『クイズ☆タレント名鑑』が奇跡の復活! サラリーマンが天才に立ち向かう方法
昨日24日、TBSはゴールデンタイムで『芸人キャノンボール』を3時間放送。それに続き、『水曜日のダウンタウン』を1時間放送した。どちらもが藤井健太郎が総合演出を務める番組。驚くべきことに、藤井健太郎がゴールデンの4時間を独占したのだ。
そして、2つの番組の間に、さらに驚きのニュースが挟み込まれた。
10月から日曜日に放送する新番組『クイズ☆スター名鑑』が始まるというのだ。
出演者はロンドンブーツ1号2号、おぎやはぎ、FUJIWARA、有吉弘行、そして“マスパン”こと枡田絵理奈。
タイトルは若干リニューアルされているが間違いなく、2009年に特番が始まり、2010~2012年までレギュラー放送されていた『クイズ☆タレント名鑑』の復活である。
『クイズ☆タレント名鑑』はテレビ好きの視聴者の間で熱烈に支持された番組だった。
いや、視聴者だけではない。出演者にも愛された番組だった。
司会を務めていたロンドンブーツ1号2号の田村淳は終了の発表の後、自身のTwitterで以下のようにツイートしている。
番組終了について、淳は「お笑いナタリー」の取材を受け、このようにツイートを補足している。
「芸能人!検索ワード連想クイズ」では回答者が前科者や危険な人物の名前を連呼する悪ノリを繰り返し、「芸能人!してる?してない?クイズ」では失礼な悪意をねじ込み、「スター☆今の限界名鑑」でアヌシュやブーマーらの無気力外国人を辛辣な編集で笑いものにしたと思えば、アニマル浜口の想像を絶するがんばりに謎の感動を呼び起こす。「このオファー引き受けた?引き受けなかった?クイズ」では「楳図かずおの『スリラー』」や「みうらじゅんのキャンドル・ジュン」などのアッと驚く貴重映像を見れたかと思えば、松島トモ子への「予約」システムなど摩訶不思議なルールまでできてしまう。「自称そっくりさんクイズ」ではクイズは“同じ回答が続かない”という常識を打ち破って、「織田織田小木小木織田小木小木」なんていう呪文のようなフレーズが飛び出す。夢の対決連発の「ガチ相撲」で興奮し、果ては「モノマネ芸人いる?いない?クイズ」ではついに“殺人事件”が起こり、サスペンスドラマにまで発展してしまう!
見ていない人にとっては「?」だらけであろうが、そんなひたすらバカバカしく、自由な番組が日曜夜8時に放送されていたのだ。
それはテレビっ子にとって「テレビは面白い」と胸を張っていられる、いわば希望の番組だった。
そんな番組が終わってしまったのは、とても大きな挫折だった。
だが、奇跡は挫折がなければ生まれない。
果たして、『クイズ☆タレント名鑑』復活という“奇跡”は起きたのだ。
藤井健太郎とは一体何者か
もちろんこの“奇跡”には伏線がある。それは藤井健太郎が番組終了後も新たな面白い番組を作り続けてきたことだ。
『タレント名鑑』終了後すぐ、その深夜版といえる『テベ・コンヒーロ』を半年間の期間限定で放送。翌13年からはアイドルグループ「Kis-My-Ft2」をレギュラーに迎え『Kiss My Fake』を制作。そして、2014年4月から現在も続く『水曜日のダウンタウン』が始まった。
その間、単発の特番でもレイザーラモンRGをメイン司会に抜擢した冒険的番組『あるあるJAPAN』や、1年間の長いスパンの未来予想クイズ番組『クイズ☆正解は一年後』、回答者の“人生”をクイズにする『クイズ☆アナタの記憶』、『タレント名鑑』のスピンオフ番組『チーム有吉』、大喜利とドッキリが融合した『ドッ喜利王』、そして前述の『芸人キャノンボール』などなど、斬新かつ濃密なお笑い番組を次々と発表し続けていたのだ。
藤井健太郎とは一体どんな男なのだろうか。
藤井はちょうどこの8月に『悪意とこだわりの演出術』(双葉社)を上梓している。
その中で、TBSに入社した理由をこのように綴っている。
子供の頃からテレビは好きだったが、フリーで放送作家やディレクターになるような何の保証もない世界に行くような情熱はなく、もしテレビ局、出版社、レコード会社すべてに落ちていたら、小学校の先生になろうと思っていたとまで書いている。
あくまでも「サラリーマン」なのだ。
BIG3やとんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンといったテレビのトップで活躍するタレントたちは、いわゆる“天才”たちだ。にも関わらず、彼らに演出をつけるのは一介のサラリーマンであるテレビ局員という場合が多い。その点が映画などとは大きく違う。
では、なぜサラリーマンが天才たちに立ち向かうことができるのだろうか。
だから藤井は“分業制”が当たり前になった現在でも、編集からナレーション原稿、音のバランスを調整する作業までほぼ全てを担っているという。
とかく「サラリーマン」というのはクリエイティブな現場ではマイナスに見られがちだ。
そもそも安定志向のサラリーマンと、発想が第一のクリエイターは、真逆ともいえる立場だから当然だ。
テレビ局員は、たとえ視聴率が悪く番組が終了したとしても、給料は毎月貰える。次に企画を通せば新しい番組を作ることもできる。よっぽどのミスを犯しても、それが犯罪でもなければクビになることもないだろう。仮に不本意な部署に異動になったとしても給料は保証される。逆に、もう番組制作する気力や体力がなくなったと思えば、異動届をだせばいい。
自分に甘く仕事をしようとすればできる立場でもある。だが、藤井は真逆の発想をしている。
安定し、リスクが少ない状況だからこそ、思い切り振り切って勝負すればいい。それこそが天才たちと対峙できる唯一の道なのだ。
ちなみに、本書『悪意とこだわりの演出術』も「置きにいく」気はまったくないようだ。それは本書冒頭「はじめに」の書き出しのセンテンスから炸裂している。