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【インタビュー前編】コヴェット初来日/ギター新時代のタッピング・クイーン:イヴェット・ヤング

山崎智之音楽ライター
Covet / photo by Kayoko Yamamoto

2018年は新世代ギター・ミュージックが躍進を遂げた年だった。

ポリフィアが新作『ニュー・レヴェルズ・ニュー・デヴィルズ』でジェイソン・リチャードソン、ichika、マテウス・アサト、CHONのマリオ・カマレナ&エリック・ハンゼルら同時代の盟友ギタリスト達と共演、また3年連続で来日公演を行ったことは大きな出来事だったし、またアーロン・マーシャル率いるインターヴァルズもアルバム『ザ・ウェイ・フォーワード』を引っ提げて初来日を果たしている。

そして2019年、大きな飛躍が期待されるのがコヴェット(Covet)だ。イヴェット・ヤングの変幻自在なタッピングをフィーチュアしたインストゥルメンタル・サウンドはギター・ミュージックに新たな息吹をもたらすものであり、最新アルバム『Effloresce』そして2018年11月のポリフィア来日公演のオープニング・アクトとしての参加は、時代が大きく動こうとしていることを予感させた。

ギターの“新たなる希望”であるコヴェットのイヴェット、そしてデヴィッド・アデミアック(ベース)、フォレスト・ライス(ドラムス)に自らの音楽性、現代の音楽シーンにおける立ち位置などについて、全2回のインタビューで語ってもらった。

前編ではバンドの軌跡とその“ギター観”を訊く。

Covet / photo courtesy of Sony Music Japan
Covet / photo courtesy of Sony Music Japan

<頭で鳴っている音を弾くには左手のワイドストレッチだけでは不可能。それでタッピングを多用するように>

●イヴェットが日本でプレイするのはこれが3回目ですよね?デヴィッドとフォレストはこれまで来日経験はありますか?

イヴェット:私は毎回別のバンドやプロジェクトで日本に来ているのよ。初めて来たときはオーケストラのヴァイオリン奏者として、2回目はソロでアコースティック・ギターを弾いたわ。コヴェットで日本に来ることが出来て、本当に嬉しいわね。

デヴィッド:俺は4年前に日本に来たことがあるけど、旅行だった。この国でライヴをやるのはこれが初めてで、ものすごいスリルを感じているよ。

フォレスト:俺は日本に来るのは初めてだ。テレビやインターネットで見るのと実際に体験するのでは大違いで、脳が爆発したようだよ。

●コヴェットがどのように結成したのか教えて下さい。

Covet『Effloresce』ジャケット/courtesy of Sony Music Japan 現在発売中
Covet『Effloresce』ジャケット/courtesy of Sony Music Japan 現在発売中

イヴェット:私はソロとしてやってきたけど、バンドにも興味があった。それで友達だったデヴィッドに声をかけて、コヴェットを結成したのよ。当初は別のドラマーがいたけど、フォレストが加わってトリオが完成した。

デヴィッド:イヴェットのことは10年ぐらい前から知っていたし、彼女が凄いギタリストであることも判っていた。バンドをやりたいと言われて、曲を聴かせてもらった瞬間、ぜひ一緒にやりたいと思ったよ。

フォレスト:俺はバンドの新キャラなんだ(笑)。2017年、CHONとのツアーの前に加入して、それからずっといる。コヴェットが結成してから2人ぐらい別のドラマーがいたけどうまく行かなかったようで、デヴィッドと10年来の付き合いだった俺に声がかかったんだ。

●イヴェットはソロ・アコースティックEPを2枚発表していますが、それはコヴェット結成以前の音源ですか?

イヴェット:順番としてはEP『Acoustics I』を発表して、コヴェットを結成、EP『Currents』、それから『Acoustics II』ね。私がギターを始めたのは元々アコースティックだったけど、ソングライティングをするにつれて、エレクトリックでも表現をしたくなった。ガレージ・バンドを組んで、たまにジャムを出来れば良いと思っていたけど、すべてがクレイジーな方向に回り始めたのよ(笑)。もちろん自分たちの音楽はシリアスに捉えているし、嬉しいことだけどね。

●イヴェットは4歳のときからピアノを学んでいたそうですが、それは両手タッピングを上達させるのに役立ちましたか?

