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【来日直前インタビュー】エレクトリック・ギターの名手ジミー・ヘリングが2019年11月に日本公演

山崎智之音楽ライター
Jimmy Herring(写真:Shutterstock/アフロ)

2019年11月、ジミー・ヘリング& THE 5 OF 7が来日公演を行う。

“エレクトリック・ギターの達人”と呼ぶに相応しい名手。グレイトフル・デッドの元メンバー達が集結したザ・デッドやオールマン・ブラザーズ・バンド、デレク・トラックス・バンドなどで活動、ジョン・マクラフリンとの共演ライヴ『ライヴ・イン・サンフランシスコ』(2018)ではマハヴィシュヌ・オーケストラの名曲の数々で火花を散らすバトルを繰り広げるなど、ジミーの軌跡は常に刺激に満ちたものだ。

そんな彼が満を持して始動させたリーダー・バンドTHE 5 OF 7を率いてのライヴは、日本でも大きな話題を呼んでいる。

ジャム・バンド・スタイルと高速ジャズ/フュージョンのせめぎ合い。ジミーが来日に向けての抱負を語ってくれた。

<俺たちの音楽には常に偶発的な要素がある>

●“新バンド”であるTHE 5 OF 7で北米ツアーを行いましたが、ファンの反応はどのようなものでしたか?

みんな楽しんでくれたし、俺たち自身もすごく楽しみながらプレイした。バンドとオーディエンスの両方が楽しんでいると、相乗効果が生まれるんだ。マジックが起こるんだよ。

●THE 5 OF 7はどのように始まったのですか?

今住んでいるアトランタで友人のミュージシャンと一緒にやりたいと思ったんだ。俺は57歳だけど、30年間ずっとツアーの連続で、地元のシーンの事情が判らなくなっていた。それでベーシストのケヴィン・スコットに「若手にはどんな人がいる?」とか訊いてみたんだ。共通する友人がいて、一緒にジャムをやってみたりした。地元のミュージシャンだから飛行機代やホテル代もかからず、楽しみながらジャムをやったよ。3、4回ジャムをやって、この仲間たちとバンドを組みたいと思ったんだ。ケヴィンとマット(スローカム/キーボード)は俺の前のバンド、ジ・インヴィジブル・ホイップでも一緒にやっていたけど、キング・ベイビーというバンドもやっていて、そのシンガー兼ギタリストがリック(ロラー)だったんだ。そうしてTHE 5 OF 7が始動したんだよ。

●THE 5 OF 7というバンド名にはどんな意味があるのですか?

カーネル・ブルース・ハンプトンは俺たちの師匠みたいなミュージシャンなんだけど、このバンドのメンバーは全員が彼と共演したことがあるんだ。俺たち全員の父親的ミュージシャンだよ。彼が1970年代に“THE IV OF IX”というバンドをやっていたんだ。それに敬意を表したんだよ。ブルースは亡くなってしまったけど(2017年5月1日、70歳記念コンサートのステージ上で死亡)、その魂を生かし続けたかったんだ。

●アメリカでのライヴではどんな曲をプレイしましたか?

異なったスタイル、異なったテンポの曲をプレイしたかったんだ。俺のインストゥルメンタル、バンドのメンバー達がやっているキング・ベイビーのヴォーカル入りの曲...キング・ベイビーは大規模なツアーをやっていないし、ライヴの回数も少ないから、あまり知られていないんだ。でも素晴らしい音楽だし、より多くの人に聴かれるべきだと思った。それと、ある日リハーサルをしていて「マイルスの曲もやらなきゃ!」と盛り上がって、「ブラック・サティン」をプレイすることにしたんだ。R.L.バーンサイド風のカントリー・ブルース曲「ミス・メイベル」もプレイしたし、起伏に富んだショーになったよ。

●「チェック・ザ・ヘッド」「ザ・ビッグ・ガルート」など、キング・ベイビーのヴォーカル入りナンバーもライヴでプレイしましたが、それは大きなチャレンジでしたか?

チャレンジというより、とにかく楽しみながらやったよ。キング・ベイビーの音楽はブルース、ファンク、そしてロックのヴォキャブラリで語られているから、俺にとっても馴染みがあるものだった。キング・ベイビーはアルバムを出して、数回ライヴをやった程度で、本格的なツアーはやっていなかったんだ。もったいない!と思っていたよ。その時点では、まさか自分が彼らの曲をプレイするとは考えてもいなかったけどね。

●インストゥルメンタルとヴォーカル入りグループでプレイするのは、どのように異なりますか?

