コロナ禍で立ち止まったから見えたもの。新婚で隠しごとをされて…。大友花恋が初めて結婚したヒロインに
コロナの感染拡大で様々な行動が制限された2年前のある1日を描く映画『散歩時間~その日を待ちながら~』が公開される。10代から40代までの群像劇の中、新婚生活に不安を抱くヒロイン役で大友花恋が出演している。現在23歳。ドラマでまだ高校生役も務めていて、結婚と向き合う役は初めて。自分自身に対する気づきもあったという。
役と共に自分が大人になっていくのを感じます
2020年11月の1日が舞台の『散歩時間』。コロナの影響で結婚式ができなかった亮介(前原滉)とゆかり(大友)は、友人たちがお祝いパーティーを開いてくれることになり、都会から離れた町に住む真紀子(柳ゆり菜)の自宅を訪れる。しかし、ゆかりは夫の隠しごとを知り、不穏な空気が漂ってしまう。
――結婚している役は初めてでしたっけ?
大友 『あな番(あなたの番です)』でつき合っていた2人が、劇場版では結婚していただけです。結婚そのものと向き合う役は経験なかったので、新鮮でした。
――『散歩時間』は群像劇で中学生の話もあって。少し前なら花恋さんはそっちだった感じもしました。
大友 そうですね。オーディションでは中学生役の台本もいただいたので、その役の可能性もあるかもと、心の準備はしていました。でも、いろいろな職業を演じる機会も増えてきた中で、役と共に自分も大人になっていくんだなと感じています。
――新婚の奥さんはイメージできました?
大友 自分の環境的に、具体的なイメージが湧きにくいところもありました。ただ、撮影していたのが同級生たちが大学4年生の年で、周りで就職する人もいて。人生の選択という部分を、結婚と繋げて想像しました。
夢でなくて現実になると大変そうだなと
――花恋さん自身はまだ、結婚には夢が多い感じですか?
大友 憧れというか、キラキラして幸せなイメージだったのが、役でゆかりと向き合う中で、そういう面だけではないんだと感じました。夢でなくて現実だから、考えないといけないことは多いですし、お互いの人生に責任を持たないといけない。結婚はそういう大きな決断になるので、簡単なことではないですよね。
――亮介の元バイト仲間から「一緒にいる時間が長いほど喧嘩が増える」といった話も出ていました。
大友 私にとって、今の人生のパートナーはマネージャーさんなので、置き換えて考えました。思っていることはきちんと言わないと伝わらない。長く一緒にいると、お互いの様々な面を知ることができて、それがいいときもあれば、理解し合っているからこそ「大丈夫かな?」と思うときもあります。そんな中で、私のマネージャーさんは些細なことでも声を掛けてくださって、あうんの呼吸で日々を共にしています。
――喧嘩することはないと。
大友 ないです。ただ、最近は会うたびに「水を飲みなさい」と言われます(笑)。私が普段からあまり水分を摂らないので、体に悪いと注意されました。
物を置く場所が変わると収まりが悪い気がして
――ゆかりはまず、亮介がネクタイや服のある場所を覚えないことにモヤモヤしていました。
大友 私はゆかりと似ている部分があって、何でもきちんとしておきたいんです。家の中で物を置く場所は全部決まっていて、どのポーチに何が入っていてバッグの中がどうなっているかも、こだわりがあります。それが崩れると、収まりが悪い気がしてしまって。一緒に暮らす相手が物の置き場所を覚えてくれないと、2~3日なら我慢できても、一生続くのかと思ったらモヤモヤが溜まってくる気がします。
――隠しごとをされていたのを知って、ショックも受けていました。
大友 あのシーンは私にもグサリときました。私自身、家族や周りの人に隠しごとはしたくなくて、全部言っておかないと気持ちが悪くて。ゆかりもきっと同じで大事なことは話してきたのに、亮介のほうは話してくれなかった。そんな隠しごとをしたまま夫婦でいられるのか、心配になる気持ちはよくわかりました。
――そういう意味では、演じやすい役でした?
大友 そうですね。お芝居をしつつ、自分とゆかりがどこかで共存していました。共演の皆さんもナチュラルにこの世界を生きてくださっていたので、私も飛び込みやすかったです。
オーディションで演技への不安も話しました
――ゆかり役はオーディションで決まったんですね。
大友 そうです。オーディションがあったのは去年の夏で、その頃はバラエティ番組のお仕事が多かったので、久しぶりのお芝居に不安がありました。審査の場で戸田(彬弘)監督がたくさん話を聞いてくださって、その不安な気持ちも含めて全部お伝えしました。
――普通はオーディションでは、不安を口にするのはマイナスではないですか?
