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新シリーズ【ガザからの報告①】―生活必需品のひっ迫-

土井敏邦ジャーナリスト
食料を求めて群がる住民(撮影・ガザ住民)

 イスラエル軍の1ヵ月を超える激しい攻撃によって、ガザ地区内の通信網も寸断された。インターネットがかろうじて使える地域も限定されている。北部のガザ市内、および最南部のラファ市では完全にインターネットは遮断され、かろうじて通信可能なのは、ガザ地区南部最大の街ハンユニス市内、中部の2つの難民キャンプなどだけである。

 ジャーナリストで作家の私の友人Mはそのガザ地区中部で暮らしている。

 今回のガザ攻撃が始まって2週間後あたりから、やっとMとSNSのメッセンジャーで通話ができるようになった。そのMからの報告を映像と音声で記録した。

Mはイスラエル軍の攻撃下の住民の厳しい状況を10月24日と31日に映像で伝えてきた。

【水、食料がない!】

(Q・水はどうしていますか?)

 隣人が庭を持っていて、みかんやレモンなどかんきつ類を植えています。その木に水をやる貯水井戸を持っています。そこから汲み上げた水をその隣人からもらっています。その水を煮沸して冷やし、飲料水や料理に使っています。

 地下水を汲み上げるにはポンプを動かす電気や発動機が必要ですが、今は電気も発動機の燃料の両方がないのです。だから家庭の水道が使えません。ガザのすべての市や町、村の役所でも同じ状況です。一滴の燃料もなく、まったく電気もないので、ポンプで水を汲み上げられないのです。

煮沸した水を冷やして、飲料水や調理に使っている(撮影・M)
煮沸した水を冷やして、飲料水や調理に使っている(撮影・M)

(Q・食料はどうしていますか?)

 小麦粉がまったく手に入らないから、主食のパンが作れません。今、私の家族が食べているのは、在庫があった米やマカロニです。缶詰はあっても期限が切れています。他に選択肢がないのです。店に行っても空っぽですから。

まず火を起こします。料理用ガスもないから、木切れを集めて火を起こし、原始的な方法で料理をします。昨日は妻が米に細切れにしたトマトと玉ねぎを入れて料理しました。それが我が家の食事です。1日1食です。食べようと思えば2食食べられるけど、食料の量が限られているので、節約しないと、すぐに食料がなくなってしまうからです。

この日の食事はポテトチップ。1日1食の生活。(撮影・M)
この日の食事はポテトチップ。1日1食の生活。(撮影・M)

(Q・どこで食料を手に入れられるんですか?どこからか配布されるのですか?)

 誰も配布などしてくれません。店で買うことはできます。しかし種類はとても限られています。自分が欲しいものが手に入るわけではありません。まず小麦粉はない。鶏肉もなく、缶詰はあるけど、期限切れのものです。玉ねぎなどの野菜はいくらかあります。でも値段がとても高く、しかもいつもあるわけではない。幸運なら、1キロの玉ねぎやじゃがいもを手に入れられる。しかしたくさんは買えません。1キロの玉ねぎが2ドル相当もするんです。

店頭に並んでいるのは食用油と米。ほとんどの食料が店頭から消えた。(撮影・M)
店頭に並んでいるのは食用油と米。ほとんどの食料が店頭から消えた。(撮影・M)

(Q・何人の子どもがいますか?)

 3人の子どもがいます。5歳の男の子と2歳半の双子の女の子です。それに妻、両親の7人家族です。またガザ地区北部から逃れてきた難民もいます。彼らは親戚で、ジャバリア難民キャンプやベトラヒヤ村から逃れてきました。28人です。彼らの世話も私たちの責任です。

 住民がUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)やWFP(世界食糧計画)の倉庫を襲撃しました。店が襲撃され略奪された例もあります。小麦粉や砂糖、缶詰などが盗まれました。みな空腹だからです。ガザの住民はいま、飢餓状態です。食べ物がないのですから。だから倉庫や店を襲い略奪するのです。小麦粉、砂糖、食料油などです。それらはUNRWAが3ヵ月ごとに住民に配給する食料で、保管されていたものでした。しかし住民は3ヵ月も待つなんて我慢できなかったのです。食べ物がなく、飢餓状態なのですから。だから店や倉庫を襲い、食料を略奪するのです。

(Q・近い将来、住民は飢饉になるのだろうか?)

 私はこの目で住民が飢餓状態にあるのを目撃しました。路上でビスケットの一片を乞う人がいます。人びとは飢えに苦しんでいます。今後何が起こるかわかりません。検問所が開かなければ、この何週間かのうちに飢餓で死んでいく人が出てきます。私は大げさに言っているのではありません。ほんとうに飢餓状態です。

(Q・医薬品は?)

 私の娘は1カ月前に医者から貧血だと診断されました。だから鉄分やビタミンなどサプリメントや薬を買い与えていました。しかしこの攻撃が始まってから、新たに薬を買うことができません。この攻撃が始まって2週目に薬は尽き、薬局で薬の一びんを買いに行ったけど、薬局で、「ここだけでなく、どの薬局にもその薬はもうない。ほとんどの薬はなくなった」と言われました。娘は薬もサプリメントがないので、苦しんでいます。しかも1日1食で、栄養もとれません。

(Q・電気の問題はどうしていますか?)

 電気はまったくない。この攻撃の最初の段階でイスラエルは電気の供給を止めました。10月9、10日ごろでした。それからまったく電気がありません。だから私はソーラー(太陽光発電)パネルを持った家庭から電気をもらっています。携帯と充電器を渡し、充電してもらいます。それで彼らがチャージしてくれます。

(Q・ガザの住民はどれほどの期間、生き残れると思いますか?)

