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宮脇咲良と「ル セラフィム」の鮮烈デビューに学ぶ、世界的ヒットのつくりかた

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:HYBE LABELS)

宮脇咲良さんの三度目のデビューとなるガールズグループ「LE SSERAFIM(ル セラフィム)」がデビュー曲「FEARLESS」を公開。

YouTubeの再生回数が19時間で1000万再生を突破するなど、大きな話題を集めています。

参考:「レベルが違う」宮脇咲良が所属する新ガールズグループ、デビュー曲MVが19時間で1000万回突破

「ル セラフィム」は、BTSが所属する韓国の大手芸能事務所「HYBE」初のガールズグループとして、デビュー前から大きな注目を集めていました。

ただ、今回の「ル セラフィム」のデビューの凄いのは、韓国語が中心の歌にもかかわらず、メンバーの出身国の韓国や日本だけでなく、世界中から注目が集まっている点です。

13ヶ国で1位を獲得

象徴的なのはデビューアルバム「FEARLESS」のiTunesトップアルバムチャートでのランクイン状況。

日刊スポーツによると「日本、ブラジル、フィリピン、シンガポール、インドネシア、チリなど計13カ国・地域のiTunesトップアルバムチャート1位を記録。メキシコでは2位、スウェーデンで3位、トルコ3位、米国7位、ドイツ7位」と文字通り世界中でランクインしていたそうです。

参考:宮脇咲良加入の「LE SSERAFIM」が大反響 初ミニアルバムが13カ国でチャート1位

今回の「ル セラフィム」のデビューのニュースだけを見ていると、普通にメディア向けの発表会を開催しただけのように思った方もおられるかもしれません。

ただ、今回の「ル セラフィム」のデビューまでの軌跡を振り返ると、HYBEグループならではの世界市場を狙った取り組みの一部が見えてきますのでご紹介したいと思います。

デビュー前から毎日のように話題提供

宮脇咲良さんは、昨年6月にHKT48の卒業コンサートを行う前からHYBEグループ入りが噂されていたぐらいでしたので、今回の「ル セラフィム」でのデビューは既定路線とは言えます。

ただ、興味深いのは宮脇咲良さんの契約から、今回のデビュー日に向けて、HYBEとその傘下にあるソースミュージックが実に用意周到に話題作りを手掛けていた点です。

主な発表や活動を羅列するだけでこのようになります。

・3月14日 宮脇 咲良、キム・チェウォンSOURCE MUSICと専属契約締結

・3月28日 ガールズグループ名「LE SSERAFIM」と5月デビュー予定が発表

・3月28日 各種公式SNSがオープン

・4月4日 宮脇咲良が一人目のメンバーSAKURAとして正式に発表。

・4月5日〜9日 その後も1日に1人ずつメンバーを公開

・4月11日 YouTubeにティザー動画を公開。7時間で100万再生突破

・4月13日 デビュー日を発表、アルバムの先行予約を開始

・4月20日 アルバムの最初のコンセプトフォト公開

・4月29日 ミュージックビデオのティザー映像公開

・5月2日 デビュー日。発売記念ショーケースを開催

実はHYBEグループは、これ以外にも毎日のように細かいリリースや発表を行っており、グループ名発表からも1ヶ月強、新しいニュースを繰り出し続けて、デビューに向けての話題作りに努めてきたことが良く分かります。

参考:株式会社HYBE JAPANのプレスリリース

従来の日本のアーティストのデビューというと、大々的にメディア向けの発表会を行うか、インディーズから徐々に知名度を上げてメジャーデビューというパターンが多かったと思います。

特にメディア向けの発表会を行う場合は、発表会までは基本的にあまり情報を出さずに、発表会の日に一気に情報解禁を行うケースが普通だったと思いますが、今回の「ル セラフィム」はそれとは真逆。

メディア向けのショーケース前に、計画的に少しずつ情報やメディア向け素材を公開してしまっているのです。

同時に7つの公式SNSを開設

特に、印象的なのは3月28日に開設された各種公式SNSの布陣。

最初から国際展開をにらんでいることが良く分かる力の入れ具合です。

Twitter、YouTube、Instagram、Facebookという基本的なSNSアカウントは当然のように開設。

さらに、HYBEが買収した韓国のライブ配信サービスのV LIVEに、日本語のツイッターアカウント、そして中国向けのWeiboと、最初から日本市場、中国市場向けのアカウントも開設しています。

