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バレーボール石川祐希「世界のトッププレーヤーへの道は6合目。東京五輪は重要な通過点」

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
昨季はパドヴァでプレーした石川祐希(株式会社グッドオンユー提供)

「世界のトッププレーヤーになる」という目標を定め、バレーボールのプロ選手としてイタリアに渡って3年目の石川祐希(24)。プロリーグのセリエAで毎年ステップアップを果たしてきた彼は今シーズン、強豪チームであるパワーバレー・ ミラノでプレーする。

 日本男子バレー界のエースアタッカーは、自身が定めた山頂に向かって今、何合目に到達しているのか。イタリアで石川自身が実践してきたこと、そして、東京五輪は自身にとってどんな位置づけであるのかをインタビューで聞いた。

■強豪のモデナで刺激を受けた石川。「イタリアでプレーしたい」と決意

 石川とイタリアは切っても切れない関係にある。愛知・星城高校で2年連続高校3冠を達成して入学した中央大学1年の冬、初めて武者修行で向かった先がイタリアの強豪モデナだった。

 そこには世界の強豪国の代表選手が集い、毎日レベルの高い練習と競争が繰り広げられていた。ブラジル代表の正セッターとして08年北京五輪、12年ロンドン五輪で銀メダルを獲得し、2年後の16年リオデジャネイロ五輪では金メダルに輝いたブルーノ・レゼンデのトスからも多くを学んだ。19歳の 石川 が試合に出られる機会は多くなかったが、だからこそ気持ちに火がついた。

「自分もこのような環境でプレーしたい」

 その後はラティーナでの2シーズンを経て、大学卒業後の18年にシエナとプロ契約。アジア人唯一のプレーヤーとして、全試合先発出場を果たした。総得点376点のリーグ12位という輝かしい成績を収め、プロ2年目にはパドヴァでプレーし、2シーズンとも中心選手として活躍した。

スパイクを決めてガッツポーズをする石川祐希(昨季所属のパドヴァにて)(株式会社グッドオンユー提供)
スパイクを決めてガッツポーズをする石川祐希(昨季所属のパドヴァにて)(株式会社グッドオンユー提供)

■石川祐希流・チームの中心選手になるためのアプローチ方法

 世界最高峰のリーグでプレーを続けて5年目。 石川が着実に階段を上がっている背景にはどんな理由があるのか。

 ここで浮かび上がるのが、ミラノのピアッツア監督による「彼はどのチームでもキーマンとして活躍してきた」という評価だ。

 言葉の通じない地で体格的に不利な石川がつねに指揮官のファーストチョイスを獲得してきた背景には何かがあるに違いない。

 本人に尋ねると、石川は各局面に分けてアプローチ方法を考えると説明した。

「まず、選手は試合に出ないと評価されませんし、自分自身を強化することもできません。試合に出るために、監督がどういうプレーを嫌うのか、どういうプレーを評価してくれるのか。練習の中でそこを見極めていくことを意識しています」

 一方で自分の特長である基本プレーの能力の高さをアピールすることも重視する。

「どの監督に対しても、戦術とは関係なく、レシーブやトス、さらには二段トスなど、基本的なプレーを高い精度でできると示すことを大事にしています」

 チーム作りの段階が進むと別の注力ポイントがあり、試合が始まれば監督の要求も細部に及ぶ。仲間との関係もある。

「チームがどういう雰囲気なのかを観察するようにしています。前のシーズンからいる選手の様子を見て、チーム毎の特徴を把握しています」

 練習とオフの切り替えをしっかりするチームなのか、厳しさを追求するチームなのか。その中で自分の特長をどう生かすか。

「僕はボールに対してどこまでも食らいつくというプレースタイル。チームを見てボールを追ってないなと思ったら、僕が追えばそれだけ評価されるし、ボールを追う選手の集まりならば、同じスタンスなのですぐに馴染める。そういう考え方です」

 もちろんコミュニケーションは大事だ。

「イタリアに行って、思ったことをはっきり言うようになりました。日本だと言わなくても察してもらえるというのがありますが、イタリアでは自分の考えを言わなければ理解されないし、信頼を得ることもできない。それはプレー面でも生活面でも同じです」

 セッターとの関係は特に重要になる。

「イタリアではセッターから要求されることが多い。日本と比べると、俺のトスに合わせてくれという選手が多いと感じています」

 

