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極寒の軍事パレードで金正恩氏や金与正氏ら特別な4人だけが着用した黒光りの高級黒革コート

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
ひな壇に姿を現した金正恩総書記。右端は玄松月氏=朝鮮中央テレビよりキャプチャー

 北朝鮮で14日夜、朝鮮労働党第8回大会を記念した軍事パレードが実施された際、金正恩総書記と実妹・金与正氏、最側近の趙甬元・書記、秘書役で元歌手の玄松月氏の4人が、同じような黒革ロングコートに身を包んで観覧していたことが話題になっている。軍服や地味な防寒コートを着た幹部らがひな壇を埋め尽くすなか、この4人だけが高級コートで黒光りしており、その意図に関心が集まっている。

◇腹心3人にプレゼントか

 朝鮮中央テレビの映像では、参加者たちが平壌・金日成広場に待ち構えるなか、最高指導者の入場曲「歓迎曲」に乗せて、ひな壇に金総書記が黒革コートと防寒帽で姿を現した。その少し前に、同じようなコートを着た玄松月氏の姿も確認できる。

黒革コートを着用する趙甬元氏(中央)=朝鮮中央テレビよりキャプチャー
黒革コートを着用する趙甬元氏(中央)=朝鮮中央テレビよりキャプチャー

 別のカットでは、ひな壇の党最高幹部の列で、崔竜海・最高人民会議常任委員長と金徳訓首相の間に立つ趙甬元氏が同じようなコートを着用してパレードを観覧していた。さらに後方の党幹部の並びには、金与正氏の姿も見られ、同様のコートを着用していた。

黒革コートを着用する金与正氏(前列中央付近)=朝鮮中央テレビよりキャプチャー
黒革コートを着用する金与正氏(前列中央付近)=朝鮮中央テレビよりキャプチャー

 金総書記は冬場の現地指導の際、時折、この黒革コートに身を包んでいる。韓国の有力紙、朝鮮日報は「革のロングコートは北朝鮮の幹部たちが着ることのない衣服であるがゆえ、金総書記が腹心である3人だけに、信頼感を示すためにプレゼントしたものではないか」という観測を伝えている。

 趙甬元氏は今回の党大会で、最高指導部メンバーである党政治局常務委員の地位にのぼり詰めた。同時に、党の重要部署である組織指導部や幹部部などを担当する書記という強力なポストに就くに至った。7人いる書記を束ねる立場でもあり、場合によっては金総書記の代理人を務める、ということもあり得る。

 玄松月氏は北朝鮮では著名な歌手であり、モランボン楽団や三池淵管弦楽団の団長を歴任。現在は党中央委員と宣伝扇動部副部長を務める。

◇存在感高める国務委員会演奏団

 朝鮮中央テレビが放送した軍事パレードの映像には、党創建75周年記念(昨年10月10日)パレードの時と同様、視覚効果を重視してイルミネーションによる演出がふんだんに盛り込まれている。

 パレードの様子は、夕闇に平壌の高層ビル群が浮かび上がり、その近くで出番を待つ部隊が白い光を放ちながら待機するというシーンから始まる。終盤には、軽快な音楽とともに夜空を舞う戦闘機が、党のマークや第8回大会を象徴する「8」の文字を作り上げ、幻想的な雰囲気を醸し出したりしていた。

 音楽を奏でたのが、国務委員会演奏団と国防省中央軍楽団。このうち国務委員会演奏団は最近、存在感を高め、75周年記念の軍事パレードや党大会といった重要イベントで起用されている。

金日成広場入りする国務委員会演奏団のメンバー=朝鮮中央テレビよりキャプチャー
金日成広場入りする国務委員会演奏団のメンバー=朝鮮中央テレビよりキャプチャー

 国務委員会演奏団の名前が公式報道で初めて伝えられたのは昨年1月25日。金正恩氏が叔母の金慶喜・元書記らと三池淵劇場で旧正月記念公演を観覧した際、三池淵管弦楽団などとともにその名前が紹介された。

 今回の軍事パレードでも、真っ白なユニフォームに身を包み、広場中央前方に建てられた白い小屋で演奏にいそしんでいた。このオーケストラの詳細に関する公式報道はないが、メンバーは顔立ちの整った若い男女で構成されているようだ。

国歌「愛国歌」を独唱する北朝鮮歌手=朝鮮中央テレビよりキャプチャー
国歌「愛国歌」を独唱する北朝鮮歌手=朝鮮中央テレビよりキャプチャー

 北朝鮮でも最近、国旗掲揚の際、歌手が国歌「愛国歌」を独唱する場面が増えてきた。米プロフットボールNFLのスーパーボウル開会式などで米著名歌手が国歌「星条旗」を熱唱するのを意識するかのように、リズミカルにアレンジされた「愛国歌」を北朝鮮の歌手が声量たっぷりに、感動的に歌い上げている。

 パレードの一連の演出には、玄松月氏とともに、著名な音楽家であり党宣伝扇動部副部長を務める張竜植氏が深く関わっているようだ。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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