韓国NGO「国防費を削減しコロナ支援に」...新型コロナで問われる'人間の安全保障'
韓国の代表的な政策提言NGO(非政府組織)『参与連帯』が「増え続ける国防費を大幅に削減し、新型コロナウイルスの被害克服のために投入すること」を求めた。
●「国防」か「人間の安全保障」か
『参与連帯』は8日、「国防費を大幅に削減し新型コロナウイルスへの対応に使うべき」という論評を発表した。
「国民の生活の中での民主主義」を掲げる同団体は、1994年に創設された。積極的な権力監視・不正告発を続け韓国ナンバーワンの政策提言NGOとの定評がある。
声明の骨子は、新型コロナウイルスの拡散による経済的な被害が続出する中、政府は積極的に財政を投入しこれを支援すべきであり、その財源として国防費を削減して投入しようというものだ。それと共に国防費を優先する国家予算の優先度を考え直そうという議論も視野に入れたものだ。
これは新型コロナウイルスの世界的拡散という歴史的な事件を前に、「国家の安全保障」と「人間の安全保障」の関係を見直す大切な視点を提供する議論といえる。
韓国政府は現在、新型コロナの被害対策のため追加補正予算とは別に、国防費・医療給与・環境・公的開発援助(ODA)、農漁村支援、社会間接資本(SOC)などの予算項目を調整することを考えている。しかし『参与連帯』は「これでは不十分」と声明書で指摘する。
●「攻撃用」の予算削減を
同団体は特に、2020年の国防費50兆1,527億ウォン(約4兆4,800億円)のうち「防衛力改善費」として計上されている16兆6,804億ウォン(約1兆4,900億円)の削減を主張している。武器を買うための予算だ。
同団体はこのうち、核や大量殺傷兵器に対抗するための「3K」構築予算の約6兆ウォン(約5,350億円)に対し「攻撃用」として批判の目を向ける。
これは、北朝鮮軍の状況を判断し打撃を加えるための「キル・チェーン(Kill Chain)」、北朝鮮のミサイルを迎撃するための「韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)」、そして核兵器の使用兆候をキャッチした際の「大量応酬報復体系(KMPR)」を指すものだ。
2017年をピークに続いた朝鮮半島の緊張状態の中で、韓国の最重要課題の一つとされた。
同団体はこれに加え、韓国型戦闘機(KF-X)開発費用の約1兆ウォン(約890億円)、また現在、米国との間に費用の交渉が続く駐韓米軍負担金などを「妥当性と優先順位を綿密に検討すべき事業」と名指しし、再考を迫っている。
●「全面的な社会の転換を」訴え
『参与連帯』はまた、「新型コロナウイルスの世界的な拡散は、安保とは何かを問うている」との問題提起を行った。非常に大切な問いだ。
同団体はこれに「人間の生活と直結した脅威が何かを直視し、市民の安全を守るために限られた国家予算をどこに投資するのか、熾烈に悩むことで応えるべき」と正面からの議論を促す。
続いて、「私たちに重要なことは、すでに溢れかえる最先端の武器よりも、良い雇用、しっかりとした社会安全網、持続可能な環境といったものだ。しかしこれまで私たちの税金はそういった所に使われず、限定された資源は『国家安保』に優先的に配分されてきた」と意見を示した。
その上で、「韓国の軍事費の支出は2018年基準で世界10位となったが、GDP対比の社会福祉費の支出はOECD(経済協力開発機構、会員国36か国)最下位の水準にとどまっている。公共医療、基礎生活保障、雇用、環境、外交・統一などのための予算は、依然として国防費に比べとても低い」と韓国政府の対応を訴えた。
『参与連帯』の論評は以下の文章で閉じられている。今後ますます重要になっていく視点だろう。
「新型コロナウイルスの大流行(パンデミック)は第二次世界大戦以降、最大の危機と認識されている。コロナ時代の『ニュー・ノーマル(新しい日常の秩序)』のために、全面的な社会の転換が必要だという声も世界的に高まっている。予算投資の優先順位調整と国防費削減、盲目的な軍備増強ではなく、平和的な方法で平和を構築する方向への全面的な政策転換が必要だ」。