裁縫上手なイモムシの「いい仕事」に感心=街中でイネ科の葉を巻くセセリ蝶3種の幼虫
蛾(ガ)と蝶(チョウ)の違いは微妙だとよく言われるが、繭を作る織物職人としての幼虫時代の認知度は、蛾の方が圧倒的に高い。繭職人の代表は、絹糸で繭を作るカイコだろう。
しかし、蝶の中にも裁縫上手な一団がいる。それはセセリ蝶の仲間。繭こそ作らないが、幼虫が隠れ家を作る際の繊細な仕事は、一見の価値がある。
イネ科の雑草に隠れ家を作る様子が街中で良く見られるセセリは、イチモンジセセリ、チャバネセセリ、キマダラセセリの3種。この3種は幼虫で越冬するので、真冬でも隠れ家を見つけることができる(ただし越冬幼虫は小さいものが多いので、春や夏の方が見つけやすい)。
特に数が多いイチモンジセセリの幼虫は、イネの葉を食べる害虫として、「イネツトムシ」の名で知られる。ツト(苞)とは包みのことで、ツトムシという名は、幼虫が葉を巻くことに由来している。
チャバネセセリ、キマダラセセリの幼虫もイネ科の草の葉を巻くので、3種まとめてイネツトムシと言ってもいいだろう。
越冬中の幼虫をたたき起こすのはかわいそうなので、そっとしておきたいが、春、夏に幼虫の巣を見つけたら、持ち帰って飼育してみると隠れ家作りの様子をじっくり観察できて面白い。ほぼ均等な間隔で糸を張って、イネ科の雑草の葉を巻いていく様子は「いい仕事」をしていると感心したくなる。
ツトを完成させてしまうと、糸が見えにくくなってしまうので、ツト作成の途中の作業が一番の見どころだ。
ただし、このイネツトムシの成虫は、あまりパッとしない見た目(3種の中では、キマダラセセリの成虫が一番見栄えがいいと思う)なので、幼虫を育てたいと思う人は、虫好きの中でもよほどの物好き(昆虫記者もその一人)だ。
たっぷり愛情をかけて幼虫を育てて、苦労の末に無事羽化させた蝶が、超地味なチャバネセセリになったとしても「まるで蛾みたい」などとがっかりしないでほしいと願う。
(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)