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校長とPTA会長が実現「保護者と学校が本音で意見交換できる場」は、いいことばかりだった

大塚玲子ライター
本多聞中元PTA会長今関明子氏(左)と元校長福本靖氏(右)(写真は今関氏提供)

 もうちょっと別のやり方があるのでは――。PTAの運営委員会* に出て、そんな疑問を感じたことがあるのは、筆者だけではないだろう。

  • (* 名称は学校により異なる。多くの場合、管理職の先生と本部役員、各委員代表(部長)で構成され、1~3か月に一回程度開催される)

 校長のあいさつ、教頭による行事予定の読み上げ、各委員会からの活動報告が毎回型通りに行われ、たまに学校が困っている課題(守秘義務に反しない範囲のもの)が伝えられる。こんな形式的な会議で、「学校と保護者はうまくやっております」とでもアピールしたいのだろうか。

 ただし、たまに校長や教頭から聞ける、学校が困っている課題は興味深かった。

 学校には地域からこんな苦情が来ることがあるのか(驚き)。昔、卒業生が慣習的に行っていたイベントが、あとで先生にこんな負担をかけることもあるのか(恐縮)。等々、保護者の立場からは知り得なかったことを知れば、子どもたちが毎日を過ごす学校という場をよくするために何が必要か、より深く考えられるようにもなる。

 こういった情報はむしろ、なるべく多くの家庭と共有する必要があるのではないか。なぜ学校は、PTAで役職に就いた保護者としか、こういった情報を共有しようとしないのか?

 これまでの会議のやり方を、思い切って変えられないものか。参加者は役職に就いた保護者に限定せず、保護者も教職員も希望者は誰でも出られるようにする。そして、学校と保護者が本音で話し合えるような場になればいいのに――。

 叶うはずない夢、程度に思ってきたが、実現した学校・PTAがあると聞いて驚いた。2017年秋、神戸市立本多聞中学校で当時PTA会長をしていた今関明子氏に会った。彼女によると、同校で毎月行われるPTA運営委員会の会議は保護者はほぼ誰でも参加でき、校長と自由に意見交換できるという。いつも大勢が参加し、大変盛り上がるそうだ。

 これは面白い、いつかきちんと話を聞いてみたい。そう思っているうちに、今関氏と、同校の校長だった福本靖氏が、共著『PTAのトリセツ』(2019年5月発売)にその詳細をまとめてくれた。以下、今関氏と福本氏から聞いた話を引きつつ、この本に書かれた内容を紹介したい。

*PTA会長と校長の思惑が重なった

 今関氏は、子どもが小学校のときもPTA会長として減らせる仕事を思い切って減らしてきた。仕事の削減を進めれば自ずと、PTAの存在意義に向き合わざるを得なくなる。PTAは何のためにあるのか? 保護者がPTAに求めることがあるとすれば、それは何だろうか? 彼女は考えた。

 「私たちはむしろ『選ぶことのできない公立中学に通わせる者同士で助け合い励まし合う仲間』や『いろいろ教えてくれる先輩と出会える場がほしい』のです。作業しながらや、会議の行き帰りに、お母さん同士で子どもの話、学校の話ができることがPTAの唯一の利点でした。たとえば、『この学校って優秀すぎない? うちの子、いくら頑張っても成績上がらない気がする』『うちの子の悪い噂、聞かへん? なんか聞いたらすぐに教えてね』というふうにです」(『PTAのトリセツ』p25)

 そんな思いから、彼女は小学校のPTA運営委員会を、役員(委員)なら誰でも参加できるようにした。だがこのとき実現したのは、あくまで「保護者同士の意見交換」であり、「保護者と学校の意見交換」にまでは至らなかった。

 中学校でもPTA役員となった今関氏。そこに現れたのが、福本氏だった。福本氏は、初めから運営委員会を「保護者と学校の本音の意見交換の場」にしたいと考えていた。前任校は校内秩序が崩壊していたが、保護者たちと「忌憚のない意見交換」を繰り返した結果、保護者も生徒たちもいい方向に変化する、という経験をしていたからだ。

 PTA会長の今関氏と、校長の福本氏。両者とも「意見交換の場」を求めており、考えは重なっていた。そこでPTA改革を行い、委員会制度をなくすと同時に、運営委員会をPTA活動の中心に据え、しかもその会を「役員なら誰でも参加できるもの」にした。校長は毎回、必ず参加する。

 すると運営委員会は、「強制ではなかったのに回を重ねるごとに参加者は増え、ほとんどの役員が都合をつけて参加するように」なったそうだ。

 運営委員会の議論から実現したことは、たくさんあるという。たとえばこんな具合だ。

<保護者→学校>

○「ボストン型バッグは使いにくい」→議論後3か月で、リュックタイプの導入と選択制を採用

○「体育会練習期間は体操服で登下校したい」「部活動後は体操服で下校したい」→まもなく可能に

○「子どもは運動が苦手。部活をやりたがっているが文化部は吹奏楽しか選択肢がない」→美術部創設

○「運動部の生徒の荷物置き場がいつも砂ぼこりまみれになる」→アスファルト化がベストだが費用がかかりすぐには難しい →教委と粘り強く折衝して実現

○「子どもたちが自由に使える図書室の開室日を増やしてほしい」→PTAボランティアによって月曜の図書室を開室 →その後、学校司書を配置

○「障害のある娘が、合唱コンクールのときに音程をはずして減点対象となったら、クラスメートに申し訳ない」→校長がそういったことを採点基準にしないと明言。他の保護者たちも「親が熱くなりすぎて、本来の学校行事の意味を忘れてはいけない」ことに気付かされる

