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流氷の天使クリオネに負けず劣らず可愛い?「森のクリオネ」

天野和利時事通信社・昆虫記者
12月に出現する「森のクリオネ」。可愛いと思うか、思わないかはあなた次第。

 流氷の天使「クリオネ」は日本各地の水族館の人気者だ。昆虫記者が冬の公園で探す「森のクリオネ」も「海のクリオネ」に負けず劣らず可愛いと思うのだが、あまり人気がない。

 本家「クリオネ(ハダカカメガイ)」は、数十年前にテレビCMに登場し、小さな翼のようなもの(翼足)を広げて泳ぐ姿が天使のようで可愛いと大評判になった。今でも各地の水族館で展示され、アクセサリーやぬいぐるみのキャラクターとしても根強い人気がある。

 これに対し、冬の森に出没する「森のクリオネ」を可愛いと思う者は、昆虫記者など一握りの虫好きだけだ。

交尾中のクロスジフユエダシャク。左がメス、右がオス。雌雄で全く違う生物のように見える。
交尾中のクロスジフユエダシャク。左がメス、右がオス。雌雄で全く違う生物のように見える。

メスは飛べない蛾、オスは普通の蛾。
メスは飛べない蛾、オスは普通の蛾。

 

 ◇森のクリオネの正体は?

 森のクリオネは、クロスジフユエダシャクという蛾のメスの成虫。この蛾は、成虫が冬にだけ姿を見せる「フユシャク」の仲間だ。

 フユシャクのオスは立派な翅で飛べる普通の蛾だが、メスは翅が全くないか、退化して痕跡のようになっていて、飛ぶことができない。

 クロスジフユエダシャクのメスもこうした「飛べない蛾」だが、その背中には飾り物のような小さな翅が残っている。その翅が、一部の虫好きの目には、天使の翼のように見えるのだ。

 オスは、フユシャクの中では珍しく、昼間に活動する「昼蛾」なので、12月になると、コナラやクヌギの林の中を飛ぶ姿がよく見られる。しかし、体長が1センチほどで大きな翅を持たないメスは、全く目立たない。なので、森のクリオネを見つける一番簡単な方法は、交尾中のカップルを探し出すことだ。

 森の中を飛ぶオスの後を追いかけていくと、オスがメスを見つけてくれることもあるが、そんな幸運はめったに訪れない(昆虫記者がこのやり方でメスを見つけたのは1度だけ)。

12月の昼間にコナラ、クヌギの林を飛ぶシジミチョウぐらいの大きさの蛾は、たいていクロスジフユエダシャクのオス。
12月の昼間にコナラ、クヌギの林を飛ぶシジミチョウぐらいの大きさの蛾は、たいていクロスジフユエダシャクのオス。

 ◇獰猛な海のクリオネと、はかない命の森のクリオネ、どちらが天使に近い?

 森のクリオネには、海のクリオネのような可愛い仕草がないので、人気度に差があるのは当然だ。しかし、海のクリオネは肉食で、触手を広げて獲物を捕らえる際には、可愛い見た目に似合わない獰猛さを見せる。これに対し、森のクリオネは口が退化していて、交尾、産卵の仕事に精を出すだけで、何も食べずに死んでいく。はかない命の森のクリオネと、獰猛な海のクリオネのどちらが天使に近いかと問われれば、昆虫記者は森のクリオネに同情の1票を入れたい。

(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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