インストゥルメンタルには歌詞がないから、より明確なメロディが求められる。そのぶんギターの奏でるラインが重要になるんだ。しかも、さんざんギターを聴かされてからソロに入るから、ひと工夫を加える必要がある。マハヴィシュヌ・オーケストラやウェザー・リポート、ディクシー・ドレッグスはそんなハードルを見事にクリアしているバンドだ。自分もそうありたいと考えているよ。ただ、ヴォーカル入りでも決して楽になるわけではない。シンガーをバックアップしながら、全体の音楽を盛り上げていく必要があるんだ。どちらも苦労があるし、異なった種類の楽しみがある。

●あなたはいわゆる“ジャム・バンド”でレイドバックしたプレイをする一方で、スリリングな速弾きもこなす多様性を持っていますね。

速弾きについてはブルースと一緒にやっている頃、よく叱られたよ。「まるでタイプライターみたいだ」「1音ごとにギャラが払われるみたいに弾きまくっているぞ」とかね(苦笑)。彼はインプロヴィゼーションの中で速いフレーズが入ることは認めていたけど、速弾きプレイそのものがソロの中心になってしまうことは好んでいなかった。それは俺にも影響を及ぼしたよ。重要なのはスピードではなく、フレーズとテイストなんだ。人間というのは居心地が悪いとしゃべり過ぎる。それと同じで、音楽的に居心地が悪いと速弾きに走ってしまうんだ。だから自分の音楽的視野を広げて、幅広いスタイルに対応出来るように心がけた。ブルースとのツアーでは、俺がよくバンを運転していたんだ。「もっとゆっくり走ってくれ!ギターの速弾きみたいに運転するな!」とか小言を言われた。

●あなたはブルース・ハンプトンやザ・デッド、オールマン・ブラザーズ・バンドなどのベテラン勢と多く共演してきましたが、THE 5 OF 7で自分より若い世代のミュージシャンとプレイするのは、どんな気分ですか?

ブルースやフィル・レッシュは若手ミュージシャンを集めてバンドを組んでいた。俺もそんな一人で、彼らと一緒にやることで、あらゆることを学んできたんだ。俺自身も50歳を過ぎて、自分の知っていることを次の世代に伝えたかった。ただ、彼らに“教える”なんて大それたことを言うつもりはない。いつも俺自身が学んでいるよ。彼らは音楽に対して熱意があるし、一緒にプレイして本当に楽しい。リックみたいなシンガーとやるのはスリルを感じるね。彼はスティーヴィ・ワンダーやダニー・ハザウェイから影響を受けているんだ。どちらも俺のフェイヴァリット・シンガーだし、呼吸がピッタリ合うんだよ。

●THE 5 OF 7のライヴ動画を見ると、リックはギタリストとしても個性的なスタイルを持っていますね。

うん、リックのギター・スタイルの原点はブルースにある。ブルースはすべての始まりなんだ。リックは絶妙なタイミングの取り方を心得ているし、フィーリングも持ち備えている。ファンキーにも弾けるし、ビル・フリゼールやジョン・スコフィールドなどのジャズ・ギタリストからの影響もあるんだ。そんな多様性が、彼のプレイを豊かにしているんだよ。

●東京でのライヴは11月25日(月)ブルーノート東京、26日(火)〜28日(木)にコットンクラブで各日2公演ずつを行いますが、異なったセットをやることになりますか?

どんな曲をプレイするかはまだ決めていないんだ。みんな異なったバンドでやっているから曲のストックはたくさんあるし、カヴァー曲もやるかも知れない。同じ曲をプレイしても、インプロヴィゼーションを交えたりするし、異なったテイストになるよ。俺たちの音楽には、常に偶発的な要素があるからね。俺たち自身も常に新鮮な気分でプレイしたいんだ。日本に行く前にアメリカでリハーサルをして、本番に臨むつもりだよ。

Jimmy Herring & THE 5 OF 7 / courtesy 株式会社コットンクラブジャパン
Jimmy Herring & THE 5 OF 7 / courtesy 株式会社コットンクラブジャパン

<深刻な気分に陥ることはない楽しいショー。そして大量のギター・プレイがある>

●ワイドスプレッド・パニックで2011年の“フジ・ロック・フェスティバル”に出演しましたが、これまで日本には何回来ましたか?

