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ヤフー初参戦のドキュメンタリー国際会議Tokyo Docs

長谷川朋子テレビ業界ジャーナリスト
Tokyo Docs2018は11月5日~7日の3日間にわたり都内で開催された。

日本と韓国の2作品が最優秀企画賞を受賞

ドキュメンタリーの国際展開を推進するイベント「Tokyo Docs」が今年も都内で開催された。東日本大震災の年に立ち上がって以来、続くこの会議に毎年欠かさず足を運んでいる。BtoBのイベントということで、一般的には知られていないものだが、企画段階のドキュメンタリーを、日本をはじめ世界に流通させる道筋を探るチャンスがこの「Tokyo Docs」で作られている。優れた企画には総額500万円の開発資金も提供される。

国内外から提案された20本の企画がピッチされた。
国内外から提案された20本の企画がピッチされた。

参加者の顔ぶれは日本の映像制作プロダクション所属の制作者をはじめ、フリーで国際的に活動する映像作家や中国、台湾、韓国、ベトナム、ブータン、カンボジア、インドなど、アジアからも参加者が広がっている。ドキュメンタリストたちが公開形式でピッチ(プレゼンテーション)する会議が「Tokyo Docs」のメインイベントであり、会議の出席者も国際色豊か。今年も日本の放送局をはじめ、世界中から招聘されたディシジョンメーカーと呼ばれる放送決定権のあるプロデューサーやディストリビューターらが出席した。例えば、世界で行われるドキュメンタリー祭の常連者であるスウェーデンSVTのアクセル・アルノー氏やイギリスBBCでドキュメンタリー購入部のトップを務めるマンディ・チャン氏といったドキュメンタリー枠を持つ公共放送の担当者らが毎回、この会議に顔を出している。ここのところ、映像配信サービス事業者も会議に並び、今回、中国からは中国最大手メディアグループのテンセントと動画配信サービスのビリビリが出席した。

3日間にわたって連日行われた会議の最終日には、国際展開の可能性を秘める、企画性が優れたものに最優秀企画賞が贈られる。今年は日本と韓国の作品が受賞した。東京を舞台に友達や家族をレンタルしながら、孤独を癒し、幸せを探す人々を追う『ホンモノ以上のしあわせを~』(D.中村真夕氏/NHKエンタープライズ P.原田由香里氏)と、発達障害者たちが音楽を通じて希望を見つける困難な旅を描く『ブラック・ハーモニー』(D.グァンジョ・チョン氏/韓国MBC East Gangwon P.ヒュンジェ・ハ氏)の2作品。韓国のヒュンジェ・ハプロデューサーは「自主的にドキュメンタリー企画を成立させるのは難しい。いろいろな道を探るため、Tokyo Docsに初めて参加した。こうしてまずは企画に対して評価を得られてうれしい。でも、これからが勝負だ」と力強く話していた。取材対象者や制作者からそんな熱が伝わる企画に今回も高評価が集まっていたようにみえた。

ヤフー「クリエイターズ・プログラム」と初連携

期間中、「ショート・ドキュメンタリー・ショーケース&ピッチ」も開催された。昨年から20分以内の完成されたショート・ドキュメンタリーを紹介する試みが「Tokyo Docs」で始まり、今年は初めてヤフーが今年10月から立ち上げた新映像サービス「クリエイターズ・プログラム」と連携するかたちで企画された。日本国内最大級のネットメディアであるヤフーの協力に、配信サービス向けの展開を意識する各国のプロデューサーが関心を示していた。メインユーザーが10、20代という中国の動画配信サービス、ビリビリのボー・チャンプロデューサーもそのひとり。「日本のコンテンツはアニメが圧倒的に人気だが、中国の若者の興味は多様化し、実在の人物を追うドキュメンタリーも関心が高い。特に、個人視点の語りの作品が好まれる。そんな企画をショート・ドキュメンタリーからも探したい」と話し、NHK制作のドキュメンタリー以外にも日本で取引先を広げていく意向も明かしてくれた。

ショート・ドキュメンタリー企画にも各国のプロデューサーが会議に参加した。
ショート・ドキュメンタリー企画にも各国のプロデューサーが会議に参加した。

この「ショート・ドキュメンタリー・ショーケース&ピッチ」での提案をきっかけに早くも展開に繋げた作品もある。昨年、上映の機会を得た『Tokyo Kurds―東京クルドー』(ドキュメンタリージャパン、D.日向史有氏)は今年2月にテレビ朝日のドキュメンタリー枠「テレメンタリー」での放送が実現した。その放送版がギャラクシー賞で選奨、ATP賞で奨励賞を受賞するなど評価も受けた。海外のドキュメンタリー祭などでも上映作品に選ばれ、北米最大のドキュメンタリー祭「Hot Docs」(5月カナダ)をはじめ、「ISTANBUL DOCUMENTARY DAYS DOCUMENTARIST」(6月トルコ)、「Duhok International Film Festival」(10月イラク・クルド人自治区)と続く。ヤフーの「クリエイターズ・プログラム」サービス内でも配信中だ(https://creators.yahoo.co.jp/hyugafumiari/0200000521)。不法滞在者として日本で生きる18歳のトルコ系クルド人の青年、オザンのひと夏を追った姿が映し出されている。

今年の「ショート・ドキュメンタリー・ショーケース&ピッチ」も企画段階から長編制作も含めた柔軟な展開を見据え、放送や配信、映画化に繋がる可能性を秘める作品が並んだ。例えば、伝統工芸品「京金網」を作るプロセスと職人親子の哲学を語る『A Treasured Creation』(テムジン、D.内山直樹氏)はeコマースとの相性も良い。会議の場でヤフーメディア統括本部「クリエイターズ・プログラム」コンテンツプロデューサーの金川雄策氏は「ヤフーショッピングとの連携も十分考えられるもの」とコメントしていた。また提案した内山ディレクターはシリーズ化も視野に入れ、「日本全国、世界にも、名もなき職人たちの物語はまだまだたくさんある。ウェブ上でマッピングして見せていくこともできたら」と構想を話してくれた。

京金網の作るプロセスと職人親子の哲学を語る『A Treasured Creation』(テムジン、D.内山直樹氏)
京金網の作るプロセスと職人親子の哲学を語る『A Treasured Creation』(テムジン、D.内山直樹氏)

ドキュメンタリーはエンターテインメントコンテンツとは異なり、市場性と結びつきにくいものと考えられていることが多いが、今の時代はビジネス面を取り入れることも重要な視点である。世界的に配信が主流になりつつあり、視聴の仕方に変化が起こっているからだ。「Tokyo Docs」イベントに参加したドキュメンタリストと海外のプロデューサーの双方から、「同じ目的を持った参加者が集まる国際交流の場としての価値がある」という感想を聞くたびに思うのは、和やかな雰囲気を毎回作り出すことができる日本のイベントならではの良さ。だが、それにプラスして、変革期にある映像市場のなかで、競争力があるところをもっと見せつけても良さそうだ。ヤフー参戦の意味も高まっていくだろう。

*写真は全て筆者撮影。

テレビ業界ジャーナリスト

1975年生まれ。放送ジャーナル社取締役。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)、「放送コンテンツの海外展開―デジタル変革期におけるパラダイム」(共著、中央経済社)。

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