わいせつ罪でまた逮捕 なぜ保釈
下校途中の小学女児らを狙った強制わいせつ事件などで起訴され、保釈中だった参議院議員の長男(22)がまた逮捕された。同様の事件に及んだ容疑であり、「やっていない」と否認しているという。
【今回の逮捕まで】
これまでの経過は次のようなものだ。
2017年11月2日・逮捕1回目
(1) 10月31日午後4時ころ、所沢市の路上で、下校途中の小学女児の服をつかんで転倒させた容疑(暴行罪で逮捕後、送検時に罪名を強制わいせつ未遂罪に切り替え)。
11月22日・逮捕2回目
(2) 10月20日午後3時50分ころ、所沢市の路上で、下校途中の小学女児にキスをした容疑(強制わいせつ罪)。
(3) その10分後ころ、数百メートル離れた路上で、別の小学女児の身体を触った容疑(暴行罪)。
12月
検察は(2)を起訴、(1)(3)を不起訴。
2018年2月
初公判で長男は(2)の事実を認める。
3月7日・逮捕3回目
(4) 2017年10月12日午後6時ころ、千代田区内の路上で、下校途中の女子中学生に対し、背後からその口をふさいで引き倒し、頭部打撲など全治1週間のけがを負わせた容疑(強制わいせつ致傷罪)。
3月
検察は(4)を起訴。
4月下旬
保釈により釈放。
6月13日・逮捕4回目
(5) 保釈中の5月14日午後4時半ころ、練馬区の路上で、下校途中の小学女児の胸をわしづかみにした容疑(強制わいせつ罪)。
(5)については、ピンク色の自転車に乗って被害女児に近づく長男が付近の防犯カメラ映像に記録されていたとか、周辺では5月7~19日に小学女児に対する同様の事件が他に5件発生しているとか、長男が5月20日に自転車を処分している、といった報道がある。
他方、長男は逮捕後の取調べで事件への関与を否認しているとのことだ。
なお、保釈中に事件を起こしたとして逮捕されただけでは、直ちに保釈が取り消されたり保釈保証金が取り上げられたりするわけではないので、注意を要する。
【保釈が難しい事案】
では、裁判所の保釈許可の判断は正しかったと言えるのか。
もちろん、まずは逮捕容疑に対する徹底した捜査が求められ、長男の関与を慎重に見極める必要があるが、もし事実であったとなると問題だ。
この点、保釈は被告人の権利であり、刑事訴訟法が定める6つの事由に当たらない限り、当然に保釈される、というのが建前だ。
その代表格が「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」というもので、実務ではほとんどのケースがこれに当たると判断される。
容疑を否認しているような事件であれば、なおさらだ。
また、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき」というものもある。
殺人や強盗殺人など有罪の場合に重い処罰が予想されるケースでは、たとえ高額な保釈保証金を積ませても、なお逃亡する可能性が大だから、原則として保釈を許さない、というわけだ。
強制わいせつ罪だと下限が懲役6月、上限が懲役10年であり、これに当たらないが、強制わいせつ致傷罪になれば下限が懲役3年、上限が無期懲役まで跳ね上がり、これに当たる。
長男は先ほどの(4)の事件で起訴されているわけだから、本来は保釈が許されないはずだ。
【裁量保釈】
ただ、刑事訴訟法では、それでも裁判所の「裁量」で保釈を許可することができるとされている。
実務で保釈が認められているのは、ほとんどがこのケースだ。
その際、裁判所は、逃亡や罪証隠滅のおそれの程度のほか、勾留の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上、防御準備上の不利益の程度など、様々な事情を考慮して可否を判断する。
今回のケースでも、弁護側がこうした事情を裁判所に示したものと見られる。
例えば、起訴されている事実を認め、検察側が取調べを請求している証拠に同意するとか、不起訴となった(1)(3)の事件を含め、被害者側と示談を取りまとめ、その許しを得ている、といったものだ。
参議院議員の父親も身柄引受人となり、今後は息子としっかり向き合って厳しく指導し、二度とこういう事が起こらないようにさせるとともに、必ず裁判所に出頭させる、といった誓約書を提出しているのではないか。
強制わいせつ致傷事件は裁判員裁判の対象であり、必ず公判前整理手続が行われるが、その過程で弁護側がこうしたアピールを行ったのだろう。
なお、保釈の可否と将来の判決における有罪・無罪や量刑の軽重とは無関係であり、保釈されても有罪になるのが通常だし、実刑判決を受けることもある。
【再犯のおそれと保釈】
では、再犯に及びそうな人であっても、保釈されるのか。
性犯罪者の性犯罪再犯率は約14%であり、窃盗や覚せい剤事件と比べて格段に高いわけではないが、決して無視できない数字だ。
特に、性犯罪者の中でも痴漢、盗撮に次いで小児わいせつ型の再犯率は高く、刑法犯の性犯罪に限れば、小児わいせつ型が最も高い。
そのため、この種の事件では、保釈中に小中学校の登下校路などに近寄らないことを誓約したり、病院などで専門的な治療やカウンセリングを受けることが多い。
今回のケースも、あるいは弁護側によってそうした手立てがとられていたのではなかろうか。
ただ、本来、保釈中に再犯に及ぶおそれがあるか否か、またそのおそれがどの程度のものなのかは、保釈可否の判断を左右しないとされている。
あくまで、起訴された犯罪を前提として、逃亡や罪証隠滅のおそれ、身柄拘束による不利益がどの程度あるかが検討されるというわけだ。
そのため、例えば初犯の覚せい剤事件だと、起訴後に保釈されるや、隠し場所から覚せい剤を取り出したり、馴染みの売人に誘われるなどし、再び手を出す、というのがよくあるパターンだ。
性犯罪でも、2016年には、連続強姦事件で実刑判決を受けた男が、保釈された後、わずか2週間で再び強姦事件を起こして逮捕、起訴されたケースがあった。
2017年にも、盗撮で起訴され、保釈された男が、仙台地裁で実刑判決を宣告されるや、密かに持ち込んでいたカッターナイフを使って傍聴席に切りつけ、警察官2名を負傷させる事件を起こしている。
統計を見ても、保釈中の犯行で起訴された者の数は2015年で188名に上っており、10年前の約2.4倍にまで増加している状況だ。
それこそ、2016年や17年のような目立つケースが続けば、裁判所も保釈可否の判断に際して保釈中の再犯のおそれを考慮し、その裁量の幅を狭めていくのではなかろうか。(了)
(参考)
拙稿「知られざる保釈制度の実態とは」