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『ど根性ガエル』のピョン吉、どんなツブされ方をすると、シャツにあのカタチで貼りつくか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『ど根性ガエル』を覚えていますか?

1970年代の「少年ジャンプ」に連載され、アニメ化されるや大ヒット。ピョン吉のTシャツも大流行りした。

梅さんや、ゴリライモや、ヨシコ先生など、印象的なキャラも多く、また人情ドラマとしてもとても面白かった。

しかし、最大の魅力は「カエルがTシャツに貼りついたまま生きている」という、オドロキの設定だろう。

マンガを読むと、ピョン吉がシャツに貼りついたのは、なんと第1話の1ページ目において。

普通のカエルが、空き地で「ゲロゲロゲッゲッ」と鳴いている。そこに、中学2年生のひろしが走ってきて、石につまずいた。

カエルは驚いて逃げようとするが間に合わず、ひろしはその上に倒れ込む!

ツブしてしまった……と思いきや、カエルはシャツに貼りついたまま、平面ガエルとなって生きていた!

とくに説明はなく、ピョン吉とひろしの日常が始まるのだが、このカエルがぺちゃんこになっても生きていたのは、作品のタイトルのとおり「ど根性」によるものだと思いたい。

シャツに貼りついたピョン吉は、溺れている子ども助けようと、ひろしごと川に飛び込む……など、ひたすらど根性を発揮して活躍していくのだ。

それよりも、筆者には気になって仕方がないことがある。

それは、シャツに貼りついたピョン吉の姿。

カエルがどんな体勢でツブされたら、あんな姿になるのだろうか?

◆正しいツブされ方とは?

真正面を向いて、カエル座りをしているピョン吉。

おなじみのカッコウだが、カエルがあの姿で張りつくのは、不可解である。

カエルというものは、目と背中が同じ側にある。

そんな体の構造だから、押しツブされた場合、次のどちらかになるはずだ。

・腹這いでツブされたら、正面から見えるのはお腹だけ

・仰向けでツブされたら、正面から見えるのは背中だけ

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

だが、われらのピョン吉は、お腹も顔も正面を向いている。

いったいどんなツブされ方をすれば、そんな状態になるのだろう?

考えられるのは、ピョン吉が何かの拍子に逆立ち状態となり、そのままお尻から顔に向かって圧縮されたときだけだ。

つまり体は、縦向きにツブされたはず……!

カエルのツブされ方としては、きわめて珍しい。でも、そうでなければ、おなじみのピョン吉スタイルにはならないはずである。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

脊椎動物が背骨をタテに潰されたら、普通なら絶対にオダブツだろう。これで死ななかったピョン吉のど根性には敬服するしかない。

『ど根性ガエル』とは、科学的にもナットクのタイトルといえる。

◆どんなTシャツなのか?

さらに驚くのは、ピョン吉の顔面と体のバランスだ。体に比べると、頭部だけが極端に大きくないだろうか。

マンガの描写から推測すると、肩から尻までの長さが8.5cmなのに対して、頭部の長さは28.5cmもある。体の3倍を超える異様なデカ頭だ。

生物の体はほとんど水でできているから、細胞膜が破れて内容物が流出しない限り、押しつぶされても体積は変化しないはずだ。

面積がこれほど大きく広がったからには、厚みは極めて薄くなったということだ。

百科事典でトノサマガエルの体の大きさを測ると、頭部(骨格図と比較して、頭蓋骨があると思われる部分)の長さは2cm、厚みも2cmであった。

これが28.5cmになったということは、顔面の上下は14倍に巨大化し、面積は196倍に広がった計算になる。

その分、厚みは196分の1になったわけで、これは0.1mm。コピー用紙1枚の厚さと同じであり、なるほどシャツに張りついて暮らすには、このくらいの薄さがちょうどいいだろう。

つまり、長さ28.5cmという巨顔は深々とナットクできる。

では、胴体はどうか。

前掲の百科事典で計測すると、トノサマガエルの肩から足までの高さは3.5cm、胴体の厚みは5cmほどである。

この体が、顔と同じように0.1mmになったとしたら、胴体の面積は500倍に広がるはずだ。

長さの縮尺は、その平方根で22.4倍。つまり、肩から足までの長さは78.3cmとなる。

これに頭部の長さ28.5cmを加えると、正しい平面ガエルの身長は、なんと1m7cm!

デカい。身長が1mもあったら、普通のTシャツからハミ出してしまう。

すると、ひろしのTシャツは、めちゃくちゃ大きかったということか……?

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ピョン吉はこの問題も「ど根性」で解決していた……のだろうか?

作品の魅力とは何ら関係なのだが、空想科学的にはいろいろと気になる平面ガエルのツブされ方である。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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