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「宇宙のポルシェ」と呼ばれた衛星GOCE、地球からの空気抵抗を減らすために洗練されたそのデザインとは

人工衛星「GOCE」©ESA

近年、宇宙に打ち上げられる人工衛星の数は爆発的に増加しています。しかし、実は宇宙でも地球の「空気抵抗」は軌道を維持する上で無視できない問題なのです。本記事では、空気抵抗を極限まで減らすために洗練された形状となった「宇宙のポルシェ」をご紹介します。

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■地球を周る国際宇宙ステーションは、実は落下している!?

地球を周回する国際宇宙ステーション(ISS)は、一見すると半永久的に地球を周り続けられるように考えられます。しかし、ISSは地球高度400kmの軌道を周回しており、実は地球の大気の空気抵抗により徐々に高度が下がってきているのです。そのため、ISSはエンジンを噴射することで定期的に高度を上昇させています。

一般に地上と宇宙の境目は高度100kmと言われており、それより高い高度では空気はほぼなくなります。しかし、大気圏は高度500kmを超えているため、ISSは空気抵抗を受けてしまうんですね。

ちなみに、皆さんがたまに見かける流れ星は、太陽系に存在するの無数の塵が、地上80~130万kmの厚い空気の層に飛び込むときに摩擦で燃えたものなのです。実は見えていないだけで、1日に数万個も落ちてきているんです。ほとんどは地上に達する前に燃え尽きるのですが、毎年何個かは地表まで落ちてくるものもあります。

■空気抵抗を極限まで減らした「宇宙のポルシェ」

人工衛星「GOCE」©ESA
人工衛星「GOCE」©ESA

このように、空気抵抗の影響から地球を周回するISSや人工衛星も、定期的に燃料を消費しなければなりません。長期間の周回をする場合には極めて大量の燃料が必要となります。

そんな中、欧州宇宙機関ESAは、ユニークな形状の衛星を2009年に打ち上げています。それは、「GOCE」と呼ばれる衛星で、地球表面の物質の密度を精密に観測し、重力マッピングを行うことを目的としています。花崗岩、橄欖岩など地球の表面を覆う物質は密度が異なるため、重力の大きさにも差が生じているんですね。GOCEは重量約1.1トン、長い部分で5メートルほどある大型の衛星です。地球の重力を観測するため、高度226kmというISSよりや他のどの人工衛星よりも低い軌道高度を周回しています。しかし、少なからず空気抵抗の影響を受けてブレーキをかけられてしまうため、地球に再突入するのを防ぐため、キセノンを推進剤とするイオンエンジンを搭載して高度を維持していました。

そして、このGOCEは「宇宙のポルシェ」とも呼ばれています。この空気抵抗の影響をできるだけ減らすために、機体は矢のような八角形の形状となっており、2枚のひれを持っているのです。通常の人工衛星は、ほぼ箱型なのですが、GOCEはレーシングカーのように非常に特徴的な形をしていますね。

■想定よりも2年長生きしたGOCE

人工衛星「GOCE」©ESA
人工衛星「GOCE」©ESA

当初GOCEは、高度を維持するための燃料として、約20か月分となる40kgのキセノンを搭載していました。はやぶさなどにも搭載されているイオンエンジンですが、非常に効率の高いエンジンではあるのですが、推進剤としてはキセノンを使用しているため、電力が供給され続ければ無限に加速ができる、という訳ではないんですね。

しかし、GOCEに加わる空気抵抗は、太陽活動の影響で想定より小さく、燃料消費も少なく済ませることができました。その結果、当初の予定より2年も延長された2013年、宇宙のポルシェはミッションの成功を収め、地球へ再突入することとなりました。しかし、GOCEの再突入は制御不能であり、更に巨大がゆえに、機体の約250kgが燃え残り「40個から50個の破片」が地上900kmの範囲に次々と衝突すると分析されていました。

そして、ESAのスペースデブリオフィスに監視されながら、GOCEは大気圏へ再突入します。しかし、大きな事故の報道は確認されないため、海上へ落下したか、もしくは無事に燃え尽きたかのかもしれませんね。

次回は、大気圏の微小な空気を取り込むことで推進力を得られる「究極の空気エンジン」について解説します、お楽しみに!

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