Yahoo!ニュース

避暑を終えたクール美人のアサギマダラが山から下りてくる秋=高尾では長距離の「渡り」をしない怠け者も

天野和利時事通信社・昆虫記者
10月中旬、神奈川県の津久井湖周辺でコウヤボウキの花で吸蜜するアサギマダラ。

 10月になると、あのクールビューティーの蝶「アサギマダラ」が山から平地に降りて来る。鑑賞用にフジバカマがたくさん植えてある公園があれば、都会でもアサギマダラが花の蜜を求めて集まってくることがある。

 「美しいものには毒がある」と良く言われるが、フジバカマや、近い種類の野草のヒヨドリバナの蜜には毒がある。アサギマダラはこの毒入りの蜜を好んで吸い、その毒を体に貯めることで自らも毒を持ち、天敵に襲われるリスクを減らしているという(幼虫もキジョランなど毒のあるガガイモ科の植物を食べる)。

10月中旬、高尾山でハイカーの帽子にとまった人懐っこいアサギマダラ。
10月中旬、高尾山でハイカーの帽子にとまった人懐っこいアサギマダラ。

10月中旬、裏高尾の掲示板にとまっていたアサギマダラ。
10月中旬、裏高尾の掲示板にとまっていたアサギマダラ。

 昆虫記者は晩秋に鎌倉で、フジバカマに吸蜜に来たアサギマダラを見たことがある。また、幼虫の餌になる蔓(つる)植物のキジョランが生えている公園に産卵に来ることもある。都心では、港区の自然教育園にも時々産卵に来るという。東京・八王子市や、神奈川県横浜市の公園でも、冬に幼虫を見かけるので、産卵に来るアサギマダラを秋に目撃することがあるかもしれない。

 秋のアサギマダラをほぼ確実に見たければ、キジョランが多い高尾山周辺がお勧め。ケーブルカーやリフトを使わず、ゆっくりと歩いて山頂に向かえば、人通りの多い表参道でも、結構高い確率でアサギマダラに出会える。人通りが比較的少ない裏高尾を歩けば、アサギマダラとの出会いの確立はさらに高くなる。

10月末、津久井湖周辺で好物のヒヨドリバナに来ていたアサギマダラ。
10月末、津久井湖周辺で好物のヒヨドリバナに来ていたアサギマダラ。

8月上旬、上高地で避暑中のアサギマダラ。やはりヒヨドリバナがお気に入り。
8月上旬、上高地で避暑中のアサギマダラ。やはりヒヨドリバナがお気に入り。

 春に高尾山周辺で羽化したアサギマダラは、猛暑の夏になると避暑のため奥多摩山地など標高の高い場所に移動。そこで繁殖した次世代の蝶の一部は、秋に高尾山や周辺の平地に降りて来て、冬でも青々と葉を茂らせているキジョランに産卵すると考えられている(実際高尾周辺のキジョランでは、1、2月の厳冬期にアサギマダラの小さな幼虫がたくさん見られる)。

 1000キロ以上の「渡り」をすることで知られるアサギマダラだが、高尾周辺のアサギマダラの一部は、大した距離を移動せず、安楽な生活を送っている可能性が高いというわけだ。

(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

天野和利の最近の記事