女性が活躍するホテル、女性プロジェクトが成功するために必要な3つのこと(前編)
女性活躍推進法
2016年4月から「女性活躍推進法」が施行され、女性の働きが期待されていることは、多くの人がご存知のことと思います。
では、具体的にはどういった法律なのでしょうか。厚生労働省のサイトや内閣府男女共同参画局のサイトで説明されていますが、あまり分かり易いとは言えません。
他のサイトでは、以下のように丁寧に説明されています。
日本は少子化が進んでいて人口が減少しており、労働力が不足することは自明です。そのため、政府は、質でも量でも、今よりもっと女性に働いてもらいたいと考えており、それを促すためにこの法律が施行されることになったということです。
ホテルは女性の働き手が多い
このような状況にあって、ホテルはもともと女性の従業員も多く、女性が働き易い環境となっています。実際に出産・育児から復帰し、引き続き活躍している女性従業員の方を私も何人も知っています。
そして近年、ホテルはターゲットにしている女性客の商品やサービスを考えるにあたり、女性だけのプロジェクトを発足したりしているのです。
女性が特に活躍しているホテルについて紹介していきましょう。
ザ・プリンス パークタワー東京
ザ・プリンス パークタワー東京は2012年という早い時期に女性だけが20人集まった「TOKYO HONEY PROJECT」を発足し、以来50を超える商品を開発してきました。「TOKYO HONEY PROJECT」の由来は、蜜にハチが集まるように、女性客が集まる商品を開発したいということです。
また、発足当初からミツバチをイメージしたキャラクターを作成し、2013年に社内公募でその名称を募集し、「ハニー」を動詞化した「ハニール」が命名されました。
マーケティング戦略 リーダー鈴木愛氏は「様々な女性による視点が必要なので、マーケティングだけでなく、企画、フロント、コンシェルジュ、レストランスタッフ、営業、ウェディングプランナー、洋食や中華の調理スタッフ、パティシエール、女性ドアマン、人事部と、幅広い職種から参加している」と説明します。
途中でメンバーの入れ替わりはありながらも、常に20名近くが参加しており、現在は18名がメンバーになっているということです。
ザ・プリンス パークタワー東京の成功にならって、東京プリンスホテル、ザ・プリンス箱根、新横浜プリンスホテル、ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町でも、女性プロジェクトが発足していることを鑑みると、「TOKYO HONEY PROJECT」が及ぼした影響力は大きいと言えるでしょう。
「TOKYO HONEY PROJECT」が考案した商品
では、「TOKYO HONEY PROJECT」はどのようなものを考案したのでしょうか。主なものは以下の通りです。
スイーツやベリーベリーブリオッシュフレンチトーストクリスマスケーキといったスイーツから、ヘルシーさやビューティーに関連した商品、さらにはビールまでと守備範囲がとても広いです。
注目したいのは、女性の視点からオリジナルクラフトビールを作ったり、ウィスキーの楽しみ方を提案したり、これまで力を入れていなかったハロウィーンフェアを初めて行ったりと、「TOKYO HONEY PROJECT」が発足していなければ、実現しなかったものが多かったことです。
資生堂やワコール、ローソン、キリンビバレッジといった、大手メーカーと提携したりと、コラボレーションにも積極的です。
2013年にはローソンと提携して「はちみつレモンツイスト」「チーズクリームハニーデニッシュ」の2つのパンを開発しました。どちらとも女性が好きなハチミツを使った優しい味わいのパンで、「チーズクリームハニーデニッシュ」は4個入りで少しずつ食べられ、袋にもしまえるようになっています。5ヶ月もかかって100個以上の試作品を作るなど、味にも妥協はありません。
ホテルがコンビニエンスストアとコラボレーションするのは非常に珍しいことですが、東京プリンスホテルの中にローソンがテナントとして入居しており、既にコネクションが築かれていたことが大きかったということです。
発足した経緯
では、「HONEY PROJECT」はどういった経緯で発足することになったのでしょうか。