さらに5月2日にはTikTokの公式アカウントも開設されていました。

しかも、メインのTwitterアカウントは韓国向けではなく、グローバルアカウントと位置づけられ、基本的に英語と韓国語並記での投稿を行っているのです。

「ル セラフィム」のデビューが、最初から用意周到に世界市場をターゲットに準備されてきたのが良く分かります。

「Weverse」上の公式ファンコミュニティ

さらに、忘れてはならないのが、HYBEが運営するファン向けプラットフォームである「Weverse」の存在です。

これはBTSや「ル セラフィム」などのアーティストとファン、そしてファン同士の交流を促進するためのプラットフォームで、すでに会員数は3600万人を越えていると言われるプラットフォーム。

グローバル展開をしており、韓国語はもちろん、英語や日本語での利用が可能になっています。

「ル セラフィム」のグループ名が発表された3月28日にも、当然のように「Weverse」上に「ル セラフィム」の公式コミュニティが開設され、登録者には先行して特別な情報や素材が提供されていました。

この記事執筆時点で、コミュニティには18万人以上の登録者がおり、アーティストとの交流や、ファン同士の交流を楽しんでいるようです。

「Digital Souvenir」で公式素材拡散

さらに、今回の「ル セラフィム」のデビュー直前には「Weverse」と連携した「The First Moment of LE SSERAFIM」と銘打たれたプロジェクトが展開。

デビュー前にサイトにアクセスしたファンだけが「Digital Souvenir」と呼ばれる、メンバーの写真や動画を加工して自分だけのデジタルコンテンツを自分で作成することができる仕組みが提供されていました。

ここで作成したコンテンツは、SNS上でシェアすることができるようになっており、多くのファンがデビュー前に「ル セラフィム」の話題をSNS上で拡散していたようです。

こうしたデビュー前のファンの話題作りが、今回のデビュー日における鮮烈なスタートダッシュに貢献しているのは間違いないでしょう。

BTSの成功には、ARMYと呼ばれる熱狂的なファンの存在があると言われ、「プロセスエコノミー」と呼ばれる活動の裏側や成長のプロセスをファンに見せながらファンを巻き込むアプローチの成功事例としても良く取り上げられます。

参考:なぜ、ファンは虜になるのか? BTSが提供する“ワクワク価値”

日本においても、NiziUやBE:FIRSTなど、オーディション番組経由でファンを集める形の「プロセスエコノミー」の成功事例は増えてきましたが、「ル セラフィム」はオーディションではない場合でもデビュー直前からファンを巻き込んでいく新しい形の「プロセスエコノミー」の手法をとっていたと言えるわけです。

日本のアーティストは宮脇咲良さんの後に続けるか

ここで気になるのは、今後日本の他のアーティストがこうしたHYBEグループや「ル セラフィム」の成功を参考に、同じように世界展開を最初から目指した活動ができるようになるかという点です。

日本では、まだまだファンによるオフィシャル素材のSNS投稿すら禁止している芸能事務所や音楽レーベルが多く、こうしたHYBEグループや「ル セラフィム」の成功をいきなり真似するのは難しいと思う方も多いかもしれません。

なにしろHYBEグループは、BTSという世界的な知名度があるグループが中核にあり、「Weverse」や「Digital Souvenir」のようなデジタル技術を自社で構築してしまっていますから、日本とは業界構造自体が全く違うとは言えます。

ただ、日本でも、SKY-HIこと日高さんが立ち上げた「BMSG」が生み出したBE:FIRSTは、ファンによるSNSへの画像投稿を許可する方向に踏み出していますし、YOASOBIも画像のSNS投稿を許可するオンラインライブを実施するなど、新しいアプローチに取り組むアーティストが増えてきています。

参考:BE:FIRSTは日本の音楽業界のSNS活用に革命を起こすかもしれない

また、「Digital Souvenir」のようなオフィシャル素材の拡散を可能にするプラットフォームとしては、日本でもSHOW ROOMがジャニーズ事務所と提携し、スマホ向けアプリの「smash.」で近しい取り組みを行っています。

実は日本でも、環境や要素技術は徐々に整いはじめているわけです。

従来の日本のアーティストの海外進出というと、日本でヒットしてから満を持してアメリカに渡航して挑戦するイメージが強かったと思います。

そこに、今回、宮脇咲良さんと中村一葉さんという二人の日本人が参加している「ル セラフィム」が、自分達の国にいながら母国語の歌でも世界の音楽市場で勝負できることを証明しようとしてくれています。

彼らの活躍に刺激を受けて、この後に様々な日本人アーティストが続くことを期待したいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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