Travis Japanの全世界メジャーデビューは、日本の「アイドル」の常識を変えるシンボルになるか
米国留学中のジャニーズのアイドルグループ「Travis Japan」が、10月28日に念願のメジャーデビューをはたし、話題になっています。
Travis Japanといえば、3月から日本での活動を休止してアメリカに留学。
その後、7月にアメリカのオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」に出演し見事準決勝に進出したり、世界的なダンス大会である「ワールド・オブ・ダンスチャンピオンシップ2022」で世界9位にはいるなど、立て続けに快挙を成し遂げたことが注目されていました。
その活躍が、アメリカの大手レコード会社「キャピトル・レコーズ」の目にとまり、今回の全世界デビューにつながったそうです。
参考:Travis Japan「夢じゃないよね?」全世界メジャーデビュー SNSでファンと喜び分かち合う
デビューと同時に公開されたデビュー曲「JUST DANCE!」は、Remixとあわせて3曲が公開され、日本のiTunesのデイリーランキングの1位から3位を獲得。
YouTubeに公開されたミュージックビデオはこの記事執筆時点で150万再生を超えています。
まずは順調なスタートを切ったと言えそうです。
もちろん、今回のTravis Japanデビューの最大のポイントは、日本での日本語の歌でのデビューではなく、留学先のアメリカから、世界に向けて英語の歌でデビューした点にあります。
当然、今後注目されるのは海外でTravis Japanの人気がどれぐらい拡がるかにあります。
現時点では、台湾やフィリピンのランキングなどにも顔を出しているようですし、YouTubeのミュージックビデオのコメント欄には様々な海外の方のコメントを見ることもできますので、今後が楽しみと言えるでしょう。
ファンに向けたSNSの生配信リレー
今回のデビューにおいて特に注目したいのは、そのデビュー初日の発表イベントが通常のジャニーズのグループとは異なり、メディア向けの記者発表会ではなくSNSを活用した生配信リレーだった点でしょう。
メンバーが海外に留学中という特殊な事情もありますし、トラジャ担と呼ばれるTravis Japanファンの間では念願のメジャーデビューにおいてメディア向けの発表会がないことを残念がる声もあるようです。
ただ、メディア向けの発表会よりも、ファンへの直接の報告を先に実施する、というのはTravis Japanがファンを最優先に考えているからこその取り組みと考えることもできます。
しかも、今回のライブ配信は3つのSNSを駆け抜ける形での配信リレー。
10月28日の日本時間22時に、まずは100万人近いフォロワーがいる公式InstagramアカウントからのInstagramライブからスタートして、開始早々にキャプチャタイムを実施。
その後、10分程度してから引きのカメラでのトークをするためにYouTubeライブに移行。
メンバー7人で、いろいろと思いを語った後に、22時45分にはYouTubeプレミアでミュージックビデオが公開。
その後、23時10分にはTikTokライブで、「JUST DANCE!」のダンスの仕方をファンに指導するという形で、SNS毎に配信の主目的や使い方を分けていたのが非常に印象的でした。
トラブルに関してもメンバー自らライブ中に言及
残念ながらYouTubeライブは、一部のメンバーのマイクが遠くて声が聞きにくかったり、笑い声がハウリングしてしまったりというトラブルもありました。
おそらくは慣れないアメリカからの、しかも現地時間では午前6時からのライブ配信ということで、本番になって問題が起こってしまったということでしょう。
ただ、個人的に一番印象的だったのは、最後にメンバーが「マイクトラブルごめんなさい、次までには直しておきます」と言及されていた点でした。
通常のアイドルグループのメディア発表会であれば、そうした機材のトラブルを謝罪するのは、当然メンバーではなく司会やスタッフの仕事です。
YouTubeライブの配信中にも、メンバーはタブレットでファンのコメントを見ていましたから、当然マイクトラブルには気づいていたはずです。
そのトラブルを配信中に現場のスタッフを責めたり言い訳することなく、自らの言葉でお詫びをするというのは、Travis JapanがいかにSNSでのライブ配信も含めて自分事としてファンと接しているかが伝わってくる瞬間だったと言えます。
ある意味、従来のジャニーズのグループのデビュー記念イベントの常識とは何もかも異なる配信ライブだったと言えるでしょう。
撮影動画の流出はトラブルなのか?