大友 そう思いますよね。今までの私なら「大丈夫です。できます」と言っていました。あのときは監督のやさしさに触れて、つい「できるかわかりません」と漏らしてしまったんです。それを帰り道でマネージャーさんに話したら、「ありのままで良かったと思います」と言われました。結果的にはゆかり役に選んでいただけて、不思議な気持ちでした。
――亮介の友人たちが「あいつの好みはたぬき顔」と話すくだりもありましたが、それは後付けで(笑)?
大友 本読みのとき、監督に「大友さん、もう一度顔を見ていいですか?」と言われて、マスクを外したら「たぬき顔ですよね」という話になりました。その場では「きつねよりはたぬきだと思いますけど、いつも猫と言われます」と言って、何のことかと思っていたら、そんな会話がシーンに付け加えられていました(笑)。
やさしくされて自分がわがままに思えてしまって
――花恋さん目線だと、亮介は男性としてどう思いますか?
大友 楽観的で、ふんわり、ぼんやりした部分はありながら、とことんやさしい人なんだろうなと思います。誰と話しても、相手を尊重するからこそ「自分はいいよ」と合わせていて。ゆかりにすれば、自分がわがままに思えてしまう。それで「やさしくしないで」と言っていたんです。でも、そのやさしさが亮ちゃんの良さでもあるんですよね。
――結婚相手としてはアリですか?
大友 少し考えてしまうかもしれません(笑)。つき合うのでなく結婚となったら、二の足を踏んでしまうと思います。
――劇中では、ゆかりが亮介の嫌いなところを挙げて、「それ以外は全部好きです」と言う場面がありました。
大友 あの言葉はすごいと思いました。嫌いなところを言うのも勇気が要りますし、「それ以外は全部好き」と伝えることも覚悟が必要なので。この作品が描く1日の中で、ゆかりが大きく前進したのを実感するシーンでした。
ごはんを一緒においしく食べられることは大事です
――花恋さんが結婚相手に求めたいことはありますか?
大友 ごはんをおいしく食べられることは大きいと思います。私も食べることが好きなので、食に興味があって、食べる量やテンポも一緒だと嬉しいです。あと、きちんとコミュニケーションを取り合える人がいいです。私は何でも1人で消化しようとするクセがあって、そういうときに相手から話し掛けてくれたら、自分も踏み込んで話せる気がするので。
――あとは最初に出たように、どこに何があるかは覚えてほしいと?
大友 それもありました(笑)。しっかりしている人がいいです。自分の条件はそんなに厳しくないと思っていましたけど、よく考えてみたら、どんどん対象が狭まってしまってビックリです(笑)。
――新婚旅行で行きたいところもありますか?
大友 劇中の2人は、パリかバリかで意見が割れていましたね。私はパリに行きたいです。ヨーロッパに行ったことがないので、フランスとかあちこち巡れたらいいですね。
――ゆかりは結婚した大人の役ということで、みんなとビールを飲むシーンもありました。
大友 私も最近、自分1人のためにお酒を買うようになりました。今までは家で飲むことがあまりなかったのが、「今日は飲んでみようかな」と思う日もあって。まだ飲んだことのないお酒がたくさんあるので、どんな味か試したりもしています。お肉には赤ワインと言われるのはどうしてなのか、実際に合わせて飲んでみたり。
――お気に入りのお酒もあるんですか?
大友 20歳になって、最初に飲んだお酒がシャンパンでした。だから、飲んでいて一番嬉しくなるのはシャンパンです。でも、まだ1人で飲んだことはないので、『散歩時間』が公開されたら、お祝いで飲んでみようかと思っています。
散歩をする速度で自分自身を見つめ直せて
――この映画はコロナ禍が広まっていた中での1日が舞台で、その頃を思い出したりもしました?
大友 思い出しました。ちょうど20歳になって半年経った頃に、すべてが止まってしまって。どうすることもできず、もどかしかった記憶があります。コロナがなければ、こんなことができていたかもしれない。もっと何かになれていたかもしれない。そういうネガティブな気持ちが強かったんです。でも、この作品に触れて、あの自粛期間がなかったら今の自分にもなれていなかったと、気づくことができました。それまでずっと走り続けてきたけれど、散歩をするように速度を緩めて、自分自身を見つめ直したら、新しい発見もありましたし、時代に合う自分のあり方も考えました。
――自粛期間にどんなことを考えたんですか?
