ひき逃げ事件の検挙率は52%! 悪質犯の半数が逃げている
秋の全国交通安全運動まっただ中(9月21日~30日)。交差点のあちこちに警察官や交通安全協会のボランティアさんが立っていると、いつになく緊張しますね。この期間だけでも悪質な運転者が減ってくれれば、それに越したことはありません。
今回の運動のスローガンの中には、「飲酒運転の根絶」という項目も含まれています。
私がこれまで取材してきた重大事故を振り返っても、その大半は飲酒がらみです。そして、飲酒事故を起こした多くの加害者が、現場から逃走し、「ひき逃げ(=救護義務違反)」という新たな罪を犯していました。
酒に酔ったドライバーは、判断力や運動機能が低下しているため、事故を起こしやすい状態になっています。その上、事故を起こした後、とっさに「飲酒がバレたらまずい!」と考え、信じられないような行為を重ねていきます。
極めて悪質だった”ある事件“
2002年1月、東京都多摩市で起こった飲酒ひき逃げ死亡事故は、極めて悪質でした。
同僚と飲食店をハシゴした36歳の男性会社員は、ふらついて転倒するほどの泥酔状態でハンドルを握り、駐車場から車を発進させました。そしてすぐに、前にいたバイクに追突する事故を起こします。
しかし、飲酒運転がバレるのを恐れ、あろうことかヘッドライトを消して猛スピードで逃走したのです。
そして逃走中、今度は前方を原付バイクで走っていた19歳の青年に後ろから衝突しました。
『人を引きずってるぞ、止まれ!』
一緒に酒を飲み助手席に乗っていた同僚の呼びかけも無視し、加害者は青年を車の下に巻き込んだまま90メートル走り続け、さらにパンクした車で600メートル先のコンビニまで走行し、ようやく停止します。
そして、その店でワンカップの日本酒を購入し、飲み干しました。
そう、事故の後に酒を飲んだことにしようと考える、いわゆる『重ね飲み』です。
しかし、逃げ切ることはできませんでした。
結局、加害者はガソリンスタンドに隠れているところを逮捕。
二度目に追突された青年は死亡しました。
泥酔運転はここまでドライバーを狂わせる……。
本当に痛ましい事件でした。
この事件の加害者は重ね飲みで飲酒を隠そうとしたものの、逮捕時のアルコール濃度が極めて高かったことや飲酒時の目撃証言などから、泥酔運転が立証され、東京都初の「危険運転致死傷罪」に問われました。
そして、交通事故としてはかなり厳しい懲役8年の実刑判決を受け、刑務所に収監されることになったのです。
ひき逃げ事件の半数は未解決
連日のように起こっている「ひき逃げ」事件。
被害者が死亡、重傷、軽傷を負ったひき逃げ事件は、平成16年(2004年)の2万件をピークに、現在はその半分以下まで減少しています。
しかし、犯人の約半数が、今も検挙されないまま逃げているという現実をご存じでしょうか?
警察庁がまとめた『ひき逃げ事件発生件数・検挙率の推移』というグラフを見てください。
平成26年(2014年)のひき逃げ件数は9231件。死亡事故だけで見ると検挙率は高いのですが、人身事故の全件数で見てみると犯人が検挙されたのは4815件(52%)にとどまっており、2人に1人は今もそのまま逃げ続け、何食わぬ顔で暮らしているのです。
もっとも被害の大きい“死亡ひき逃げ事件”の捜査が最優先されるのは当然ですが、防犯カメラやドライブレコーダーがこれほど増えた世の中で、同じレベルの緻密な捜査を死亡以外の事故に実施できないのは、やはり今の交通警察のマンパワー不足と多忙に問題があるのでしょうか。
結果的に、ひき逃げ事故で傷害を負った被害者の多くが泣き寝入りを強いられており、かなり深刻な状況です。
助かる命の放置は許されない!
事故を起こしたのにもかかわらず現場から逃げるという行為は、その瞬間から「助かる命をも助けずに見捨てる」という、ある意味、殺人にも近い行為ではないかと、多くの被害者遺族は怒りの声を上げています。
被害者が現場に放置されたために、後続車に轢かれてしまう「二重轢過」「三重轢過」という悲惨な事故も起こっています。
なぜ「ひき逃げ」が後を絶たないのか?
逃げ続けている人たちに確認することは不可能なのであくまでも推測にすぎませんが、私はその動機の多くに「飲酒運転」が原因しているのではないかと考えています。
それが証拠に、ひき逃げ件数が異様なほど急増した平成16年(2004年)頃は、飲酒事故の厳罰化と刑法改正の話題がメディアで大きく取り上げられた時期でした。
『飲酒運転=厳罰 → 捕まったら大変=逃げる』
こうした図式が、ないとは言えないでしょう。
飲酒運転の根絶は、ひき逃げという悪質事件の減少に必ずつながっていくはずです。