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横浜市で生活保護の「虚偽説明」が問題化 国の通知も生活保護の改善は進まず

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(提供:アフロ)

 昨日、「つくろい東京ファンド」などの支援団体が記者会見を行い、横浜市神奈川区で生活保護申請に訪れた女性を追い返す「水際作戦」が行われていたことが明らかになった。

 神奈川区の福祉事務所の職員は、ホームレスの女性に対し、施設入所が保護申請の条件であると誤った説明を行い、申請自体を受け付けなかった。生活保護法では施設入所は強制できないことになっており、こうした施設は個室がなく居住環境も劣悪である場合が少なくない。

 そもそも、生活保護は誰でも申請ができることになっており、口頭で申請の意思を伝えるだけでも申請が成立するという判例もある。申請を受け付けないのは違法行為である。横浜市も告発を受けて下記の通りHP上でで謝罪している。

横浜市の謝罪プレスリリース:【記者発表】神奈川区における生活保護申請対応について

 このような「水際作戦」は横浜市のみならず、全国の自治体で頻発しているというのが、私たちも含めた支援団体の実感だ。場合によっては命を奪うことになりかねない違法な運用は是正されなければならない。

 ところで、「水際作戦」のパターンとして、扶養照会をちらつかせて申請を思いとどまらせるという場合がある。扶養照会とは申請者の親族に対し、扶養(金銭的援助など)の可能性についての文書を送付する制度だが、生活保護申請を家族に知られることを恥だと思う人も多く、保護申請の大きな障害となっている。

 実は、去る2月26日に厚労省が扶養照会の運用を改善する通知を出した。今回の通知は、生活保護が採りにくいことに対する社会的な批判を受けて出されたものである。果たして、通知によって保護申請を妨げる扶養照会は改善されるのだろうか。本記事では、今回の通知について論じていきたい。

扶養照会とは

 通知の内容に入る前に、そもそも扶養照会とは何か、確認していこう。

 扶養照会とは、民法で定める扶養義務に基づいた生活保護制度上の実務である。扶養義務について、具体的には以下の通りとなっている。

民法752条「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」

同877条1項「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」

同条2項「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合の外、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」

 つまり、申請者にとっての「配偶者」「親」「子ども」「兄弟姉妹」に扶養義務があり、家庭裁判所が認めるときには、「叔父叔母」「配偶者の兄弟姉妹」も扶養義務を負うことになる。

 扶養義務と生活保護との関係については、生活保護法で、「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」と定められている。これは、保護受給者に対して扶養義務者から仕送りなどが行われた場合には、収入として認定し、その金額分だけ保護費を減額するということだ。

 ここでは、扶養義務が保護を受給する上での「要件」とはなっていないため、扶養が実際に行われなくても保護を受給することは可能である。しかし、扶養の可能性についての照会自体は行われてしまうため、保護申請を親族に知られることになる。これが保護申請の大きなハードルとなっているのだ。

扶養照会が行われない例外パターンと今回の通知

 以上が扶養照会の原則であるが、例外として照会を行わない場合がある。それが、「扶養義務履行が期待できない者」がいる場合である。

 「扶養義務履行が期待できない者」として厚労省が例示しているのは以下の通りだ。

・長期入院患者

・主たる生計維持者ではない非稼働者

・未成年者

・概ね70歳以上の高齢者

・20年間音信不通である者

・要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない者

・夫の暴力から逃れてきた母子等当該扶養義務者

 これらを除いたとしても、かなり多くのケースで扶養照会が行われうることは容易に想像がつく。実は、今回の厚労省の通知はこの例外に関わるものである。

 今回の通知で改善された部分としては、

・当該扶養義務者に借金を重ねている

・当該扶養義務者と相続をめぐり対立しているなどの事情がある

・縁が切られているなどの著しい関係不良

・「20年間音信不通である」→「一定期間(例えば10年程度)音信不通である」

・虐待等の経緯がある者

が追加・変更されただけである。つまり、ほとんど変わっていないと言わざるを得ない。

必要とされる制度改正とは

 上述の通り、今回の通知によっても、扶養照会は原則として実施され、いくつかの例外に限っては実施されないという制度の枠組み自体は変わらないということだ。これでは、冒頭に述べたような、普通の労働者が「出入りしやすい」制度には程遠い。

 それでは、どのような制度改正が必要だろうか。この点について、生活保護問題対策全国会議とつくろい東京ファンドが連名で出した緊急声明では、民法上の扶養義務に関して要扶養者が持つのが「扶養請求権」であることに着目し、「申請者が事前に承諾した場合」に限定すべきだとしている。

 また、極めて例外的な場合を除いては照会を行うという枠組みが維持されているのに対し、原則と例外を逆転させる改正を行うべきだと述べている。

 世界的に見ても、ドイツでは扶養を求めるかどうかの判断を保護申請者に委ねているが、その他のヨーロッパ各国ではそもそも扶養義務は同居している配偶者間と子どもに対してしか発生しない。つまり、同居していない親族に扶養照会を行う必要すらない。

 扶養照会がなくなれば、より多くの労働者が生活保護を利用し、コロナで崩れた生活を立て直すことができるようになるだろう。

 コロナを契機に、ヨーロッパの福祉国家水準を目指して日本の生活保護制度の改革を進めるべきではないだろうか。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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