日陰者のヒカゲチョウよりさらにダークなクロヒカゲ
以前紹介したヒカゲチョウは、薄暗い日陰に多いことが「ヒカゲ」の名の由来のようだ。そして、クロヒカゲはその色黒版、ダークモード版と言えそうだ。
ヒカゲチョウは街中の公園でも時々見かけるが、クロヒカゲはもう少し深い森がある郊外や低山地に多く、ヒカゲチョウ以上に日陰者の印象が強い。
クロヒカゲの幼虫も、ヒカゲチョウの幼虫と同じく笹の葉を食べる。クロヒカゲも幼虫の姿で越冬するので、真冬の笹の葉めくりでゲットできる(暗く寂しい作業なので、よほどの虫好き以外には勧められない)。
クロヒカゲの小さい幼虫は、ヒカゲチョウの幼虫に似ていて、区別が難しい(頭部の2本の角がヒカゲチョウの場合は間が狭く正面を向くが、クロヒカゲは間が広く左右に広がる)。
しかし初冬に捕まえたクロヒカゲの小さな緑色の幼虫のほとんどは、脱皮して大きくなると褐色に変化し、ダークな成虫の姿を予感させる(ヒカゲチョウの幼虫は最後までずっと緑色のまま)。この褐色型の幼虫は、胴体に幾何学模様を帯びることが多く、その場合は若干芸術性が高まる。
成虫になると、ヒカゲチョウとクロヒカゲは再びまぎらわしくなる。クロヒカゲのオスは相当にダークなので分かりやすいが、メスはオスより淡色なためヒカゲチョウとの違いが分かりにくい(後翅裏の黒い線が眼状紋に沿うように強く湾曲するのがクロヒカゲの特徴だが、そんな点は虫好き以外にはどうでもいい感じだ)。
昆虫記者は、どちらかと言えばヒカゲチョウよりもクロヒカゲ推しだ。特に極めてダークなタイプのクロヒカゲ推しだ。その理由は黒い翅の中で輝く眼状紋の美しさにある。暗い背景の中でコントラストを強くして翅の裏側の眼状紋を撮ると、まるで夜空の星のように美しく輝くのである。
何一つ取り柄がないようなダークなクロヒカゲも、場面次第で輝く存在になり得る。昆虫記者にもいつかきっと、そんな時が訪れると思いたい。
(写真は特記しない限りすべて筆者=昆虫記者=撮影)