イヴェット:うん、それは確実にあるわね。ピアノが打楽器であるのと同時に、ギターも打楽器だと考えているわ。技術的なことはもちろんだけど、ピアノをやってきたことで音楽脳が鍛えられたと思う。ピアノが左手と右手のポリフォニックな楽器であるのと同時に、ギターもポリフォニックな楽器としてアプローチ出来る。それにピアノでもギターでも、頭の中で鳴っている音を最も効率的な形で指で再現するという点では同じね。指先から自然に流れるのではなく、頭にあるものを指先にトランスレートしようとするから、手こずることも多い。頭で鳴っている音を弾くには左手のワイドストレッチだけでは不可能だから、右手の指を使うしかない。それでタッピングを多用するようになったのかもね。

●タッピングで影響を受けたギタリストは?

イヴェット:具体的なギタリストは頭に浮かばないけど、toeやアメリカン・フットボールみたいなバンドから学ぶことが多かったわ。

●コヴェットは特異なギタリストがいるだけでなくリズムも個性的ですが、手本とするバンドやプレイヤーはいますか?

フォレスト:スリー・トラップド・タイガーズのマット・カルヴァートがやっているストローブス(Strobes)とか、奇妙なリズムのバンドをよく聴いているけど、影響を受けたかは判らないな。ただ、普段スリー・コードのロックやブルースを聴いていないことは確かだ。

デヴィッド:ジャズ・ロックやフュージョンも好きなんだ。ニーボディとか、昔のバンドではマハヴィシュヌ・オーケストラやリターン・トゥ・フォーエヴァー...メシュガーのような変則的なメタル・バンドも好きだよ。

フォレスト:ニーボディはリズムの構成の面で、デヴィッドも俺も影響を受けたと思う。コヴェットのアルバムを聴いても、彼らからの影響を聴き取ることは難しいと思うけどね。

デヴィッド:彼らのテクニックや曲構成から影響を受けたけど、音楽からは影響を受けていないし、まったく似ていない筈だ。

イヴェット:メタル的なバンドで私が好きなのはペリカンやアイシス、ケイヨ・ドット...ありきたりでなくムーディなところが最高ね。アイシスのギタリストが結成したスーマックも好きよ。カーボンやフロンティアみたいなケイオティックでクレイジーなバンドも最高ね。メタル以外にも映画音楽やエレクトロニック・ミュージックも愛聴している。坂本龍一やジョン・ホプキンスとかね。要するにジャンルよりも、自分をどこかに連れていってくれる音楽が好きなのよ。コヴェットも、聴く人をどこかに連れていくような音楽を目指しているわ。

●さまざまなアーティストの名前が挙げられましたが、コヴェットはどれとも似ていないのが興味深いですね。

イヴェット:その通り。私たちがいつもテクニカル・プログレばかり聴いていると思っている人もいるけど、全然そんなことはないのよ。

デヴィッド:俺たちのショーでアニマルズ・アズ・リーダーズのTシャツを着ている人をよく見かけるけど、俺たちはそれほど彼らの音楽を聴いていないんだ。もちろん彼らはひとつのスタイルの先駆者だし、リスペクトしているけどね。

Covet / photo by Kayoko Yamamoto
Covet / photo by Kayoko Yamamoto

<“ギターは死んだ!”と言われるけど、若い世代の女性ギタリストが増えている>

●コヴェットはアニマルズ・アズ・リーダーズやポリフィア、CHONなどと共に新世代ギター・ミュージックの旗手と見做されていますが、ギター・ミュージックの現状についてどう考えますか?ギブソンやギター・センターの経営不振、メインストリームのチャートにおけるヒップホップなエレクトロニック・ミュージックの台頭など、ギター音楽は逆風に晒されているようにも感じられますが...。

イヴェット:よく“ギターは死んだ!”とか言われるけど、若い世代のギタリストは減っていないと思う。特に女性ギタリストが増えているんじゃないかな。数年前の、男子校のクラブみたいな感じはなくなったわね。確かにヒット・チャートではギター系のアーティストが減ったけど、何事にも周期があるし、数年後にギター音楽は本格的に復活すると信じている。

デヴィッド:弦楽器はもう何百年も続いてきたし、ある日突然消滅することはないと思うよ。ドラム・マシンが生まれてから40年以上経つけど、人間のドラマーはいなくならないだろ?