 私は、数週間だろうと思います。生活のための基盤のすべてが崩壊しているのですから。水も電気もなく、食料も不足している。薬もない。通信もできない。移動もできない。安全はまったくない。イスラエルのミサイルがいつ自分の家を攻撃するかわからない。人びとは耐えがたい恐怖心を抱いていいます。今の生活に、そして子どもたちの将来に対する恐怖心です。人びとは疲れ果て、うつ状態にあります。

 店に買い物に行くことも私には大きなリスクです。私が買い物に行くとき、妻が泣くんです。「行かないで!」と。「私たちは食べなくてもいいから、行かないで!あなたが爆撃されて、怪我をしたり、殺されるのではないかと不安なんです」というのです。

生活のすべてが危険です。店や薬局、携帯を充電するため出掛けたりすると、ミサイルや砲撃にさらされる。だから大きな危険が伴います。

 人びとは疲れ切っています。長く生き延びることができないとではないかという不安を抱いています。

(Q・ガザは復興できるだろうか?)

今(10月31日)の段階で、すべてのガザ地区全体の建物の3分の1はすでに破壊されたと思います。もしこの攻撃が続けば、この数週間で全体の2分の1が破壊されます。まさに粉砕されているのです。それは恐ろしいことです。2014年のガザ攻撃とは比較にならない破壊です。

攻撃開始から今日で26日間が経ちました。2014年の戦争は52日間、続きました。もし今回の戦争が前回と同じ日数に達したら、どうなるだろうか。数万人が殺されるかもしれない。今すでに恐ろしい数の人が殺されています。まだ26日間で、です。それを観れば、今回の戦争がとても破壊的だというのがよくわかります。

 この戦争の後にあなたがガザへ来たら、衝撃を受けるでしょう。ガザがどうなるか、わからない。破壊はとてつもなく大きく、今回はこれまでの攻撃とはまったく違う。何十万という人々がホームレスになりました。街を歩いたら、道路や公園や農地にもものすごい数の人たちがテントを建てている。他に住むところがないからです。

破壊されたガザ市内。(撮影・ガザ市民)
破壊されたガザ市内。(撮影・ガザ市民)

(Q・まもなく冬がやってきます。家もなく、暖房もなく、人々は暮らしていくのがとても難しくりますが?)

 いまは秋で、冬に入ろうとしています。にもかかわらず人々はテント暮らしです。広場や道路で。そのテントの中で寝ているのです。他に選択肢がないからです。家もなく、どうすればいいでしょうか。中にはテントなどシェルターさえない人もいます。私は何人かの難民を受け入れています。他の人はそんな機会もないのです。

(Q・ガザを再建することは可能だろうか?)

 可能でしょう。しかし2~30年はかかるだろうと思います。どれほどの破壊なのか自分の目で確かめなければ、あなたは想像もつかないでしょう。

(Q・ガザの将来はどうなると思いますか?)

 ガザは終わった。ガザのビルは瓦礫の山となり、完全に破壊されました。毎日、若者たちに道や店の中で出会います。そのほとんどは、ただ戦闘が終わるのを待っています。終われば、すぐに彼らはガザを脱出していくでしょう。ガザは終わり、何の将来のためのチャンスはないからです。今回はガザの全てが終りました。彼らのほとんどがガザを出ていくでしょう。非合法的な手段を使っても、です。

(Q・あなた自身は?ガザを出ていくことを考えていますか?)

 私自身、脱出を考え始めています。ここに希望がないからです。いつもハマスが挑発をし、私たちを新たな戦争へと引きずり込む。こんな場所に留まることはできません。私だけでなく、子どもたちの将来のためにです。子どもたちの将来を失わせたくないんです。(続く)

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 ガザがイスラエルの空爆と完全封鎖、さらに地上侵攻で瀕死の状態にあります。

ガザ住民の犠牲者は1万人を超え、100万人以上の住民が住居を失いました。

一方、食料、水、燃料、医療品など、生存に不可欠な物資の搬入もイスラエルによって封鎖され、220万のガザ住民はその文字通り生存そのものが危機にさらされています。

 この現状のなか、長く"パレスチナ"に関わってきたジャーナリストとパレスチナ問題の専門家がガザの歴史、現状、そして将来について緊急報告をします。

緊急報告会

「ガザはどうなるのか?」

【内容】

1)最新ドキュメンタリー映画「破壊のあとで」(67分)(初公開)

  2014年ガザ攻撃の破壊のあとで、ガザ住民に何が起きたのかを2015年から2019年まで3回の取材で追ったドキュメンタリー。これは今回のガザ攻撃のあとに何が起きるかを暗示している。

2) 「ガザ状況」報告と分析(12月初旬でのガザ情勢から)

・川上泰徳氏(中東ジャーナリスト/元「朝日新聞」中東総局長)

・鈴木啓之氏(東京大学特任准教授/パレスチナ問題専門家)

・土井敏邦(ジャーナリスト/映画監督)

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【日時】 12月17日(日) 午後1時半~午後4時半(休憩あり)

                (開場:午後1時15分)

【場所】 東京都・日比谷図書館/コンベンションホール(地下)

【参加費】 1000円 (学割800円)

*種々の「配慮割引」もあります。予約時にご相談ください。

【予約申し込み先】 doitoshikuni@mail.goo.ne.jp

(定員200名に達した時点で締め切らせていただきます)

参加を希望される方は

必ず連絡先(メールアドレスと電話番号)をご記入ください。

【主催】 土井敏邦 パレスチナ・記録の会

【問い合わせ先】 doitoshikuni@mail.goo.ne.jp

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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