い空が広がっています。本日一日だけですが、みなさんといい野球ができることを楽しみにしています。本日はよろしくお願いします」とあいさつ。続けて、輪島を代表して中川直重(新3年)が「試合ができることをすごく楽しみにしています。仙台育英高校さんと飯田高校さんと全力で野球を楽しむことができるよう頑張ります」と、輪島・山田恵大主将(新3年)が「今日一日、楽しい思い出になるように全員で野球を楽しんで帰りたいと思います」と決意表明した。

開会セレモニー。輪島、仙台育英、飯田の部員たちの前で須江監督が話す
開会セレモニー。輪島、仙台育英、飯田の部員たちの前で須江監督が話す

 企画した須江監督も3校の部員を前に「どうでした? 昨日は。練習は楽しかったですか? こちらから見ていると、すごく楽しそうに見えて、来てくれてよかったなって思いました。今日はいいプレーもあれば、うまくいかないプレーもあると思いますが、3校の目標は、今日は“笑顔”ということで、そこを大事にしながらやれたらなと思っています」などと話した。

 集合写真を撮影して、開会セレモニーは終了。メンバー交換をし、先攻が輪島、後攻が仙台育英になった。石川県高野連監督会代表で、金沢桜丘の井村茂雄監督による始球式で試合が始まった。

仙台育英、飯田、輪島による記念撮影
仙台育英、飯田、輪島による記念撮影

■輪島・中川「負けたっすけど、楽しかったです」

[第1試合]
輪  島 000 000 000 =0
仙台育英 001 340 25× =15

 無死から走者を出しながらも内野ゴロに打ち取ったり、三盗を阻止したりするなど、随所に輪島の好守が見られ、2回までは0-0。試合が動いたのは3回だった。

 仙台育英が2死から高田庵冬(新2年)が四球で出塁し、盗塁で進塁。栗島世大(新3年)の適時打で先制した。輪島は4回2死まで仙台育英の3投手の前に無安打だったが、三番・宮下朋晃(新2年)が高めの直球にバットを振り抜き、中越え二塁打で初安打初出塁。「よっしゃ! と思いました」。打った投手は大場晴流(新2年)。宮下のホームステイ先が多賀城市の大場の自宅で、対戦する時はお互いにニヤッとした。それでも、18.44メートルの空間では互いに特別な感情は持たずに無心で向き合い、結果として宮下に軍配が上がった。

 2011年3月11日の東日本大震災では太平洋沿岸部を巨大津波が襲った。仙台育英のグラウンドがある多賀城校舎や大場の自宅も海が近く、甚大な被害があった地域だ。当時、3歳だった大場は「自分の家の目の前が避難所で、急いで避難してくる人たちの表情を覚えています」という。それだけに、試合後は「同じ経験をしているので、気持ちがわかります。残りの時間もストレスなく、野球や生活をしていただけるように寄り添って、サポートしていきたいと思います」と話した。

4回、輪島の宮下がチーム初安打となる二塁打を放った
4回、輪島の宮下がチーム初安打となる二塁打を放った

 試合は4回に仙台育英が4連打で3点を加え、5回にも石垣源太(新2年)のランニング本塁打などで4点を追加した。輪島は6回に2死から一番・二木悠太郎(新2年)が右中間を破る三塁打を放ち、7回には坂口晃清(新2年)が二塁打と、ここまでの3安打がすべて長打と見せ場を作った。8、9回には四球や安打で走者を出したものの、ホームは遠かった。

 0-15。「負けたっすけど、楽しかったです。仙台育英さんという、上のレベルのチームと戦えた経験はすごく楽しかったです」とは輪島・中川。前日から痛みがあった箇所があり、万全の状態ではなかったが、8回に志願の登板を果たした。

輪島は0-15と大差がついたが、全力でプレーし点差を感じさせなかった
輪島は0-15と大差がついたが、全力でプレーし点差を感じさせなかった

 輪島・冨水監督の話「厳しい結果にはなりましたが、まずは思いっきり、いい環境で試合をさせてもらい、子どもたちもすごく楽しんでやっていました。ただ、技術面はもちろん、根拠を持ってプレーしているところなど、私自身も選手ももっと野球を学ばないといけないと感じました。本当に学ぶべきことが多かったです」

 仙台育英・須江監督の話「秋の石川県大会でベスト8のチームで、勝ち上がる理由がちゃんとあるなと思いました。監督のキャラクターも含め、熱量や活力があるチームで意欲が高かったですね。点差はつきましたが、基礎能力がしっかりあり、(地震の影響がなく)練習していたらミスが起きないんだろうなと感じるところもありました。挑む姿勢は逆に私たちも学んだなと思いました」

