エンタメから宇宙へ 早期人的リソース開発へ高校教育の取り組み
昨今の高校教育において、クリエイターやVTuberによる授業やeスポーツの部活動、学園祭におけるエンタメやファッション系企業と連携した生徒たちによるイベント制作・運営など、エンタテインメントの現場実務を学ぶためのカリキュラムや課外活動が増えている。そうしたなか、高校生による人工衛星打ち上げを目指す「宇宙開発プロジェクト」をスタートすることをクラーク記念国際高校、東京大学、Space BD社が発表した。
人工衛星の打ち上げは、大学でも研究室や個別の有志チームなどで行われており、すでに学生が開発した小型人工衛星が民間ロケットで打ち上げられ、軌道に投入されている実績もある。一方、クラーク記念国際高校を中心にする3者が今回立ち上げたのは、人工衛星の開発と運用を高校のカリキュラムとして取り入れ、宇宙ビジネスが民間企業において一般的になる近い未来を見据えて人材を育てていく試みだ。
同校の「宇宙開発プロジェクト」は、この6月からまず部活動としてスタート。民間の人工衛星で使用されることの多い10センチ角の1Uサイズのキューブサーキットを独自に開発し、2022年度の第1回打ち上げを目指す。そして、その知見をもとにカリキュラムを2023年3月末までに完成させ、全生徒が履修する授業として実施。宇宙産業の担い手となる人材育成を目的にする。
本プロジェクトは、中須賀真一教授(東京大学大学院工学系研究科 航空宇宙工学専攻)指導のもと進行し、宇宙飛行士の山崎直子氏もアンバサダーとしてサポート。東京大学大学院工学研究科(東京都文京区)が人工衛星開発に関する技術面、“宇宙商社”を掲げるSpace BD社が打ち上げまでの宇宙産業界との連携を支援する。なお、人工衛星の打ち上げ後の具体的な運用内容は、今後のプロジェクト内で検討していくという。
特定分野の早期人的リソース開発を目的とした教育分野の取り組みは増えている。そうしたなか、宇宙ビジネスが民間事業で一般的に行われる時代がすぐ目前に迫っているいま、日本が世界をリードする立場になっていくための教育のひとつとして、本プロジェクトはあるべきものだろう。近年急増しているエンタテインメント系の教育も同様だが、現場を知り、具体的な実務を早くから学ぶことによって生徒たちの未来への道も広がっていき、それが業界の活性化と発展につながる。
人工衛星の開発、打ち上げには数千万円のコストがかかると言われている。クラーク記念国際高校は教育活動費をその予算に充てるとするが、日本の将来を担う若き才能の育成への投資は意義のあることだろう。本プロジェクトの行く末を見守りつつ、同校のこれからの新たな教育にも注目したい。