実は、Travis Japanに関しては、デビュー曲の公開前に、ちょっとしたミュージックビデオの撮影動画流出がメディアで取り上げられた経緯もありました。
これは、今回のミュージックビデオがロサンゼルスのベニスビーチという公開の場所で実施されていた関係で、地元の人たちが動画を撮影してあげたものが日本のファンに拡がったもののようです。
参考:Travis Japan 〝禁断動画〟流出でファン「泣きっ面にハチ」
ただ、ここで気になるのが、この記事の中で芸能プロ関係者の発言として「解禁前に情報が流れることはあってはならない事態です」というコメントが紹介されている点です。
実際に流出動画とされていた動画は遠目での短い動画であり、禁断動画の流出と言うほどのものではありませんでした。
また、アメリカの公開の場所で撮影している時点で、関係者はこの程度の動画の流出は想定済みでしょう。
実際、アメリカではマトリックスの撮影シーンが話題になるなど、こうした公開の場所での撮影が事前に話題になるのは珍しい話ではありません。
参考:『マトリックス4』超高層ビルから2人が飛び降りて黒コートが舞う!アクション撮影に大興奮
該当の動画の再生数も、前述の記事公開後も数千程度とたいして増えてはいなかったようですから、少し記事が大袈裟な印象があります。
また、実は今回のTravis Japanは、公式YouTubeでもデビュー前から一部ティザー動画や撮影の裏側の動画を公開するなど、デビューまで完全に情報を秘匿するのではなく、少しずつ情報を出すというアプローチを取り入れていました。
宮脇咲良さんが所属するルセラフィムが、デビュー前から細かく情報をファンに公開していくアプローチを取っていたように、K-POPをはじめ海外ではこうした事前の情報公開もおりこんだプロモーションが一般的になっています。
参考:宮脇咲良と「ル セラフィム」の鮮烈デビューに学ぶ、世界的ヒットのつくりかた
そういう意味では、公開の場での撮影シーンが話題になることのほうが望ましいことと言える時代であり、前述の芸能プロ関係者の感覚の方が、古く間違った常識と言えてしまうかもしれないのです。
ジャニーズ事務所の進化のシンボルに
Travis Japanが所属するジャニーズ事務所は、従来インターネット上での画像の利用などに非常に厳しい姿勢で臨んでいることで有名でした。
その判断は、創業者のジャニー氏がアイドルの権利を守ることを最も重視していたからだと言われています。
それがSNSが普通の時代になり、ファンの音楽やアーティストの応援の仕方が変わる過程で、ジャニーズ事務所の厳しすぎるルールが徐々に時代遅れになり、雑誌の表紙の黒塗りや記者発表会の行き過ぎた写真加工など、一部のネットユーザーからは非難や嘲笑の対象になっていた面もあったのは事実だと思います。
ただ、最近はジャニーズ事務所も、ネット活用の方針を大幅に転換。
「ジャにのチャンネル」をはじめとしたYouTubeの積極活用など、ジャニーズのグループ自体がSNSを積極的に活用することが普通になり始めており、従来のジャニーズの「常識」が変わりつつある過程と言えます。
参考:ジャにのちゃんねると24時間テレビのコラボは、テレビとYouTubeの融合のシンボルになるか
Travis Japanの3月の米国留学を、当時いち早く「ジャにのチャンネル」が取り上げており、その動画の中で二宮さんがK-POPに言及しているのも、そのジャニーズ事務所の「常識」の変化や、メンバーの進化の象徴と振り返ることができるかもしれません。
もちろん、K-POPや、BE:FIRSTのようなSNS活用が進んでいる事務所に比べると、ジャニーズ事務所はファンによるSNS投稿に対する許容点を明確にしていない点や、YouTube以外のストリーミング配信への対応姿勢など、保守的な面が多く残っているのも事実です。
ただ、いずれにしても、今回のTravis Japanの世界デビューがきっかけで、ジャニーズ事務所のネットやSNS活用の進化が更に進むことは間違いないでしょう。
最近では、Adoさんが全米本格進出を決定されたことが発表されましたし、海外進出をするアーティストが増えれば、その影響は間違いなく日本の事務所にも音楽ファンにも出てくるはずです。
参考:Ado、全米本格進出決定。名門音楽レーベル「Geffen Records」ファミリーに
今後Travis JapanやAdoさんをはじめとして、多くの日本のアーティストが海外でも活躍し、日本のアイドルグループや音楽業界の常識を変えるきっかけになったと、後から振り返ることになる未来を楽しみにしたいと思います。