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新しい学校のリーダーズ、YOASOBI、Number_iらがコーチェラで見せた日本音楽の新たな可能性

柴那典音楽ジャーナリスト
新しい学校のリーダーズ(Photo by Lindsey Blane)

4月12日〜14日と19日〜21日(いずれも現地時間)の2週にわたり、米カリフォルニア州インディオにてアメリカ最大級の野外音楽フェスティバル「コーチェラ・バレー・ミュージック&アート・フェスティバル2024」が開催された。

豪華なラインナップが揃い、YouTubeで生配信されることもあって世界中の音楽ファンから注目の高い同フェス。今年は特に日本のアーティストの活躍が目立った。その模様を紹介していきたい。

■生身の迫力でオーディエンスの心を掴んだ新しい学校のリーダーズ

まずとりわけ盛況だったのが新しい学校のリーダーズだ。海外では「ATARASHII GAKKO!」という名義で活動している彼女たちはGOBIステージのヘッドライナーとして登場。初めての同フェス出演にもかかわらず、メインボーカルSUZUKAの迫力ある歌声と切れ味鋭いダンスで観客の心を掴んでいた。どてら姿で登場し、代表曲の「オトナブルー」に加えて、和太鼓とマーチング・バンドと共に歌った「TOKYO CALLING」や未発表の新曲などを次々と披露。曲中でもたびたびオーディエンスを煽り、コール・アンド・レスポンスを巻き起こす。大勢が飛び跳ねたりと、次第にボルテージを高め、熱狂を生み出していた。2週目のライブでは終盤でSUZUKAがオーディエンスの中に飛び込み、最前列の観客とハグしていた。その場にいた人にとってはきっと特別な記憶になったはずだ。

■北米で着実に支持を広げるYOASOBI

そして、やはり同フェス初出演となるYOASOBIのステージも大きな盛り上がりを見せていた。すでに北米での人気を着実に築いているだけあって前方には熱心なファンが集う。「夜に駆ける」でスタートしたライブは、まさに日本代表としての気合いを感じさせるエネルギッシュなもの。ikuraの流暢な英語のMCも印象的だった。スローナンバーの「たぶん」で観客がスマホライトを照らして揺らすなど一体感を生み出し、「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」のインスパイアソング「Biri-Biri」では背後のビジョンにポケモンの姿も映し出される。ラストの「アイドル」では大きな歓声が上がっていた。

YOASOBIはコーチェラへの出演にあわせて4月18日にロサンゼルス、21日にサンフランシスコで自身初となる単独アメリカ公演を開催。こちらもチケットは即日ソールドアウトの大盛況だったようだ。

YOASOBIは今年8月1~4日に米シカゴで行われる世界最大規模の音楽フェスティバル「ロラパルーザ2024」に出演することが決まっている。加えて8月6日にはニューヨーク、8日にはボストンでのワンマンライブを開催。アメリカの大手エージェンシーであるCreative Artists Agency(CAA)とエージェント契約を結んだことも発表された。今年は北米でさらに支持を広げる一年になりそうだ。

■アジアの連帯を進める88risingと、Awich、Number_iの可能性

1週目の4月14日(現地時間)に行われた「88rising Futures」ステージも非常に意義深いものだった。88risingとは、アメリカを拠点に、アジアにルーツのあるアーティストたちの世界進出をサポートする音楽レーベル兼メディアプラットフォームだ。新しい学校のリーダーズも所属している。その88risingが主催する企画ステージで、韓国の人気ラッパーTiger JKや中国のトップシンガーXIN LIUなどアジア各国のスターが集結する。

日本からは単独ステージに登場したYOASOBIと新しい学校のリーダーズに加え、女性ラッパーのAwich、そしてKing & Princeのメンバーとして活躍した平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太の3人が新たに結成したNumber_iも出演した。

Awichは「THE UNION」からセットをスタートさせると「GILA GILA」ではJP THE WAVYをゲストに迎え堂々としたパフォーマンスを披露。「Bad Bitch 美学 Remix」では同曲に参加したNENE、LANA、MaRI、ゆりやんレトリィバァもステージに登場した。

Number_iは今年1月に発表したデビュー曲「GOAT」と最新曲「FUJI」の2曲を披露。まだグループとして始動したばかりでライブ経験もほとんどないことを感じさせない迫力あるパフォーマンスを見せた。「GOAT」ではK-POPグループGOT7のメンバーであるジャクソン・ワンとのコラボも見せ、鮮烈なインパクトを残した。

配信を通じて観た今年のフェスの模様からは、以前よりも現地のファンの中で日本の音楽への興味が高まっていることを感じた。その背景としては88risingが推し進めてきたジャンルを超えたアジアのアーティストたちの連帯も大きいだろう。

特に新しい学校のリーダーズは88rising主催の野外フェス「Head In The Clouds」に2021年の初出演からアメリカ、インドネシア、フィリピンといった世界各地で開催されるフェスに毎年登場し、ステージを重ねてきている。YOASOBIも昨年の「Head In The Clouds Los Angeles」がアメリカ初ライブだ。

Awichは今年5月にニューヨークで開催される「Head In The Clouds New York Music & Arts Festival」への出演が決まっている。Number_iにとっても、今後の海外フェス出演やコラボレーションの大きなきっかけになったはずだ。

時代のターニングポイントを感じるようなライブの数々だった。

音楽ジャーナリスト

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。京都大学総合人間学部を卒業、ロッキング・オン社を経て独立。音楽を中心にカルチャーやビジネス分野のインタビューや執筆を手がけ、テレビやラジオへのレギュラー出演など幅広く活動する。著書に『平成のヒット曲』(新潮新書)、『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)、『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『ボカロソングガイド名曲100選』(星海社新書)、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。

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