○「校内で導入されたネット教材を、自宅でもやりたい」→ダメ元で業者に相談したところ、家庭への配信も実現

<学校→保護者>

○教員の多忙化について、何をしていて忙しいのか、具体的に説明 →ITに詳しい家族がいるという保護者が、採点支援システムの採用を提案。業者を探してシステムを導入したところ、市内の他校からもたくさんの問い合わせが来るように

 ほかにも多数の面白い事例があるので、もし興味のある方は、本を見てもらいたい。

 この運営委員会について、福本氏は「教員の多忙化解消と、保護者へのより丁寧な対応が求められる矛盾に、いまの学校現場は苦悩しているが、(この会議が)唯一方向性を見出してくれるものとなっており、学校にとっても大きなメリットがある」と話す。

*誰が、これをやれるのか?

 どうだろうか。筆者は率直にうらやましいと感じたし、いいやり方だとも思った。保護者にとっても学校にとっても、いま必要なのは、まさにこういった場ではないのか。多くの保護者は忙しそうな教員に遠慮して、言いたいことや聞きたいことがあっても黙っているが、そうすると誤解も生まれる。互いに話せばわかることでも、こじれたりもする。

 こんな意見交換の場が、我が子の学校にもあればいいのに、と願う保護者はきっと少なくないだろう。

 ただ、他のPTAでもこれをやることが可能か? と考えた場合、気にかかる点が出てくる。

 まずひとつは、こんな場を容認し、且つ取りまとめられる校長が、そうそういるだろうか? という疑問。はっきり言って、とても少ないだろうと予想される。いまの多くの校長は「保護者やPTAはできるだけ学校のことに口を出さないでほしい」と考えており、「率直な意見交換の場」など、頭にも浮かばなさそうだ。

 もちろん、校長のせいだけではない。他の保護者から見ても「それは無茶」と思うような要望を声高に求める保護者はいる。「率直な意見交換の場」を設けたらややこしい展開になることもあるだろう。うまく機能させるには、福本氏と今関氏のように、保護者としっかり信頼関係を築く手腕のある校長と、校長の意思を深く理解する会長が揃う必要があるかもしれない。

 校長以外の教員が取りまとめるのも難しそうだ。保護者の意見にどう対応するか、決断を下せる立場にはないので、保護者の意見と校長の考えの間で板挟みになるだけだろう。やはり「その気」のある校長がいないことには、実現は不可能と考えられる。

 もうひとつ気にかかったのは、この会にPTA会員以外が参加できない点だ。PTAは任意加入の団体なので「PTAには入りたくないが、学校との意見交換会(運営委員会)には参加したい」という保護者や教職員も出てくるだろう。もしこれをやるなら「非会員でも誰でも参加可能」であってほしい。

 なお、この本全体として気になった点でもあるが、今関氏も福本氏も、加入の任意性の実現については、あまり重視していないところが惜しい(既に実現している、という前提なのかもしれないが)。

 素晴らしい取り組みなだけに、もしも強制加入前提のPTAでこういった場が実現してしまうと、一層強制が力を増すことも懸念される(「いい活動をしているんだから黙って入りなさい!」というように)。

 もしかすると、「保護者と学校の本音の意見交換」は、PTAでやらなくてもいいのかもしれない。たとえば、いま全国的に導入が進められているコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)。文部科学省のHPには、このように説明されている。

学校運営協議会には、主な役割として、

* 校長が作成する学校運営の基本方針を承認する

* 学校運営に関する意見を教育委員会又は校長に述べることができる

* 教職員の任用に関して、教育委員会規則に定める事項について、教育委員会に意見を述べることができる

の3つがあります。

 文科省としては、学校と外部(保護者や地域住民)の意見交換は、PTAではなく、この新たな仕組みのもとで行うべきと考えているようだ。

 だがこれに対し、福本氏は疑問を投げかける。

 「PTAでできないことが、どうしてコミュニティ・スクールでできるのか?(できないのでは?)」

 たしかにその通り、と思える。残念ながらコミュニティ・スクールにおいても、冒頭に書いたPTA運営委員会と同様の、形式的な会議が行われていると聞くことが多い。「本音の意見交換会」が行われているような話は、かなり少ない印象だ。

 では、誰がこの「保護者と学校の本音の意見交換会」をやれるのか? もしやれるというなら、PTAでもコミュニティ・スクールでもいいだろう。数は非常に少ないが、成功例もゼロではないのだから、方法を考えれば、なんとかなるのかもしれなくもない。それとも、また別の団体がやることも考えられるだろうか?

 とにかく、誰かしらがこれをやる必要があると思うのだが……。筆者の思考は現状、ここで止まっている。

 ほかの方は、どう思われるだろうか。関心のある方はこの本を読み、いっしょに考えてもらえるとありがたい。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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