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Netflix「マイネーム:偽りと復讐」主演ハン・ソヒら釜山でトーク

成川彩韓国在住映画ライター/元朝日新聞記者
「マイネーム」出演者たち(Ji Sung Jin撮影)

 ドラマ「夫婦の世界」や「わかっていても」などで人気を集めるハン・ソヒが、10キロ増量し、本格アクションに挑戦した。10月15日に配信が始まったNetflixオリジナルシリーズ「マイネーム:偽りと復讐」(以下「マイネーム」)だ。配信に先立ち、釜山国際映画祭(10月6~15日)で3話まで上映され、ハン・ソヒら出演者と監督、脚本家が野外舞台でのトークイベントに参加した。

 Netflixオリジナルシリーズ「イカゲーム」が世界的な大ヒットを巻き起こしている中、本来は映画を上映する場である釜山映画祭で、「マイネーム」や「地獄が呼んでいる」(11月配信予定)などNetflixオリジナルシリーズの先行上映や出演者らのトークが行われ、注目を集めた。コロナ禍で劇場観客数が激減した韓国では、Netflixをはじめ動画配信サービスの存在感が増していることが背景にある。

「マイネーム」で主人公ジウを演じたハン・ソヒ、左はキム・サンホ(Ji Sung Jin撮影)
「マイネーム」で主人公ジウを演じたハン・ソヒ、左はキム・サンホ(Ji Sung Jin撮影)

 「マイネーム」の主人公ユン・ジウ(ハン・ソヒ)は殺された父の敵を討つため、父の親友だったという麻薬組織のボス、チェ・ムジン(パク・ヒスン)のもとで訓練を受け、「オ・ヘジン」という名で警察に潜入する。父は警察に追われていたからだ。ジウは粘り強く立ち向かう強い女性で、これまでハン・ソヒが演じてきた繊細なイメージとは真逆のキャラクターだ。

 脚本のキム・パダ氏は「私はもともとアクションやノワールのジャンルが好きなんですが、かっこいい男性の役が出てきたら、あの役を女性が演じたらどうなるかなって想像していました。強い女性を一度は描いてみたい、最後まであきらめない人を描いてみたいと思って書きました」と、「マイネーム」の脚本を書いた動機を語った。

 これに対し、ハン・ソヒはオファーが来た時、「負担感は大きかった」と打ち明けた。「アクションなので体力的にもかなり準備に力を入れました。運動量が増えたら自然と食べる量も増えて10キロ増量しました」と言う。

「マイネーム」で麻薬組織のボスを演じたパク・ヒスン(Ji Sung Jin撮影)
「マイネーム」で麻薬組織のボスを演じたパク・ヒスン(Ji Sung Jin撮影)

 監督は、Netflixオリジナルシリーズ「人間レッスン」の監督キム・ジンミン氏。「演出としてはキャスティングがすべてと言っていいぐらい。あとは俳優たちが作ってくれると思った。現場で俳優たちは互いに競争し、影響を与え合いながら作っていく。その中でも軸になったのがキム・サンホさんとパク・ヒスンさん。2人の軸がしっかりしていれば、あとは若い俳優たちは自然に演じられると思った」と話す。

 キム・サンホが演じたのは、警察の麻薬捜査班のチーム長チャ・ギホ。ジウはオ・ヘジンとして警察に潜入し、麻薬捜査班に入ってチャ・ギホの部下となる。一方でジウは麻薬組織の組員としてはチェ・ムジンの部下であり、キャスティングはジウ(ヘジン)が所属する2つの組織のボスが軸になったということだ。

「マイネーム」で麻薬捜査班の刑事を演じたアン・ボヒョン(Ji Sung Jin撮影)
「マイネーム」で麻薬捜査班の刑事を演じたアン・ボヒョン(Ji Sung Jin撮影)

 さらに麻薬捜査班の刑事チョン・ピルドをアン・ボヒョン、麻薬組織の組員をイ・ハクジュ、チャン・リュルが演じた。アン・ボヒョンはtvNドラマ「ユミの細胞たち」主演で人気沸騰中で、トークでマイクを握ると観客から歓声が上がった。キム監督はアン・ボヒョンのキャスティングについて、「初対面で思ったのは、悪役はさせたくないということ。悪役ですでに知られているし、実際に会ってみると優しい雰囲気を感じ、あえてまた悪役をさせる必要はないと思った」と言う。

 キャスティングの順序としてはやはり主人公のジウ役から決めたという。「とにかく早くアクションの訓練に入ってもらわないといけないから」とキム監督。脚本のキム氏は「ハン・ソヒさんは最初に会った時にすぐにやりますと言ってくれて、その瞬間は忘れられないくらいうれしかった。感情的にも体力的にも大変な役で、女優としては果敢な挑戦。私が想像していたよりもずっとかっこよく演じてくれた」と目を細めた。

ハン・ソヒ(Ji Sung Jin撮影)
ハン・ソヒ(Ji Sung Jin撮影)

 アクションの特訓を受けるという条件にもすんなり応じたハン・ソヒだが、キム監督としても「正直そこまで熱心にやってくれるとは思っていなかった」と言う。ハン・ソヒがあまりにも一生懸命なので、後からアクションスクールに合流した他の俳優もがんばらずにはいられない雰囲気になったようだ。ハン・ソヒはもともと何か格闘技をやっていたのかと思ったら「ヨガやピラティスを含め運動そのものをほとんどしてこなかった」と言う。

 そんなハン・ソヒについてパク・ヒスンは「怖いもの知らず」と言う。「怖がらずにアクションに挑むので呼吸を合わせるのも早かった」。さらに「ムジンにとっては親友の娘であり、組織の組員であり、刑事でもあるジウとの関係は時に疑念を抱いたり、逆に信頼が厚くなったり。それをセリフではない形で表現するのは難しかったが、ハン・ソヒさんの素晴らしい演技のおかげで演じ切ることができた。ハン・ソヒによるハン・ソヒのための作品と言って間違いない」と絶賛した。

 キム作家は「同じジャンルの傑作はすでにたくさんある中で、『マイネーム』の特徴を挙げると、普通は2つの組織の間で主人公はアイデンティティーを失っていくが、ジウは復讐の過程でむしろ自身のアイデンティティーを取り戻していく人物」と言う。タイトルが「マイネーム」となった所以だ。ハン・ソヒはタイトルについて「2つの名前を持つ主人公が、果たしてどういう人生を生きていくのかというアイデンティティーに関する物語だと思った」と話した。

 釜山映画祭のトークを通して気付いたのは、Netflixオリジナルシリーズの「マイネーム」も「地獄が呼んでいる」も「ドラマ」とも「映画」とも呼ばないことだ。特に「地獄が呼んでいる」は映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」や「新感染半島 ファイナル・ステージ」で知られるヨン・サンホ監督が手がけ、出演俳優もユ・アインやパク・ジョンミンら映画中心に出演してきた俳優だ。動画配信サービスへの移行により、ますますドラマと映画の境界がなくなってきている。

韓国在住映画ライター/元朝日新聞記者

1982年生まれ、大阪&高知出身。大学時代に2年間韓国へ留学し、韓国映画に魅了される。2008~2017年、朝日新聞記者として文化を中心に取材。退社後、ソウルの東国大学へ留学。韓国映画を学びながら、フリー記者として中央日報(韓国)や朝日新聞GLOBE+をはじめ、日韓の様々なメディアで執筆。KBS WORLD Radioの日本語番組「玄界灘に立つ虹」レギュラー出演中。2020年に韓国でエッセイ集「どこにいても、私は私らしく」を出版し、日本語訳版をnoteで連載中。

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