基礎的なことを高い精度でこなせるのが石川祐希の強み。プレーの幅の広さも、「勝つチーム」をつくっていくうえで高い評価を受ける要素となっている(株式会社グッドオンユー提供)
基礎的なことを高い精度でこなせるのが石川祐希の強み。プレーの幅の広さも、「勝つチーム」をつくっていくうえで高い評価を受ける要素となっている(株式会社グッドオンユー提供)

■自粛期間中に20キロのダンベルを購入して自宅で筋トレ

 2020年の幕開けもイタリアで迎えた。パドヴァでプレーしていた今年の3月上旬。イタリア国内で新型コロナウイルス感染者と死亡者が激増したため、リーグが中断された。石川はリーグの打ち切りが決まった後に帰国。日本では、20キロのダンベルを購入して自宅で上半身を鍛えるなど、できるだけ状態を維持しようと試みた。

「ちょっと跳ぶだけで頭が天井に付きそうになりますからね」

 そう言って苦笑いするが、ジャンプができないため、下半身の筋力は落ちていた。6月下旬からようやく体育館でのボールを使った練習が再開すると、バレーボールをできる幸せをあらためて感じたという。

「やっぱり楽しいですし、日に日にコンディションが良くなって、元の自分に戻っていくのがうれしいですね」

■1年後の7月28日、東京五輪の男子バレー 日本対イタリアが行われる

 1年後に延期された東京五輪。バレーボールは試合日程も決まっており、1年後の7月28日は男子予選ラウンドの日本対イタリアが行われる。イタリアと言えば、やはり個人的に思い入れがあるだろう。

「基本的に対戦する相手によって気持ちを変えないようにはしていますが、やはりこれだけイタリアでプレーしているので、他のチームとは違う思いはあります」

 昨年10月に行われたワールドカップで、日本は大会の初戦でイタリアと対戦した。試合は石川のサービスエースで日本が先制してスタート。マッチポイントも石川の一枚ブロックで試合を決めた。

「僕自身、ワールドカップでは初戦が一番大事だと思っていました。結果、サービスエースで良いスタートを切れたと思います。イタリアに勝つことで僕の成長を示すことができた試合になったと思います」

 五輪はワールドカップと同じ短期決戦。経験が生かされるのは間違いないだろう。

熱狂のイタリアバレーボール界。セリエAの試合に大勢の人々が詰めかける(株式会社グッドオンユー提供)
熱狂のイタリアバレーボール界。セリエAの試合に大勢の人々が詰めかける(株式会社グッドオンユー提供)

■世界最高のバレーボール選手への道。「今は6合目くらいにいる」

 石川には「世界のトッププレーヤーになる」という大目標がある。山にたとえれば何合目にいるのか。

「今は6合目くらいにいると思っています。今季はミラノという、今までよりレベルの高いチームでプレーをすることになります。ここから先はどれだけ内容の濃い試合をし、強いチームと、高いレベルでの経験を積んでいけるかが大事になると思っています」

 今後の展望もハッキリしている。次のステップではイタリアのトップ4と呼ばれるモデナ、チビタノーバ、ペルージャ、トレントで先発に君臨し、優勝することが目標だ。

 来年の東京五輪は石川のバレーボール人生にとってどんな位置づけなのか。

「僕個人にとって東京五輪とは、自分自身が最高のパフォーマンスをして結果を残すことで、支えてくださっている方々に恩返しをする場であると考えています。そのために、今季もイタリアでしっかり強化して、代表に選ばれるよう努力していきたいです」

リモート取材で穏やかな表情の石川祐希。イタリアで培ってきた確かな自信が垣間見えた(撮影:矢内由美子)
リモート取材で穏やかな表情の石川祐希。イタリアで培ってきた確かな自信が垣間見えた(撮影:矢内由美子)

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【連載 365日後の覇者たち】1年後に延期された「東京2020オリンピック」。新型コロナウイルスによって数々の大会がなくなり、練習環境にも苦労するアスリートたちだが、その目は毅然と前を見つめている。この連載は、21年夏に行われる東京五輪の競技日程に合わせて、毎日1人の選手にフォーカスし、365日後の覇者を目指す戦士たちへエールを送る企画。7月21日から8月8日まで19人を取り上げる。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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