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新型コロナでホンダや日産が大打撃 迫りくる「5月危機」

井上久男経済ジャーナリスト
2019年4~12月期決算を発表する日産自動車の内田誠社長(2月13日筆者撮影)

稼働率3割 武漢は半年戻らず

 新型コロナウィルスによる肺炎の影響で、中国の自動車メーカーは2月末の時点で、従業員の5割程度しか出勤していないという。春節休暇で帰省した人たちが、都市の封鎖など移動制限によって戻れないためだ。その結果、中国全体で自動車工場の稼働率は3割程度に落ちている。

 新型肺炎の震源地である湖北省武漢周辺では、最低でも半年はフル生産に戻れないといった見方が出ている。特に湖北省内に生産拠点を持つホンダと日産への影響は計り知れない。

ホンダ中国生産能力の半分が武漢に

 

 武漢に完成車工場を持つホンダは当初、2月24日から稼働再開させる予定だったが、地元政府の要請により、再稼働は早くて3月11日以降になる見通し。ホンダは昨年、約60億元(約926億円)を投資して武漢市に年産12万台の能力を持つ3つ目の工場を建設。ホンダは中国内で125万台程度の生産能力があるが、そのうち半分が武漢に集中している。昨年は武漢地区で残業をして生産能力を超える75万台を生産した。もう一つの完成車生産拠点である広州工場はすでに生産を再開させている。

 ホンダは英国やトルコの完成車工場を閉鎖するが、販売が堅調な中国では強気に生産能力を高くしてきた。ただ、ホンダの四輪事業は高コスト体質と過剰設備などの影響で、営業利益率は2・9%とトヨタの9%に比べて大きく見劣りする。武漢地区の工場が3月11日以降に再稼働したとしても当面はフル生産体制にはならない可能性が高い。周辺の部品メーカーの供給体制などがすぐには整わないからだ。武漢地区の生産停止によってホンダの収益力がさらに落ちていくかもしれない。

 

日産グローバル販売の3割が中国

 日産は湖北省襄陽に完成車工場を持つ。ホンダと同様に生産再開は3月11日以降になる見通し。他の完成車工場、花都(広州)工場、大連、鄭州の各工場は生産を再開させた。日産では、中国からの輸入部品の供給が止まったために九州工場で2月は一時生産が停止したが、現状もフル操業の状態ではない。

 中国依存が高い日産は、新型肺炎問題を契機として、経営危機が一層進むかもしれない。19年度の日産の中国での販売台数は前年度比0・8%減となる約155万台の見通し。グローバル販売の3割が中国だ。20年度は中国での販売は落ち込むことは必至で、業績悪化に拍車がかかるからだ。

 

部品供給が止まれば国内生産にも影響

 トヨタ自動車は広州と長春の合弁2工場の生産を2月17日から再開させたが、部品供給が正常化していないため、昼夜勤務の2交代制ではなく、1直体制での再開となった。トヨタの場合は武漢などの湖北省に完成車の生産拠点がないため、ホンダや日産に比べて打撃が少ないと見られる。

 ただし、この新型肺炎問題が長引けば、国内の工場の稼働にも影響が出てくる可能性がある。中国からの輸入部品が調達できなくなったり、逆に日本から輸出するノックダウン部品などの生産ができなくなったりするためだ。

リーマンショック級の打撃?

 新車販売にも肺炎問題の影響が出始めている。中国汽車工業協会が2月13日に発表した1月の新車販売台数は18%減の約194万台。「春節休暇」が昨年より早く始まった関係で販売店の稼働日数が少なかったことも影響しているが、湖北省では店舗を閉めている地区もある。新車購入どころではなく、2月はもっと落ちるだろう。

決算業績の面で日本の自動車メーカーを直撃するのは4月以降だ。「リーマンショック並みの打撃になる」といった声も業界の一部からは出ている。

 直近のデータで見ていくと、2019年4月~12月の第三・四半期決算では、日本の自動車メーカーではトヨタを除き軒並み減収減益だ。その主要因は為替の変動や米国やインドなどでの販売の落ち込みだった。営業利益で日産は前年同期比82・7%減の543億円、ホンダは6・5%減の6392億円、マツダは43・3%減の323億円、スズキは33・6%減の1704億円。

19年度決算に新型肺炎の影響が入らない理由

 ただでさえ、業績が悪化している自動車メーカーの業績に新型肺炎問題が追い打ちをかけることになるだろう。前述した昨年12月までの第三・四半期の実績には新型肺炎問題の影響は入っていない。第三・四半期決算と同時に発表された2020年3月期決算の業績見通しでも新型肺炎問題の影響はほとんど加味されていない。

 その理由は、日本の本社と中国合弁会社の決算期がずれているからだ。中国の合弁会社の決算期は1月~12月。日本の本社は4月~12月。中国の第三・四半期は7~9月で、第四・四半期は10~12月。連結決算上、中国の第四・四半期を、日本の第四・四半期である1月~3月にリンクさせるため、日本の本社の20年3月期決算では、肺炎の影響を受けている中国合弁会社の実績は入らないことになる。

 しかし、肺炎の影響が数値上大きく表れてくる中国合弁会社の20年の第一・四半期(1月~3月)の決算実績は、日本の本社の第一・四半期である20年4月~6月期決算に大きく反映される。中国は世界最大の自動車市場。特にトヨタ、日産、ホンダの大手3社は台数面での中国市場への依存度が高い。中国事業が落ち込めば業績に大きな影響が出ることは避けられない。

トヨタも安泰ではない

 日本の自動車メーカー各社は21年3月期決算の業績見通しを5月の連休前後に発表する。その頃には新型肺炎関連のニュースは社会的には落ち着いているかもしれないが、企業業績にとってはピンチだ。

「一人勝ち」と言われているトヨタでも業績は決して安泰ではない。トヨタの19年4月~12月期決算の営業利益は前年同期比6・2%増の2兆587億円ある。このうち中国事業からの利益は12%程度あると見られ、ウエートは少なくない。

 今回の新型肺炎が厄介なのは、夏ごろまでには感染者数が収束するとの見方がある一方で、21年冬に感染者数が再び増えるとの見方がある点だ。米国の疾病予防管理センター(CDC)も「新型肺炎は来年も続く」との見解を示している。スペイン風邪の時と同じように流行が2年続くという見方だ。

 そうなれば、再びサプライチェーンが破壊され、消費も落ち込む。政府も企業も感染拡大防止や、リスク管理に様々な対策を講じるだろうが、本当にリーマンショック並みの経済的な打撃は避けられなくなるかもしれない。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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