そのときが初めてで、今回が2回目だよ。“フジロック”はお客さんも盛り上がってくれたし、スタッフもプロフェッショナルで、素晴らしい経験だった。日本に戻ることが出来て嬉しいよ。

●日本公演の後は再び北米ツアーが行われますが、THE 5 OF 7での活動は長期的なものになるでしょうか?いずれスタジオ・アルバムを制作する予定はありますか?

北米ツアーの後は、何も決まっていないんだ。でも、このバンドでプレイするのは楽しいし、2020年にも一緒にやりたいと考えている。スタジオ・アルバムもぜひ作りたいね。既に新曲を4曲ぐらい書き始めているんだ。まだ完成していないからライヴでプレイしていないけど、いつか世に出したいと思う。ただ問題なのは、バンド全員が別のバンドでも忙しくて、いつもツアーしていることなんだ。元々THE 5 OF 7はアトランタの地元ミュージシャンが集まってプレイする、というコンセプトで結成したんだけど、みんなヨーロッパやアジアなどでツアーしていて、アトランタに揃うことが少ないんだよね(溜息)。

●THE 5 OF 7以外のバンドでの活動は予定していますか?

幾つかオファーが来ているんだ。興味はあるけど、それを受けてしまうと、THE 5 OF 7としての活動を出来なくなってしまう。それが悩みの種なんだ。それに女房と結婚してから33年、ずっとツアーの連続だったから、そろそろ一緒にゆっくり過ごしたい気持ちもある。とはいっても、ジョン・マクラフリンとの共演みたいな話があれば、喜んでやるだろうけどね!

●ジョン・マクラフリンとの共演ライヴを行ったとき、ジョンから電話をもらって、イタズラ電話だと思ったそうですね?

うん、まさかジョンから直接電話があるとは思わなかった。 俺のアルバムを出してくれる“アブストラクト・ロジックス”レーベルのCEOで、マネージャー的なことをしてくれるソウヴィック・ダッタ(Souvik Dutta)の携帯電話から着信があったんだ。彼はジョンとも仕事をしているし、決しておかしなことではないんだけど、「こんにちは、ジョン・マクラフリンです」と言われて、ジョークだと思ったんだ(苦笑)。「ハイハイ、つまらないよ。切るね」と言ったら「ちょっと待って」と、その場にいたゲイリー・ハズバンドに代わってもらった。それでようやくジョン本人だと判ったんだ。

●北米ツアーでは1曲目にマイルス・デイヴィスの「ブラック・サティン」をプレイしていましたが、あなたはトリビュート・アルバム『Fusion For Miles / A Guitar Tribute - A Bitchin' Brew』(2005)でこの曲をプレイしたり、特別な思い入れのあるナンバーなのですか?

あのトリビュート・アルバムはジェフ・リッチマンという人がプロデュースしたもので、既に出来上がったベーシック・トラックの上にオーヴァーダビングしたんだ。でも、その前から「ブラック・サティン」は大好きだったし、ステージでもプレイすることを楽しんでいるよ。

● マイルスと会ったことはありますか?

残念ながら一度も会う機会がなかったんだ。でもマイルスの大ファンだったし、フェイヴァリット・アルバムを1枚だけ挙げるなんて、不可能だよ。『マイルス・アヘッド』(1957)も最高だし『オン・ザ・コーナー』(1972)、それからもちろん『ビッチェズ・ブリュー』(1969)、『ジャック・ジョンソン』(1970)...もうキリがないね。

●日本公演はどのようなライヴになるでしょうか?

トークやMCは少なめ、コスチュームやライティングも必要最小限だ。ただし音楽はたっぷり聴いてもらう。深刻な気分に陥ることはない、楽しいショーになる。そして今から警告しておくけど、大量のギターがあるよ!

Jimmy Herring & THE 5 OF 7 logo / courtesy 株式会社コットンクラブジャパン
Jimmy Herring & THE 5 OF 7 logo / courtesy 株式会社コットンクラブジャパン

【公演日程】

2019年11月25日(月)

Blue Note Tokyo /ブルーノート東京

1st show: Open 5:30pm / Start 6:30pm

2nd show: Open 8:15pm / Start 9:00pm

http://www.bluenote.co.jp/jp/artists/jimmy-herring/

2019年11月26日(火)〜28日(木)

Cotton Club/コットンクラブ

1st show: Open 5:00pm / Start 6:30pm

2nd show: Open 8:00pm / Start 9:00pm

http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/jimmy-herring/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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