■ランチも一緒に

 この日の昼食は仙台育英の保護者会が炊き出しをし、牛丼、豚汁、フルーツが振る舞われた。2試合目に出場する仙台育英と飯田の部員が先に食べ、試合を終えた輪島と1試合目にベンチ入りした仙台育英の部員が一緒に舌鼓を打った。

仙台育英の保護者会が昼食で牛丼と豚汁などを用意
仙台育英の保護者会が昼食で牛丼と豚汁などを用意

食事中も笑いが絶えない
食事中も笑いが絶えない

■飯田は7回までリードの好ゲーム

[第2試合]
飯  田 301 000 000 =4
仙台育英 200 010 030 =6
※飯田の選手出場の都合により、9回裏まで実施

仙台育英と飯田による第2試合も合同のシートノック
仙台育英と飯田による第2試合も合同のシートノック

 1試合目と同様、飯田も仙台育英と一緒にシートノックを受け、プレーボール。試合は初回から動いた。先攻の飯田は敵失と安打で2死一、二塁から五番・中市大翔(新3年)が左中間を破る2点適時二塁打を放って先制。仙台育英の先発は193センチ、95キロで最速149キロを誇る山口廉王(新3年)で、中市は「リリースポイント、(高くて)やばいっす」と言いながらもきっちり打ち返した。さらに前田海(新3年)が左前打で続き、一、三塁とするとダブルスチールで1点をもぎ取った。

1回表、飯田は中市の適時二塁打で2点を先制。さらに機動力で1点を追加した
1回表、飯田は中市の適時二塁打で2点を先制。さらに機動力で1点を追加した

 3点のリードを許した仙台育英は1死から3連打で2点を返したが、2者連続三振。2回には無死一、二塁でバントをするも三塁封殺を取られ、さらに併殺打でチェンジとなった。飯田は3回、1死から中尾友(新3年)、中堂瞬(新3年)、中市の三連打で満塁とし、前田の内野ゴロで1点を加えた。5回に1点を返されたが、走者を出しても要所を締めた飯田。7回を終えて4-3でリードしたが、8回に内野安打で同点に追いつかれ、2点適時三塁打で逆転を許した。

 敗れはしたが、飯田・山田主将は「緊迫した状況の中でも楽しむことができました。勝ち負けではなく、純粋に野球を楽しむという目標で戦ったのが、いい結果につながったのかなと思います」と納得の表情を見せた。3人の投手をリードし、先制打を含む3安打と攻守に存在感を示した中市は「日本一になった高校から打って、また機動力で得点できたのでベストな試合だったと思います。憧れていた高校と合同練習や試合ができ、もう、素直に嬉しい気持ちでいっぱいです」と声を弾ませた。

飯田・吉田は初回に2点を失ったが、2〜4回を粘り強く投げた
飯田・吉田は初回に2点を失ったが、2〜4回を粘り強く投げた

 飯田の先発・吉田純光(新3年)は4回まで投げ、2失点。2、4回には先頭打者に安打を許しながらも内角や高めにコントロールして内野ゴロに打ち取ったり、三振を奪ったりし、「(仙台育英の打者は)打席での威圧というか、オーラがすごかったですが、自分の武器でどんどん勝負できました」と自信を深めた。

■石川出身の仙台育英・徳田は3三振を奪うも…

 吉田のホームステイ先は山口の多賀城市の自宅。互いに先発して投げ合った。「いろいろと話しましたし、マッサージもしてもらいました」と吉田。対して山口は「震災の状況や現状を聞いて、いろんなことを思いながら投げる試合でした。それが出ちゃって…」と、初回に3失点。「さすがに2回はギアを上げました」と、気持ちを入れ直し、2三振と三ゴロで実力を示した。

石川県出身の仙台育英・徳田は2試合目の1イニングに登板
石川県出身の仙台育英・徳田は2試合目の1イニングに登板

 能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町出身の仙台育英・徳田英汰(新2年)は7回に登板。先頭打者に中前安打を浴びた。「ストライクを取りにいって打たれてしまったので、勝負の世界は甘くないんだなと感じました」。その後は三者連続三振を奪ったが、1試合目は代打で三振を喫し、「(石川から)仙台育英まで来させてもらっているのに、カッコ悪い姿を見せてしまって、発奮材料ばかりです」と成長を誓った。

 仙台育英・須江監督の話「チーム内の役割がはっきりしていて羨ましいなと思いましたね。初回は本当に見事な攻撃でした。ラッキーで逆転したようなものなので、こちらが多くのことを学ばせていただきました。能力が高く、大学などで長く野球を続けてほしいと思う選手もいました」

