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なでしこジャパンの攻守を厚くするDF清水梨紗。進化するサイドバックの魅力

松原渓スポーツジャーナリスト
清水梨紗(写真提供:AFC)

 気温40度を超える灼熱のピッチで、縦105mのタッチライン際をトップスピードで何度も駆け上がる。

 軽やかなフォームと涼しげな表情で、90分間を走り抜いた。

 7-0で勝利したAFCアジアカップ準々決勝のタイ戦。W杯出場権がかかった重要な試合で、なでしこジャパンの右サイドバック、DF清水梨紗が躍動した。

 オーバーラップの回数は、前半11回、後半9回。

しかも、その多くがゴール前のチャンスに直結した。相手ペナルティエリア内へのパスやクロスは、試合を通じて13本にも上った(筆者調べ)。アーリークロスやライナー性のクロス、ゴールラインギリギリまで深く抉ってからのパス。相手の守り方によって柔軟に変化させながら、3つのゴールの起点になった。

 試合後の取材で「まだ走れるのでは?」との質問には、「今は試合が終わったばかりなのですごくしんどいです」と苦笑。だが、こう付け加えることを忘れなかった。

「ここから(準決勝まで)中3日ありますし、100パーセントの状態でピッチに立つのが自分の責任でもあるので、(スタメンに)選ばれたら、チームのために走ります」

 清水は現在25歳で、代表歴は5年目に突入。右サイドバックの第一人者として、世界の強豪国と対戦してきた。

 体格は華奢に見えるが、フィジカルトレーニングで鍛え抜いていて、ケガが少ない。タイ戦で見せた底無しのスタミナとスピードは、強力な武器だ。加えて、守備力の高さにも定評がある。

 所属する日テレ・東京ヴェルディベレーザは現在、WEリーグで11チーム中5位だが、清水の右サイドは攻守において盤石の強さを見せている。スポーツパフォーマンス分析会社「InStat」のデータによると、WEリーグ全選手を対象とした前半戦の総合評価指数で、清水は2位。1位から7位までを首位のINAC神戸レオネッサの選手が占める中、特筆すべき高数値を叩き出した。

 代表では2019年のW杯や昨夏の東京五輪で主力として戦い、悔しい敗北や挫折を味わってきた。だが、その経験から成長の足掛かりを掴んできた。

 アメリカのM.ラピノー、オランダのL.マルテンス、フランスのE.ルソメ、スペインのP.ギハーロ。強豪国を率いるテクニシャンやスピードスターとの駆け引きは、守備者としての感覚を研ぎ澄ませた。

「いつも、自分のサイドからは相手を侵入させない、という覚悟でプレーしています。まだやられてしまうこともあるし、相手が海外の選手だとその回数も(国内と比べて)多くなるのも現実で。その中で、『どう守ったら止められたのか』、『どうしてやられてしまったのか』という課題は毎回クリアにしています。ミスをした時は映像を見て解決して、(試合ごとに)失敗を減らすことを強く意識しています」

強豪国との対戦では激しいコンタクトプレーも
強豪国との対戦では激しいコンタクトプレーも写真:ロイター/アフロ

 ハイレベルな相手にチャレンジし、同じミスを繰り返さないための努力を徹底してきた。その姿勢は、なでしこの先輩たちから受け継いできたものでもあるだろう。

 近賀ゆかり、有吉佐織、鮫島彩。世界の頂点に挑んだサイドバックから、真髄を学んできた。

 今回のアジアカップで、縦の関係を組む右サイドハーフは試合ごとに顔ぶれが変化している。MF宮澤ひなた、MF成宮唯、MF長谷川唯。長谷川とは同期で、阿吽の呼吸でプレーできる。宮澤と成宮はアジアカップ初出場だが、清水は2人ともスムーズな連係を築く。コミュニケーションを大切にして相手の特長をよく観察し、お互いの良さを生かし合うための最適解を見つけている。

「(成宮)唯さんとは、自分が関わりにいった方が唯さんの良さが出るし、自分も使ってもらう動きはすごく好きなので心がけています。ひなたはドリブルが特徴で、(周りに)スペースがあった方が仕掛けやすい場面もあるので、上がるタイミングや、ひなたがドリブルをするスペースを作るためのフリーランニングは意識しています」

 その度量とスキルの高さが周囲の個性を輝かせ、チームの戦略に奥行きをもたらしている。

 アジア上位国との戦いが続くここからのステージは、サイドの攻防はより見応えを増すだろう。清水のアグレッシブな攻撃参加や、闘志あふれる守備は必見だ。

歓喜の瞬間を再び味わえるか(写真提供:AFC)
歓喜の瞬間を再び味わえるか(写真提供:AFC)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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