大友 (8年間務めた)「Seventeen」モデルの卒業を控えていて、自分のひとつの居場所がなくなったら、今後はどうしていけばいいのか。自分が求められていることとできることを考える時間になりました。それをきっかけに、お芝居だけでなくバラエティにも挑戦していきたいと、改めて思いました。
――バラエティの仕事が増えたのは、そこから始まったんですか。
大友 それまで、バラエティ番組ではどこか「お邪魔させてもらう」という気持ちが強くて、受け身の姿勢だったんです。「自分に何ができるだろう」と積極的になったかもしれません。
外食から家で料理するように変わりました
――当時は家で料理にも励んでいたんでしたっけ?
大友 緊急事態宣言中はたくさん料理をしました。それまでは外でごはんを食べることが好きで、毎晩寝る前に「明日は何を食べようかな」とお店を調べるのが趣味でした。でも、家にいた期間に「何を作ろうかな」に変わりました。今でも家でお料理をして食べることは日課になっています。
――腕も上げましたか?
大友 テキパキと料理をできるようにはなりました。目分量の意味がわかってきたんです。すりきり一杯とかレシピ通りに計っていたのが、今では「これだったら、これくらいかな」という感じで作っています。
――得意なメニューは何ですか?
大友 たくさんの料理を作ってきて、幅は広がりました。次はお魚料理をうまくなりたいです。魚といえば焼くしか選択肢がなかったので、あら煮を作ったり、洋風にしたり、トマトで煮込んでみたり、いろいろな調理法に挑戦したいと思います。
「こういうお芝居もある」と噛みしめる時間でした
――この群像劇の中で、デリバリーのバイトをしている売れない俳優の演劇ワークショップが中止になったり、インフルエンサーが「撮影が中止になって」と話していたりもしました。そういうこともあの頃、実際にあったわけですよね?
大友 ありました。始まるはずだった作品が予定通りに始まらなかったり、お芝居をしていない期間が続いて、久しぶりに現場に行ったらリズムが狂っていたり。「今までどんなふうにお芝居をしていたんだっけ?」と戸惑いました。この作品の撮影は去年で、まだ悩みが続いていたので、「こういうお芝居の仕方もあったな」と噛みしめるような時間でした。
――2020年の大みそかの花恋さんのブログに「私たちはよく頑張った!」と書かれていて、何かジーンとしたのを覚えています。
大友 そういうことも書きました。いつもはあまり「頑張る」という言葉は使わないようにしているんです。でも、あの年は自分たちを認めてあげたい想いが強かったので。それもコロナ禍で自分と向き合えたからだと思います。忙しいと目の前のことに精いっぱいで、自分の気持ちに気づけないことも多いので、お仕事が止まった中で考える余裕ができたのは、苦しくもあり学びでもありました。
すべてを流星群が受け止めてくれました
――劇中では、あれこれあった1日の夜に、しし座流星群が流れます。
大友 すべてを流星群が受け止めてくれて、救われるお話でした。夜に外に出る機会も少なくて、撮影中に夜景を見て、外の空気も感じられたのは嬉しかったです。その日がクランクアップだったんです。暗くなる前から、みんなで現場に行って準備をして、きれいな夕焼けも見られました。前原さんやスタッフの皆さんと待ち時間におしゃべりしながら、「素敵な映画が作れたな」と温かい気持ちになりました。
――実際に流れ星を見たことはあるんですか?
大友 あまりないかもしれません。ただ、地元の群馬では星がすごくきれいに見えるので、いつも空を見て「ああ、帰ってきたんだな」と実感します。
――もし見られたら、願いたいことはありますか?
大友 「こうなりたい」と思ったときには、すでに行動に移しているので、願うとしたら些細なことですね。「旅行に行きたい」とか。星に願うようなことではないですけど(笑)。
――どこに旅行に行きたいと?
大友 韓国に行ってみたいです。外国の料理はなかなか自分で作れないので、本場の韓国料理を食べたくて。辛いものは、唐辛子もわさびも辛子も山椒も大丈夫です(笑)。
外出が難しかったから出た言葉がじんわりと
――群像劇の他の登場人物たちのパートは、試写で観て、どう思いました?
