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プールで児童が被害 卑劣な接触痴漢をなくすには、まず知ることから

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
本文とは関係ありません(写真:CarteBlanche/イメージマート)

 プールで泳ぎながら女性の尻を触ったとして、公務員が懲戒免職となりました。報道では被害者の中に女児もいたとのこと。このような卑劣な手口はプール管理の関係者には知られていましたが、一般にはあまり知られていないかもしれません。

 室内プールで遊泳を楽しむ季節、このような犯罪をなくすには、第一歩として市民が「様々な痴漢行為がある」という共通認識を持たなければなりません。ここでは接触型の痴漢を例に取り解説します。

◆今回の報道

 係員は昨年4月頃からプールに週2回通い、隣のレーンのコースロープ際に立つインストラクターや女児ら計10人以上の女性に対し、クロールで泳ぎながら偶然を装って尻を触る痴漢行為を繰り返した(後略)朝日新聞デジタル 最終更新: 12/26(土) 11:14

 報道によれば、福岡市が事情を聴くと係員は痴漢行為を認め、さらに県警からも任意の事情聴取を受けたとのことです。要するに大きな事件として扱われていませんが、福岡市はことの重大さを認識したと受け取れます。

 筆者は、40年以上の水泳との関わりの中で、プール監視、水泳指導、救助法指導などの業務を行ってきました。様々な場面で「触られた気がする」という訴えを聞いてきましたが、施設が警察に通報するどころか、接触してきた者を特定することにさえ至った覚えはありません。「警察が取り扱ってくれないだろう」などと余計な心配をして、泣き寝入りを促してしまった感は否めません。

 でも今回のニュースを機会に、そういった過去の様々な事案を一般の方々が知り、「痴漢にあわないようにプールで気をつけること」をご家庭で子供に話す一助になればと思います。

 さらに、プール監視員やインストラクターの皆様におかれましても、これまで行われてきた盗撮防止策に加えて、接触痴漢防止策を今一度確認してみてはいかがでしょうか。

◆接触痴漢の種類

泳ぎながら触る

 今回のケースのように、クロールで泳いでいて、水中で水着を着ている人の体を触る行為です。偶然を装えるので、被害者は1回きりであれば痴漢された認識を持たないかもしれません。クロールだと手を入水させてからかき上げるまでのストロークが長いので、平泳ぎに比べれば、触るチャンスを狙うことのできる時間が長くなります。同じレーンを泳いでいて対向する人を触る手口もあります。

 ただ、「触られた」ともっとも多い訴えはスタート台下で団子状態で泳ぎを待っていた人からです。隣のレーンを泳いでいた人がターンする直前や直後に団子状態で待っている人のうち、レーンの端にいる人を触ってくるものです。この場所を狙われると、泳ぎはクロールも平泳ぎも関係ありません。

 同じレーンにいても同じことが起こります。スタート台の下で待っていた人に泳いで戻ってきた人が壁にタッチする仕草で体にタッチしてくるものです。このやり方は触られた方もかなり意図を感じるので、その場で周囲の人に訴えてくることが多く、筆者の経験の範囲では男児が悪ふざけで女児にちょっかいをかけたものばかりでした。

立ちながら(歩きながら)触る

 地方の公営プールでは、日頃はそれほどの人出にはならないのですが、地方でも屋外のレジャー性の高いプールだとお盆の周辺ではめちゃくちゃ混みます。押し合うほどにはならないにしても、プール内を歩くとなると、人をかき分けることになります。歩くときには手で水をかき分けながら進むので、比較的人との接触が増えます。ここまでは、自然なことです。ただ意思を持って接触しようとすると、監視台からみて明らかに様子がおかしくうつります。

 波のプールのように前後左右に水の動きがあるところでは、さらに接触の機会が増えます。2016年に東京の大型レジャー施設で発生した事件では、波のでるプールで女性9人が切りつけられケガをしました。接触痴漢とは異なりますが、犯人が女性を切りつけられるほど近くに寄ることができるということを示しています。波によって体のバランスが崩れて、その際には人との距離がいくらでも自然に近づきます。

遊びながら触る

 筆者の経験ではもっとも訴えが多かった接触です。小学3,4年生の女児が特にターゲットにされやすい例です。もしかしたら、ほとんどの子供が痴漢されたことに気がついていないかもしれません。

 一例です。筆者の記憶が薄れていて不正確かもしれませんが小学3年生の5人グループだったと思います。背の立つ大きなプールの中で5人が遊んでいたところ、中学生くらいの知らない男の子と偶然遊ぶことになったそうです。プールで遊ぶのですから、当然体の接触が多くなります。全員が抱っこされたり、おんぶされたりしたそうです。

 そのグループ中の1人が遊び終わって男の子がいなくなってから、「触られた」といって泣き始めました。泣いた理由を聞いた他の小学生も実は全員が触られていたのですが、その認識がなかったようで、それを聞いてから「私も触られた」となり、プールの事務室に相談にきました。

◆防止するには

 これまで大きな事件として取り扱われたのは、前述した2016年の大型レジャー施設で発生した事件くらいなものです。プールの接触痴漢に関しては多くの人に認識されずにここまできてしまった感があります。そのため、きちんとした防止策はあまり見かけないのが現状です。ここでは、様々な立場で被害を防止するための策についてまとめてみます。

監視員(インストラクター)が気をつけること

 見てわかるような異常行動をとる入場者に注意を払うこと。レーンを泳いでいる人なら、泳いでいる時の行動、ターン前後の行動。さらに、知り合いでもないのに必要以上に体を接触して遊ぶ人の行動。歩いて移動している人なら、歩き方、ルートの取り方。女児集団がいる場合にはレーン内であればレーン途中でかたまらないよう指示すること、スタート台下では壁に張り付くように指示すること。

インストラクターが気をつけること

 水泳指導では水着状態での接触が極めて多いため、実技指導では痴漢行為につながらないように、あるいは勘違いされないように、インストラクターは細心の注意を払わなければなりません。

 水難学会では、接触指導は同性間で行うことを原則としています。どうしてもサポートが必要なときには、前腕を使うなどして、手のひらが受講者の体に直接触らないようにしています。ういてまて教室の指導時に成人男性の指導員しかいないときには、当該学校の女性教諭にサポートをお願いしたり、同性児童同士でサポートしあったりという展開をとります。

家庭では

 プールで体を触られたとの悩みを親子で共有できる雰囲気があるとよいでしょう。もっとも重要なことは、プールでは知らない人とは遊ばない、抱っことかおんぶとか、体を接触するようなことは絶対にしてはいけないことを教えること。ここから始めると、筆者が知り得た痴漢行為のうちのかなりの部分を事前に防ぐことができます。

◆商業施設での取り組み

 スイミングスクールなどの商業施設では、効果的なシステムを取り入れています。プールの安全対策に詳しい水難学会 新西道浩理事によると、入場者同士の無用な接触防止と痴漢行為発見を意識した巡回を実施しています。

 例えば、児童の授業の時には1レーン分、大人ゾーンと間隔を開けてレッスンを行うことが望ましいとされています。また監視台の監視員とは別に巡回監視員を配置して、不審な行動や危険な行動がないかチェックしています。もし不審な行動があれば、商業施設では人物が特定しやすいので、被害が出た場合には施設間で情報共有するシステムを使って、すぐに対応することができるそうです。

◆さいごに

 今回の記事を、長年のこの問題をどうしていくのか、皆さんで考える第一歩だと位置づけます。すべての人が安心して泳ぐことのできる、教わることのできるプールを目指して、これ以降で続く記事にて話題に取り上げていきたいと思います。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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