【インタビュー】ウィリアム・シャトナー/『スター・トレック』カーク船長が“歌う”ブルース
ウィリアム・シャトナーのブルース・アルバム『The Blues』が2020年10月に発表され、話題を呼んでいる。
TVシリーズ『スター・トレック/宇宙大作戦』のカーク船長として宇宙を駆け巡ってきたシャトナーが、土の匂いを感じさせるブルースを“歌う”アルバム。ロバート・ジョンソンの「スウィート・ホーム・シカゴ」、B.B.キングの「ザ・スリル・イズ・ゴーン」、アルバート・キングの「悪い星の下に」、マディ・ウォーターズ「マニッシュ・ボーイ」などを、彼の過去のアルバム同様に“語り”に近いスタイルで披露している。
アルバムに参加するゲスト・アーティスト陣も豪華だ。リッチー・ブラックモア&キャンディス・ナイト、スティーヴ・クロッパー、アルバート・リー、ジェフ“スカンク”バクスター、パット・トラヴァースらが彼をバックアップする。
“ブルース・シンガー”のシャトナーに、その音楽愛を語ってもらおう。1931年生まれで89歳の彼だが、その声はかつてエンタープライズ号を指揮していたのと同じ張りのあるものだった。
<歌詞に導かれながら作ったアルバム>
●何故ブルース・アルバムを作ったのですか?
それは重要なクエスチョンだ。何故、私はブルース・アルバムを作ったのか?...2年前、クリスマス・アルバム『Shatner Claus』を作ったんだ。それがかなり売れたんで、レーベルの“クレオパトラ・レコーズ”から「またアルバムを出しましょうよ。ブルース・アルバムはどうですか?」と言われた。私はカナダのモントリオールで生まれた白人の小僧だ。ブルースのことはよく知らないし、曲も知らない。ただ、ジャズやロックンロールはブルースから生まれたものだし、送られてきたトラックを聴いて、心で感じることが出来た。ブルースに関する本を読んでみたり、知人からブルースの名曲を教えてもらったりした。それでやることにしたんだ。
●あなたにとって、ブルースを歌うのはどんな経験でしたか?
最初にスタジオでマイクに向かったとき、自分のブルースのヴォイスが判らなかった。ブルースをどう歌えばいいか?と悩んだんだ。でもある瞬間、閃いた。歌詞に導かれていけばいいということにね。その瞬間は鮮明に覚えている。「アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー」の歌詞には“moanin and groanin”というフレーズがあるけど、私も“呻き、唸る”んだ。この曲ではカーク・フレッチャーがギターを弾いているけど、彼のギターも呻き、唸っている。本当に素晴らしいよ。
●海外のインタビューで、あなたは自分が“音楽的にハンディキャップを抱えている”と話していましたが、素晴らしい声質をしていると思います。いわゆる普通のシンガーのように、メロディを歌おうとは考えませんでしたか?
“本物”のシンガーは凄い。昨日テレビを付けたら、3人の女性歌手が歌っていた。名前は知らないけど、素晴らしかったよ。自分には出来ないと思った。...では自分には何が出来るか?私は普段、テレビや映画で演技をしてきた。それは役柄を自分の一部とする作業だ。それと同じように、歌詞を自分の一部とすることなら出来ると考えたんだ。
●カラオケやシャワーでは普通に歌いますか?どんな歌を歌いますか?
あまりカラオケに行く習慣はないんだ(苦笑)。曲を知らないんだよ。聴けば好きか嫌いかの判断はつく。ラジオで流れていて「ああ、良い曲だな」と考えたりする。でも、それを掘り下げることはないんだ。固有名詞を覚えたりはしないな。あえて好きな音楽を挙げると、シンプルな音楽だ。私は以前カントリーの曲をレコーディングしたことがあるけど、カントリーはシンプルで判りやすく、歌詞も難しすぎない。それが魅力なんだ。私が音楽を聴くようになったのは、フランク・シナトラからだった。それから年月を経て、音楽はより洗練され、複雑なものになっていった。複雑過ぎるほどにね。だから私のアルバムでは、よりシンプルな方向に向かおうと思うんだ。
●アルバム『Seeking Major Tom』(2011)ではデヴィッド・ボウイのカヴァー「スペース・オディティ」をリッチー・ブラックモアと共演しましたが、今回「ザ・スリル・イズ・ゴーン」で再びリッチーと共演しています。彼の音楽には親しんでいますか?
