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グルテンフリーベーカリーでグルメサンドを味わう「ORGANIC JUNKIE」【恵比寿】

清水美穂子ブレッドジャーナリスト
グルテンフリーのパンでグルメサンド(画像提供:ORGANIC JUNKIE)

オーガニックに夢中。やみつきになるパンを

2024年12月10日、恵比寿にグルテンフリーベーカリー「ORGANIC JUNKIE」がオープンした。店の斜め向かいにあり、今年で17年目になるオーガニックレストラン「キッチンわたりがらす」のオーナーシェフ、村上傑規(ひでき)さんが営む姉妹店だ。村上さん自らがオーガニックの米粉などグルテンフリー素材を用いたパンを焼き、料理人ならではのサンドイッチをつくる。もともとレストランで小麦粉のパンを焼いていたが、アレルギーなどで小麦粉が食べられない人のために米粉を用いたグルテンフリーのパンもつくるようになった。それは店の客に親しまれ、改良が重ねられていった。やがて村上さんは人の健康だけでなく、地球の健康も考えるようになっていったという。オーガニックの米粉を使ったパンをより多くの人に楽しんで食べてもらうことで、米粉の需要の拡大を図り、日本の田畑の半分を占める水田とその自然を守ることに繋げていけたらと考えている。

山型食パンとハード系のパン5種(画像提供:ORGANIC JUNKIE)
山型食パンとハード系のパン5種(画像提供:ORGANIC JUNKIE)


「ORGANIC JUNKIE」の名はオーガニックに夢中になっている自分のことでもあるし、健康に良いとか地球に良いとか頭で考えるよりも、ただ単においしくて心地よくてやみつきになってくれたら、という気持ちも込めていると村上さんは言う。

 ここで製造販売されているのは米粉の山型食パン(半斤650円)と米粉や豆、雑穀を原料としたシンプルなハード系のパン数種類(黒ごま、コーン、マルチグレイン、ひよこ豆、チョコレートと蕎麦など100g200円から400円)と焼き菓子。看板商品の「山型食パン」は日本酒に使われるような、米の原種に近い粘り気の少ない品種を使用し、特殊な方法で製粉し、ライススターチやひよこ豆を用いて軽やかな食感に仕上げている。現在は契約農家の山田錦を使用しているが、他の品種も試しており、ゆくゆくは製粉所をつくり、より多くの人に米粉を届け、米粉パンを焼いてもらえるような仕組みづくりをしていきたいと抱負を語る。

オーガニックレストランの料理人のグルメサンドイッチ

料理人がつくるサンドイッチは産地直送の素材重視、ソースも自家製。野菜、魚、肉の3種類が日替わりで提供される。(画像提供:ORGANIC JUNKIE)
料理人がつくるサンドイッチは産地直送の素材重視、ソースも自家製。野菜、魚、肉の3種類が日替わりで提供される。(画像提供:ORGANIC JUNKIE)

 

 店の中心には12席の大きなテーブルが設置され、その周りをナチュラルワインのセラー、全国のおいしい食材や調味料、グラスなどが並ぶ商品棚が囲む。サンドイッチは日替わりで野菜、肉、魚をメインにした3種類が800円から1000円程度で提供されている。どのサンドイッチにも共通するのは、化学調味料や冷凍品は使用せず、ソースは自家製、港や畑から直送される素材を用いていること。野菜がたっぷりで、ちょっとスパイシーなことだ。村上さんはかつて中近東、カリブ海などを含めて50カ国を旅した。その旅のおいしい記憶がここに立ち上っているのかもしれない。

サンドイッチは自然派のコーヒーやワインと共に中央の大きなテーブルで楽しめる(筆者撮影)
サンドイッチは自然派のコーヒーやワインと共に中央の大きなテーブルで楽しめる(筆者撮影)

 

 取材日のサンドイッチを例に挙げよう。

野菜のサンドイッチは、ムング豆のハンバーグを中心にニンジンとドライトマトのペースト、キャベツのコールスロー、紅芯大根のマリネがたっぷり挟まれていた。マヨネーズは豆乳を用いたヴィーガン仕様のもの。

肉のサンドイッチは、平飼いの大山地鶏のタンドリーチキンとキーマカレー、キャベツのコールスローとエノキのアチャール(漬物)。

魚のサンドイッチには、フグの唐揚げにシリア風ヨーグルト、トマトベースでマイルドにしたエジプトのハリッサ(唐辛子のペースト)、レンズ豆と菊芋のアラブ風ペースト。バジルとニンニクがちょうどいい塩梅で香る。

オーガニックのデカフェ、選び抜かれたエチオピアのコーヒー

オーナーシェフ村上傑規さん(左)、コーヒーの監修は藤岡響さん(右)(筆者撮影)
オーナーシェフ村上傑規さん(左)、コーヒーの監修は藤岡響さん(右)(筆者撮影)

 

 それらのサンドイッチに合わせて提供されているのが、「ブルーボトルコーヒー」の立ち上げに参画し、現在はブランドのプロデュースに携わるバリスタの藤岡響さんが監修した飲み物の数々だ。小麦粉のパンならば香りの強度を合わせるために深煎りにするかもしれないが、香りが優しく繊細な米粉のパンでは、浅めの焙煎になる。ただ、村上さんのサンドイッチは素材に力があってスパイシーなので、浅煎りでは負けてしまう。そこで中深煎りに落ち着いた、と藤岡さんは言う。豆はもちろんオーガニック。化学溶剤を使用せず水だけでカフェイン除去を行なったデカフェのコーヒー豆は、歴史があり原種に近いコーヒーが採れるエチオピアの小規模農家の豆を集めた協同組合から調達している。農薬や化学肥料を使わない農法で種苗の状態から栽培したものだ。

ドリップコーヒー(580円)は、すっきりとクリアで甘さが感じられる。サンドイッチによく合うが、ベルギー産のカカオパウダーと蕎麦粉、米粉を用いた「チョコレートと蕎麦」のパンの薄切りを添えると無限に食べられそうな、それこそ「やみつき」になりそうな味わいである。

グルテンフリーのパンは進化している

筆者は先週、山形で開催された「おいしい米粉パンコンテスト」で約10種類のグルテンフリーの米粉パンを試食したが、この数年でグルテンフリーのパンの製造技術のめざましい進化を感じている。ハード系の米粉のパンはクラスト(皮)の部分が煎餅のように香ばしいが、全体的には小麦粉のパンに比べて主張が少なく、副素材を引き立てる。何より歯切れがいいのでサンドイッチに向く。「ORGANIC JUNKIE」のサンドイッチとコーヒーで、日本のパン食文化の新たな分野が見えてきた。

店頭ではオーガニックの野菜の販売も(画像提供:ORGANIC JUNKIE)
店頭ではオーガニックの野菜の販売も(画像提供:ORGANIC JUNKIE)

ORGANIC JUNKIE

住所 東京都渋谷区東3丁目23−3 1F

営業時間  10:00〜24:00 月曜定休

ブレッドジャーナリスト

東京出身。2000年より総合情報サイトAll Aboutでガイドを務めることにより、パンに特化した取材執筆活動を開始。注目のベーカリーとつくり手についてWeb、TV、ラジオ、新聞、雑誌等メディアで発信、紹介する一方で、消費者動向やトレンド情報を業界に提供、ベーカリーと消費者の相互理解を深める活動をしている。取材執筆、企画監修、講師、各種コンテスト審査員、コンサルティングなども行う。主な著書『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)『日々のパン手帖 パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)『おいしいパン屋さんのつくりかた』(ソフトバンククリエイティブ)他

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