ホウネンダワラ(豊年俵)は縁起物?=実は寄生蜂の繭
田んぼにホウネンダワラ(豊年俵)がたくさんあると豊作になると言われる。つまりホウネンダワラは縁起物だ。しかし、単なる縁起物とは違って、微力ながら田んぼの害虫を駆除することで豊作に貢献している。
このホウネンダワラは、ホウネンダワラチビアメバチという、下を噛みそうな長い名前の寄生蜂の繭(まゆ)だ。
小さなイモムシに寄生したホウネンダワラチビアメバチの幼虫は、イモムシを体内から食べ尽くすと、細い糸を吐いてイモムシの残骸からぶら下がって繭を作る。
非常に芸術的なデザインのこの繭が風に揺れる様子は、いかにも五穀豊穣(ほうじょう)の神が示した吉兆のように見える。
このため虫好きたちも、この繭を見つけると「何かいいことが起きるんじゃないか」と、ぬか喜びするが、何もいいことは起きない。ホウネンダワラを持ち帰っても、小さな寄生蜂が出てくるだけだ。
ホウネンダワラチビアメバチは、イネの害虫であるフタオビコヤガの幼虫に寄生することが多いと言われる。フタオビコヤガの幼虫は、イネアオムシの別名を持っているので、イネの代表的な害虫なのだろう。なので、農家にとってホウネンダワラチビアメバチは、実際に「いいこと」をもたらす。
ただし最近は田んぼの害虫駆除が行き届いているので、田んぼでホウネンダワラを見かけることは少なくなった。
しかしホウネンダワラチビアメバチ自体は健在のようで、ハギ、コナラなど色々な植物からぶら下がっているのを目にする。ハギにいたキタキチョウの幼虫を飼育していたら、結果的にホウネンダワラになってしまった経験もある。このようにホウネンダワラは虫好きにとっては、「いいこと」どころか「悲報」をもたらすことが多い。
(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)