大友 全部のシーンがリアルでした。中学生の2人の会話は甘酸っぱかったです。夜の学校のプールに忍び込んだり、デリバリーでハンバーガーを頼んで、2人で食べて花火をしたり。恋愛映画とは違うキュンキュンで、もどかしさが染みました。
――デリバリーをしている若手俳優が、公園で漫才の稽古をしている女性芸人を見て「みんな頑張ってるやん」と言うシーンも印象的でした。
大友 素敵でしたね。3人で公園で話して「絶対にビッグになってやるぞ!」と言ったあとにテレていたり、「もう終電ないけどいいや」となっていたり。コロナ禍で外出も難しかったからこその言葉で、観ていてじんわりきました。
――そして、花恋さんの髪が長かったですね。
大友 観たら「パッツンだ!」と(笑)。黒髪ですし、違う自分のように見えます。今はドラマの役のためにボブにしました。役でないとできない髪型もたくさんあるので、それも楽しめたらなと思います。
新しい環境に自分を馴染ませる1年でした
――今年も残り1ヵ月を切りました。
大友 良い1年を過ごすことができました。挑戦の年、というのは毎年ですけど、今年は舞台をやったり、髪の一部を金髪にしてみたり。去年が「Seventeen」を卒業して環境が大きく変わった年だったので、新しい環境に自分を馴染ませるための1年でもあったと思います。
――舞台『ボーイング・ボーイング』は大きかったですか。
大友 舞台に立つことが久しぶりでしたし、セットや音楽に頼らないストレートプレイは新鮮でした。役へのアプローチはひとつではなくて、お芝居の種類もいろいろあるんだなと。『散歩時間』のようにじんわり演じるのが大事なこともあれば、舞台のようにパキパキ全身で見せることもある。それをうまく使い分けられる女優でありたいと思いました。
――CMもベネフィット・ワンにカップヌードルと続きました。
大友 家でテレビをつけていて、不意に自分が出演しているCMの音が聞こえてくると、少し恥ずかしくなります(笑)。
――「カプヌたべる、当たる」と繰り返すCM撮影では、だいぶ食べたんですか?
大友 はい。カレー味とチーズカレー味って、普段なら同時に食べないじゃないですか。他にもいろいろな味を一度に食べられて、幸せな時間でした(笑)。
セカセカしすぎず深呼吸をする時間も作れたら
――年末年始に楽しみなことはありますか?
大友 祖母の家に行きます。私が小さい頃、おせちを食べて「なますが好き」と言ってから、毎年山のように出してくれて(笑)。またなますをひとり占めして食べていると思います。
――小さい頃からなますを好きだったとは、渋いですね(笑)。
大友 昔から「花恋はおじいちゃんみたいなものが好きだね」と言われます(笑)。小魚の佃煮やイカも好きです。
――クリスマスはもうはしゃぐ感じではないですか?
大友 いえ、全力ではしゃぎます(笑)! 街のイルミネーションは欠かさず見に行っていて。ここ数年は人混みを避けて、通り掛かったら見るだけでしたけど、今年はまた自分から見に行ってもいいかなと。お仕事で通ることの多い表参道や六本木周辺は毎年とても素敵なので、期待しています。
――散歩時間も作りますか?
大友 お散歩も好きです。去年のお正月も帰省して、昔の通学路を懐かしい気持ちで歩いてきました。『散歩時間』を通して、立ち止まることにも意味があると学んだので、来年もセカセカしすぎず、深呼吸をする時間も作れたらと思います。
撮影/松下茜
Proflie
大友花恋(おおとも・かれん)
1999年10月9日生まれ、群馬県出身。
2012年に女優デビュー。主な出演作はドラマ『チア☆ダン』、『あなたの番です』、『新米姉妹のふたりごはん』、『初情事まであと1時間』、映画『案山子とラケット~亜季と珠子の夏休み~』、『君の膵臓をたべたい』など。ドラマ『永遠の昨日』(MBSほか)に出演中。12月9日より公開の映画『散歩時間~その日を待ちながら~』に出演。
『散歩時間~その日を待ちながら~』
監督/戸田彬弘 脚本/ガク カワサキ
出演/前原滉、大友花恋、柳ゆり菜、中島歩、篠田諒、アベラヒデノブ、高橋努ほか
12月9日より新宿シネマカリテほか全国順次公開