●実際、世界各地から新世代を担うギタリスト達が登場して、一緒にツアーをしたり、コラボレーションしていますね。

イヴェット:SNSの普及によって、さまざまなバンドとお互いにインスピレーションや刺激を受けるようになったし、積極的にコミュニケーションを取ることも出来るようになった。世の中には素晴らしいギタリストが大勢いることを知ったわ。インヴァリッズのピート・デイヴィスも凄いし、フローラルというバンドでやっているネイト・シャーマン、日本のT-cophonyみたいな人たちは常に刺激とインスピレーションを与えてくれる。

フォレスト: 俺の友達のハイメ・ベセラも素晴らしいギタリストだ。ジ・イラストラティヴ・ヴァイオレットというバンドを一緒にやっているんだ。彼と共演することで、一見クレイジーに聞こえることでもやるべきだと学んだ。それとファーザー・フィギュアのマイク・オッソが書くリフとメロディは本当に素晴らしいね。聴いていると頭がおかしくなるよ。

イヴェット:ただ、私は陸上競技をやっているわけではないし、「誰が一番速いか」なんていうのには興味がない。速弾きよりも、意味のあるフレーズを弾くことを心がけているわ。たまにサラ・ロングフィールドと比較されることもある。彼女は素晴らしいギタリストだけど、私とやっていることは違うと思う。2人ともストランドバーグのギターを弾いているフィンガー・スタイルの女性ギタリストということで比較されやすいんだろうけど、まったくスタイルが違っているわ。

●昔のギタリストから影響を受けたりしていますか?

デヴィッド:ジャンゴ・ラインハルトとかウェス・モンゴメリーとか(笑)?

●いや、そこまで遡らなくても良いですが...。

イヴェット:スタンリー・ジョーダンはニューヨークの“イリディアム”クラブでライヴを見て、その後に挨拶したわ。「君のビデオをyoutubeで見たよ」と言ってくれて驚いた。私が両手タッピングをしていることを知って、興味を持ってくれたみたいね。「今度一緒にライヴをやろうよ」と言ってくれた。彼は...スタンリーを“彼”と呼んでいいのか判らないけど(スタンリーは近年“性別を超えた存在”であると主張している)、本当に素晴らしいギタリストね。凄まじいテクニックを持っているけど、それは彼の音楽を表現するための“道具”に過ぎない。スタンリーはギタリストである以上に音楽家なのよ。

●タッピングを武器とする女性ギタリストということで、ジェニファー・バッテンと比較されることもあると思いますが、彼女のプレイは知っていますか?

イヴェット:もちろん!ジェニファーはマイケル・ジャクソンの「今夜はビート・イット」のライヴ・ヴァージョンで、オリジナルでエディ・ヴァン・ヘイレンが弾いたギター・ソロに新しい生命を吹き込んでいた。彼女とは“女性ギタリスト座談会”をウェブでやったことがあるわ。グレッチェン・メン、ニリ・ブロッシュなどを交えてね。ジェニファーはすごく面白い人だった。ジョークの連発で、私はずっと笑いっぱなしだったわ。彼女の年齢になったときに、あれほどエネルギーとユーモアに満ちた人でありたいと思う。彼女と比較されるのは光栄ね。

後編では最新アルバム『Effloresce』、そして彼らのライヴ・パフォーマンスなどについて訊いてみたい。

コヴェット

『Effloresce』

ソニーミュージック XSCP-11

現在発売中

https://www.sonymusic.co.jp/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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