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那須川天心2戦目の相手が「無敗のメキシカン」に決まった理由─「次は殴りに行く!」の真意とは?

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
4月のデビュー戦で与那覇勇気(左)に勝利した那須川天心(写真:ヤノモリ/アフロ)

高いKO率を誇るフローレス

「殴りにいきたい。前回は(パンチを)当てるイメージで試合をした。(デビュー戦としては)100点だったと思うけど、120点じゃなかった。次はしっかり殴りにいく!」

壇上で那須川天心(帝拳)は、キッパリとそう言った。

7月19日午後、東京ドームホテルでの記者会見で『Prime Video Live Boxing 5(9月18日、東京・有明アリーナ)』の開催が発表されている。主要カードは次の通り。

<WBA&WBC世界ライトフライ級タイトルマッチ>

寺地拳四朗(王者/B.M.B)vs.ヘッキー・ブトラー(南アフリカ)

<WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ>

中谷潤人(王者/M.T)vs.アルジ・コルテス(メキシコ)

<スーパーバンタム級 8回戦>

那須川天心(帝拳)vs.ファン・フローレス(メキシコ)

エジプトの民族衣装をイメージしたディオールの新作を身に纏い、記者会見に登場した那須川天心(左)。右から中谷潤人、寺地拳四朗(写真:SLAM JAM)
エジプトの民族衣装をイメージしたディオールの新作を身に纏い、記者会見に登場した那須川天心(左)。右から中谷潤人、寺地拳四朗(写真:SLAM JAM)

2つの世界タイトルマッチが組まれる豪華なイベントとなるが、もっとも注目を集めるのは那須川のプロボクシング転向2戦目だろう。記者会見でのメディアからの質問は那須川に集中。イベントビジュアルでも真ん中に彼の顔が用いられていた。

今回の対戦相手は、日本人上位ランカーではなく、無敗のメキシカン・ファイターとなった。

那須川より1つ若い23歳のフローレスは、9戦全勝(7KO)の戦績を誇る右のボクサーファイター。世界ランカーではないが、いま勢いに乗っており高いKO率が示す通りのハードパンチャーだ。興味深い顔合わせだと思う。

期待をかけたボクサーのマッチメイクには、必ず意図がある。

かつては、等身大以上に強く見せたり、戦績を良くするためにタイやフィリピンから“咬ませ犬”を呼び、主役に豪快なKO勝ちをさせることもあった。

だが、いまの時代にそんなやり方はあり得ない。ファンが鼻白むだけだ。それに、これから世界を目指そうとしている選手にとって実質的なメリットもない。

パンチの打ち方が変わった

では、那須川の対戦相手にフローレスを選んだ帝拳サイドの意図とは何か?

期待の新鋭に、敢えて勢いのあるハードパンチャーと闘わせる。それは、那須川のデビュー戦以降の進化を試すためだろう。もちろん勝算があってのマッチメイク、それでもリスキーな部分を残している。

4月のデビュー戦の後、6月、7月と2度にわたり那須川は「走り込み合宿」を千葉県内のゴルフ場で行った。体幹強化とスタミナアップを目指してのものである。

那須川は言った。

「きつかったですね。最初の合宿では他の選手についていけなかった。それでも、『俺はランナーになろうとしているのか』と思うぐらい走りました。そうしたら2回目の合宿では、結構走れるようになったんです。自分の成長が感じられ自信がつきました」

さらに技術的な練習も詰めてやってきた。

「デビュー戦の時は、ステップとジャブとストレートしかやっていなかった。でもいまは、フックやアッパー、距離を詰めて闘う練習もしています」

「映像を観たらわかるんですけど、前回の試合ではパンチを当てた後、手首を返していません。でも、その後の練習でパンチの打ち方も変わりました。この部分にも注目してもらいたい。引き出しの多さも示せればと思います」

メディアからの質問に答える那須川天心。右は浜田剛史・帝拳ジム会長(写真:SLAM JAM)
メディアからの質問に答える那須川天心。右は浜田剛史・帝拳ジム会長(写真:SLAM JAM)

「次は殴りに行く!」

那須川は、そう宣言した。

狙うはKO勝利だろう。だが、敢えてそれを口にしなかったのは「やるべきことをやる」との思いが強いからだ。

(KOを意識するあまりにスタイルを崩したくない。結果的にKOできればいいが判定であっても、ここまで積み上げてきたことを発揮できればいい)

そんな冷静さも保っている。

決戦まで、あと2か月。

那須川は今月中に米国に飛び、ラスベガスのジムでスパーリング中心のトレーニングに身を浸す。8月中旬に帰国、海外からスパーリングパートナーを招聘し最終調整を行う予定だ。

フローレスは粗削りだが、怖いもの知らずの好戦的な選手。そんな相手だからこそ、那須川の「現時点の実力」と「今後の可能性」を見極めるのに相応しい。試合の内容次第で、この先に彼が目指すファイトスタイルも明確になるように思う。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストに。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターも務める。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。仕事のご依頼、お問い合わせは、takao2869@gmail.comまで。

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