避暑を終えたクール美人のアサギマダラが山から下りてくる秋=高尾では長距離の「渡り」をしない怠け者も
10月になると、あのクールビューティーの蝶「アサギマダラ」が山から平地に降りて来る。鑑賞用にフジバカマがたくさん植えてある公園があれば、都会でもアサギマダラが花の蜜を求めて集まってくることがある。
「美しいものには毒がある」と良く言われるが、フジバカマや、近い種類の野草のヒヨドリバナの蜜には毒がある。アサギマダラはこの毒入りの蜜を好んで吸い、その毒を体に貯めることで自らも毒を持ち、天敵に襲われるリスクを減らしているという(幼虫もキジョランなど毒のあるガガイモ科の植物を食べる)。
昆虫記者は晩秋に鎌倉で、フジバカマに吸蜜に来たアサギマダラを見たことがある。また、幼虫の餌になる蔓(つる)植物のキジョランが生えている公園に産卵に来ることもある。都心では、港区の自然教育園にも時々産卵に来るという。東京・八王子市や、神奈川県横浜市の公園でも、冬に幼虫を見かけるので、産卵に来るアサギマダラを秋に目撃することがあるかもしれない。
秋のアサギマダラをほぼ確実に見たければ、キジョランが多い高尾山周辺がお勧め。ケーブルカーやリフトを使わず、ゆっくりと歩いて山頂に向かえば、人通りの多い表参道でも、結構高い確率でアサギマダラに出会える。人通りが比較的少ない裏高尾を歩けば、アサギマダラとの出会いの確立はさらに高くなる。
春に高尾山周辺で羽化したアサギマダラは、猛暑の夏になると避暑のため奥多摩山地など標高の高い場所に移動。そこで繁殖した次世代の蝶の一部は、秋に高尾山や周辺の平地に降りて来て、冬でも青々と葉を茂らせているキジョランに産卵すると考えられている(実際高尾周辺のキジョランでは、1、2月の厳冬期にアサギマダラの小さな幼虫がたくさん見られる)。
1000キロ以上の「渡り」をすることで知られるアサギマダラだが、高尾周辺のアサギマダラの一部は、大した距離を移動せず、安楽な生活を送っている可能性が高いというわけだ。
(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)