さよならGoogle Glass、10年の歴史に幕 産業用も販売終了
米グーグルはこのほど、産業用の眼鏡型端末「Glass Enterprise Edition(グラス・エンタープライズ・エディション)」の販売を打ち切ると明らかにした。ソフトウエアのサポート業務も2023年9月15日をもって終了する。
同社はその理由について明らかにしていない。米経済ニュース局のCNBCは、大手テック企業による最初の、そして今でも最も認知度の高いスマートグラスの終焉(しゅうえん)だと報じている。
プライバシー・著作権侵害など物議
Glass Enterprise Editionは、その名の通り法人向けで、産業分野での普及を目指して開発された拡張現実(augmented reality、AR)端末だ。工場などで従業員がこれを身に着け、作業手順を確認したり機器の操作説明書を参照したりするといった用途で利用されてきた。
その前身となったのは、同社が2012年に立ち上げた「Google Glass」という眼鏡型端末の開発プロジェクト。2013年には同端末の開発者向けプロトタイプ製品を発売。2014年にはこのプロトタイプを1500ドル(当時の為替レートで約16万5000円)で販売する早期導入プログラムを拡大し、一般消費者にも提供した。
しかし、このGoogle Glassにカメラが備わっていたことが大問題だった。これにより利用者は、人知れず周囲を撮影することができてしまう。この機能が嫌われ、Google Glassを着用する人は「嫌な奴」を意味する「asshole」をもじって「Glasshole」と呼ばれたりした。レストランやバーではGoogle Glassの着用を禁止する動きも広がった。プライバシー侵害の問題に加え、映画館などにおける著作権侵害への懸念も取り沙汰された。
消費者向けから産業向けへ
こうした経緯があり、同社は2015年にGoogle Glassの早期導入プログラムを中止し、開発プロジェクトを別部門に移管した。その2年後に登場したのが前述したGlass Enterprise Editionだった。プロセッサー性能の向上やバッテリー駆動時間の延長などの改良を図ったほか、プライバシーにも配慮し、動画撮影中に緑色のライトを点灯するようにした。
その用途は、製造や物流、医療といった産業分野における情報表示や作業の指示。作業現場で各種の情報を作業員の目の前に映し出したり、作業員が見ている場面を他の担当者が確認し、リアルタイムに指示したりできるようにした。グーグルは当時、ドイツ物流大手DHLや米ゼネラル・エレクトリック(GE)や医療機関の米サッター・ヘルスがGlass Enterprise Editionを利用し、業務に役立てていると説明していた。
コスト削減、新たな注目分野は対話AI
今回グーグルはGlass Enterprise Editionの販売を終了するが、同社はまだ、ARやスマートグラスを諦めたわけではないとCNBCは報じている。昨夏グーグルは、音声をリアルタイムで翻訳したり文字起こししたりする新たなスマートグラスを披露した。このとき同社は、今後AR眼鏡のプロトタイプを一般公開し、テストを続けると述べていた。
一方で、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、今回のグーグルの動きはコスト削減策の一環だと報じている。グーグルは2023年1月、世界で約1万2000人の従業員を削減すると発表した。これは同社として過去最大の整理解雇(リストラ)だ。
スンダー・ピチャイCEO(最高経営責任者)はこのとき、従業員宛てのメッセージで、「焦点を絞り、コスト構造を見直し、人材と資本を最優先事項に振り向けるための重要な時だ」と述べていた。
グーグルは何年にもわたり眼鏡型情報端末など消費者向け電子機器のベンチャー事業に力を入れてきた。しかし、今は人工知能(AI)に注力する姿勢を示している。2023年2月には対話AIサービス「Bard(バード)」を発表した。
これにより、米マイクロソフトや、マイクロソフトの出資先で、対話AIのChatGPT(チャットGPT)を手がける米オープンAIに対抗する考えだ。
- (本コラム記事は「JBpress Digital Innovation Review」2023年3月22日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)