それは、ホテルを利用する女性客の満足度を高めようとして、女性の有志が集まったことがきっかけでした。そして、活動を進めていくにあたり、当時の総支配人(現在は東京シティエリア統括総支配人専務執行役員)であった武井久昌氏に、女性プロジェクトの意義を説明し、見事プロジェクト化が認められたのです。
公式プロジェクトになったことは、大きな意味がありました。総支配人から認めてもらうことは、重要なプロジェクトであるとお墨付きをもらえたということなので、同じ現場にいる上司や同僚から、「TOKYO HONEY PROJECT」に時間を割くことが理解されます。
「TOKYO HONEY PROJECT」のメンバーが堂々と集まり、表立って開発を進めていくことができるのは、モチベーションを維持する上でとても大切なことでしょう。また、経費が必要になった場合には、マーケティングの経費として計上されるので、予算の関連でスムーズに進めることができます。
進め方
最初の頃は「TOKYO HONEY PROJECT」の全メンバーが月1回集まり、60分に渡って議論していましたが、最近では扱う商品も多くなって時間が足りなくなってきました。そのため今年からは、会議の時間を90分に拡大しています。
また、18人が同時に議論して進めることは難しいので、6人ずつの3チームに分かれて効率よく進めています。このチームのメンバーは、同じ職種が集まらないようにバランスよくアサインされています。
今後の商品
ますます活躍の場を広げている「TOKYO HONEY PROJECT」ですが、近々世に送り出される商品をいくつか見てみましょう。
クリスマスケーキには、毎年必ず「TOKYO HONEY PROJECT」が考案したものが1つはあります。2016年は「素敵な靴は素敵な場所へ連れて行ってくれる」という言葉からヒントを得て、ハイヒールの形をした「アン パ ドゥ ブリュス」を販売します。
「TOKYO HONEY PROJECT」メンバーには、中国料理の調理部門で働く女性がいるので、中国料理「陽明殿」のランチメニューを考案して提供する予定です。実は「TOKYO HONEY PROJECT」が中国料理の商品を手掛けるのは初めてになります。こってりしているというイメージのある中国料理で、いかにして女性が興味を引くものを考えられるのか、ヒットメーカーである「TOKYO HONEY PROJECT」の飛び行く先に注目です。
京王プラザホテル
女性が活躍しているホテルと言えば、京王プラザホテルを忘れてはなりません。京王プラザホテルでは女性の役職者が非常に多く、特に驚くのはレストランにおける役職者の多さです。
- 中国料理「南園」
店長 田崎律子氏
- フレンチ&イタリアン「デュオ フルシェット」
店長 高松紘子氏
- フードブティック「ポピンズ」
店長 井村理恵氏
- 懐石「蒼樹庵」
女将 土屋陽子氏
※京王プラザホテルでは店長が店のマネージャー
※女将は店長ではないが、店長相当の責任者
ホテルのレストランではサービススタッフに女性は少なくないもの、マネージャーとなるとほとんど見当たりませんが、京王プラザホテルではいくつもの主要なレストランで女性がマネージャーを務めています。
意図的に女性の役職者を増やそうとしたのではなく、実力のある人物を評価していったら、たまたま女性の店長が多くなったということです。
また、シェフパティシエではなく、女性パティシエの望月希美氏や小尾奈央氏がスイーツブッフェのメニューやクリスマスケーキの新しい商品を考案するなど、女性に裁量が与えられ、活躍しています。
「樹林」ではデザートブッフェが人気となっていますが、実は「不思議の国のアリス」をモチーフにしたデザートブッフェはこの京王プラザホテルが最初でした。
2度目となる2016年のアリスフェアでは、アリスが大好きな女性たちと京王プラザホテルのスタッフから構成される「アリスイベント委員会」を発足し、デザートブッフェにより磨きをかけたり、新たな女子会プランやウェディングプランを考案したり、女性受けするネーミングを練ったりと、「アリスイベント委員会」が大切な役割を担っています。
京王プラザホテルでは、レストランの店長やパティシエ、さらには、「外部の女性」も活躍するなど、様々な関わり方で女性が活躍しているのです。
(「女性が活躍するホテル、女性プロジェクトが成功するために必要な3つのこと(後編)」へと続きます)