Yahoo!ニュース

ホウネンダワラ(豊年俵)は縁起物?=実は寄生蜂の繭

天野和利時事通信社・昆虫記者
田んぼでホウネンダワラがたくさん見つかれば、豊作間違いないという縁起物。

 田んぼにホウネンダワラ(豊年俵)がたくさんあると豊作になると言われる。つまりホウネンダワラは縁起物だ。しかし、単なる縁起物とは違って、微力ながら田んぼの害虫を駆除することで豊作に貢献している。

 このホウネンダワラは、ホウネンダワラチビアメバチという、下を噛みそうな長い名前の寄生蜂の繭(まゆ)だ。

 小さなイモムシに寄生したホウネンダワラチビアメバチの幼虫は、イモムシを体内から食べ尽くすと、細い糸を吐いてイモムシの残骸からぶら下がって繭を作る。

 非常に芸術的なデザインのこの繭が風に揺れる様子は、いかにも五穀豊穣(ほうじょう)の神が示した吉兆のように見える。

 このため虫好きたちも、この繭を見つけると「何かいいことが起きるんじゃないか」と、ぬか喜びするが、何もいいことは起きない。ホウネンダワラを持ち帰っても、小さな寄生蜂が出てくるだけだ。

ホウネンダワラが二つ並んでいた。これは縁起が良さそうだ。
ホウネンダワラが二つ並んでいた。これは縁起が良さそうだ。

繭が長い糸でぶら下がっているのは、アリなどの天敵から身を守るためとか言われる。
繭が長い糸でぶら下がっているのは、アリなどの天敵から身を守るためとか言われる。

 ホウネンダワラチビアメバチは、イネの害虫であるフタオビコヤガの幼虫に寄生することが多いと言われる。フタオビコヤガの幼虫は、イネアオムシの別名を持っているので、イネの代表的な害虫なのだろう。なので、農家にとってホウネンダワラチビアメバチは、実際に「いいこと」をもたらす。

 ただし最近は田んぼの害虫駆除が行き届いているので、田んぼでホウネンダワラを見かけることは少なくなった。

 しかしホウネンダワラチビアメバチ自体は健在のようで、ハギ、コナラなど色々な植物からぶら下がっているのを目にする。ハギにいたキタキチョウの幼虫を飼育していたら、結果的にホウネンダワラになってしまった経験もある。このようにホウネンダワラは虫好きにとっては、「いいこと」どころか「悲報」をもたらすことが多い。

ホウネンダワラから出てきたホウネンダワラチビアメバチ成虫。キタキチョウの幼虫を犠牲にして立派に育った。
ホウネンダワラから出てきたホウネンダワラチビアメバチ成虫。キタキチョウの幼虫を犠牲にして立派に育った。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

天野和利の最近の記事