リッチー・ブラックモアをはじめ、このアルバムで私をバックアップしてくれるミュージシャン達はみんな信じられないほど素晴らしいよ。リッチーは神々しいほどだ。ただ残念なことに、「ザ・スリル・イズ・ゴーン」では彼が弾く前のベーシックなトラックに乗せて歌わねばならなかったんだ。もし彼のギターを聴いてから歌うのだったら、より深いインスピレーションを受けていたと思う。
●ディープ・パープルやレインボーの音楽について、どう思いますか?
残念ながら知らないし、リッチーと会ったことがないんだ。雑誌で彼がギターを弾いている姿を見たことがあるけど、彼のバンドの曲を聴いたことはないと思う。
●「スモーク・オン・ザ・ウォーター」「ハイウェイ・スター」とか...
リッチーが有名なロックのミュージシャンだということは認識しているけど、1930年代生まれの私にとって、ロックは自分より若い世代の音楽なんだ。もしかしたら耳にしたことがあるかも知れないけど、決して自分のレーダー圏内にはなかったんだよ。
●ロバート・ジョンソンの「クロスロード」ではエルヴィス・プレスリーとの活動で知られるジェイムズ・バートンがギターを弾いていますが、エルヴィスと会ったことはありますか?
エルヴィスは1950年代にスーパースターになったけど、その頃の私はカナダの若手俳優だった。それから私はアメリカのテレビに出演するようになったけど、彼と道が交わることはなかった。
●クリスマス・アルバム『Shatner Claus』ではイギー・ポップと「きよしこの夜」をデュエットしています。イギーは俳優としても数多くの作品に出演していますが、彼とは会ったことがあるでしょうか?
うん、イギーとは会ったことがあるよ。よく覚えている。とても気の良さそうな人物で、好感情を持った。ただ、彼と深く交流して、親しくなる機会はなかったんだ。それは他のミュージシャンについても言えることだ。これまで何枚もアルバムを出してきたし、いろんなミュージシャンと交流してきた。でもクリスマスに自宅に呼ぶような関係は築いていない。
●『The Blues』を制作する作業で、親しくなったミュージシャンはいますか?
アーサー・アダムズは私のオフィスに来て、「アズ・ザ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ」を弾いてくれたよ。ブルースのミュージシャンは、ブルースに対して忠誠を誓っている。私のような門外漢が気楽に入っていける世界ではない。真摯にブルースを知り、感じることが必要なんだ。それでアーサーに指導を乞うことにした。アーサーは70代半ばで、少年時代から綿を摘んできた。綿を摘みながら歌うのを実演してくれたよ。それを見せてもらって、私のブルースへの理解は深まっていった。彼とは話して楽しかったし、また会えるのを楽しみにしている。
<黒沢明、アニメ...日本文化の魅力はミニマリズム>
●あなたと日本の関係について教えて下さい。
日本には一度だけ行ったことがある。TVシリーズ『Better Late Than Never』(2015) 撮影で、ヘンリー・ウィンクラーやジョージ・フォアマンと行ったんだ。東京と大阪を案内されたよ。楽しかったけど、出来ることならば、自分で計画を立てて、いろんな所を回りたかった。大都市だけでなく、地方にも行ってみたかったんだ。幾つか日本のコンベンションへのオファーが来ているけど、そのどれかに参加することになったら、スケジュールに余裕を持たせて、早めに行きたいね。
●日本の文化について、どんなことを知っていますか?
日本の文化、そして食文化は素晴らしい。日本の伝統的な音楽に関する知識はないけど、耳に心地よさをもたらしてくれるよ。また訪れるときが来たら、あちこちを巡って、日本文化に浸りたいと考えている。日本文化の魅力のひとつは、シンプルで、それでいて雄弁であることなんだ。水墨画からクロサワ(黒沢明)の映画、アニメ、料理のレシピまで、複雑になり過ぎることなく、真髄を捉えている。そんなミニマリズムが、私の考える日本文化の魅力だ。
●2017年、あなたがSNSで『ラブライブ!』に言及したことが日本のファンを驚かせましたが、最近で推しアニメはありますか?
うーん、『ラブライブ!』は孫娘と一緒に見ていたんだ。1人で見ることはなかったな。今では彼女と一緒にテレビを見ることがないし、あまりアニメに接する機会がないんだよ。ただ、アニメというアート・フォームのシンプリシティには魅力を感じるね。
●ぜひまた日本に来て、この国の文化に触れて下さい。
喜んで伺わせてもらうよ。世界各地で『スター・トレックII/カーンの逆襲』スクリーン上映とトーク・イベントを組み合わせたツアーをやっているんだ。ぜひ日本にも行きたいね。そうしたらブルースを何曲か歌ってもいいかも知れない。楽しみにしているよ。