■飯田・笛木監督は4月から金沢西へ

 飯田にとっては特別な試合だった。指導する笛木監督が人事異動で4月から金沢西に転勤するため、仙台育英戦がラストゲームとなったのだ。「本当にナイスゲームでした。選手たちのプレーに心打たれたというか。勇気をもらえました」と笛木監督。2013年の赴任と同時に監督となり、選抜大会の21世紀枠の県推薦校には3度、選出された。11年間を振り返り、「最初は自分がなんとかしなきゃ、自分が頑張って教えなきゃと思ってやってきたのですが、生徒に任せ、信頼することができるようになり、11年間の締めくくりで好ゲームができたわけですから、生徒を信頼するという大事なことを教わったと思います」と語った。

 この日もスターティングメンバーや選手交代などは選手たちで決めた。かつては主体性を持った行動が苦手な部員たちで「自分たちの足で歩きなさい」と話したこともあったという。それが、このゲームを象徴するように確かな成長の跡がある。まだ水が出ないなど、地震の影響が色濃く残る地域から異動せざるを得ないことに後ろ髪を引かれる思いはあるというが、「練習も自分たちで考え、進めていっていますので、4月からも自信を持ってやってほしいですね」と背中も押した。そして、「コロナもあり、(昨年5月も含め)大きな地震も2回あり、ずっと苦しんできた子たち。一番、苦しんできたから、夏は一番楽しんでほしいと思っています」と話した。

飯田・笛木監督は4月から金沢西に異動するため、飯田で最後の試合になった
飯田・笛木監督は4月から金沢西に異動するため、飯田で最後の試合になった

■仙台育英・須江監督「目標に近づける、いい日に」

 仙台育英対飯田の試合が終わったのは15時30分。そこからは合同練習が始まった。グラウンドや室内練習場を使い、ポジションごとにフィジカルトレーニングや打撃、守備の練習などに励む。「生徒からすれば、今の時間が一番、嬉しいみたいです。みんなで話して、どうやっている? こうやっている、みたいな」と須江監督。この日の試合で出た課題や成長させたいところと向き合う時間が流れる。

グラウンドで守備練習に励む
グラウンドで守備練習に励む

室内練習場では打撃練習やフィジカルトレーニング
室内練習場では打撃練習やフィジカルトレーニング

 17時が過ぎ、片付けが終わると、3校が室内練習場に集合。終了のミーティングを待つ間、芸達者が前に出て、何やらみんなを笑わせようとするが…。そんな空気が面白い。

 17時30分。須江監督が全体に「どうでした?」と訊ねた。

 輪島、飯田の部員は「楽しかったです」、「いろんなことを教えてもらい、経験になりました」などと感想を述べ、仙台育英の部員は「親交を深められました」、「普段、関わることがない人たちと関わることで新しい考えを取り入れることができました」、「人間関係を作っていけるのが楽しかったです」などと話した。

 3校の部員たちの声を聞き、須江監督が思いを伝える。

「これが“何”になるかは皆さんたち次第です。練習していなかったら、そんなに簡単に成果なんて出ません。だから、練習したいなと思ってもらえたら最大の喜びです。石川に帰って、輪島に帰って、珠洲に帰って、残念だけど、今は環境がないと思いますが、家でちょっと素振りしてみようかなとか、ちょっとトレーニングやってみようかなと思ってくれたらすごく嬉しいです」

 明日は最終日だ。須江監督が続ける。

「明日、どんな練習をしたいか考えてきてください。今日の試合の中から分析してもらって、やりたい練習を一緒にやりたいようにやりましょう。僕たち(仙台育英)は僕たちの課題があります。大したチームじゃないですけど、これでも一応、日本一を目指していますから、僕たちはそういう目的を持たせてやりたいなと思います。僕は日本一に近づくし、君たち(飯田、輪島)も自分たちの目標に近づける、いい日にできたらなと思いますね。お互い、刺激し合い、学び合えたらなと思います」

 明日のことをポジティブに考えられるのは、幸せなことだ。

(写真はすべて筆者撮影)

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フリーライター

1987年3月7日生まれ。宮城県栗原市(旧若柳町)出身。大学卒業後、仙台市在住のフリーライターとなり、東北地方のベースボール型競技(野球・ソフトボール)を中心にスポーツを取材。専門誌やWebサイト、地域スポーツ誌などに寄稿している。中学、高校、大学とソフトボール部に所属。大学では2度のインカレ優勝を経験し、ベンチ外で日本一を目指す過程を体験したことが原点。大学3年から新聞部と兼部し、学生記者として取材経験も積んだ。ポジションは捕手。右投右打。

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