Yahoo!ニュース

韓国大統領候補の注目の「3月1日」の「対日発言」 日本批判の李在明候補 避けた尹錫悦候補

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
李在明候補(左)と尹錫悦候補(李氏と尹氏のHPから筆者キャプチャー)

 昨日(3月1日)は韓国の独立運動記念日である。今から103年前、日本の植民地支配に抵抗し、朝鮮半島全土で民衆による暴動が起きた日である。

 韓国の歴代大統領は例外なく、この国家的記念日には国民向けメッセージを発信している。文在寅(ムン・ジェイン)大統領も昨日、民族衣装を着て、任期最後の国民向け談話を発表していた。

 文大統領は昨年の「3.1演説」では「我々は歴史を忘れることはできない。加害者は忘れられても、被害者は忘れられないものだ」と、「過去の問題」に言及していたが、今年のメッセージでも日本に言及し、「日本は歴史を直視し、歴史の前で謙虚にならなければならない」として日本政府に反省を求めていた。そのうえで「近い隣人の韓国と日本が『一時不幸だった過去の歴史』を乗り越え、未来に向けて協力しなければならない」と、対話を呼び掛けていた。

 文大統領が日本に対話を呼び掛けても残り2か月の任期中の首脳会談も、関係修復も事実上、不可能に近い。今月9日の大統領選挙で新大統領が選ばれれば、5月には新政権が発足するので直前の文大統領の「3.1演説」は効力も、意味もない。日本が大統領府を去る人を相手にする筈がないからだ。

 日本にとってはむしろ文大統領の発言よりも次期大統領の発言のほうが大いに気になるところだ。否が応でも今後5年間、相手にしなければならないからである。

 韓国大統領選挙は4人の有力候補が競っているが、現状では与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補と野党第1党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソッキョル)候補の一騎打ちとなっている。そこで、二人の昨日の発言をチェックしてみる。

 李候補は過去2年連続でメッセージを発信しているが、いずれも「親日」へのアレルギーがに滲み出ていた。

 一昨年は「親日残滓を清算すること、過酷だった歴史的事実を記録保存すること、虐げられた過去を物心両面で慰労することはこれ以上自制すべきでもないし、自制してはならない」と発言していた。また、昨年は「歪曲された歴史は歪曲された未来を生むことになる。(知事として)京畿道は徹底的に準備したうえで今年を親日清算元年として速度を上げて、歴史を正していく」と述べていた。

 昨日はフェイスブックを通じてのメッセージだったが、李候補は「3.1運動は誇るべき我が歴史でもあり、全世界の抑圧されている民衆に国家の自主と独立、自由と平等の貴重な価値を覚醒させた世界史的な平和運動である。今再び、一つとなった民族の力で日帝に抵抗した3.1運動の精神が必要である」と強調していただけで日本については言及していなかった。

 しかし、街頭で遊説した際には「日本の帝国主義的植民地支配から抜け出てから103年経った。今日、我々はあらゆる部分で日本に先行している」と、日本への対抗心を露わにする一方、テレビで演説した際には尹候補が先月25日のテレビ討論で日米韓軍事同盟について触れた際に「有事時に日本が朝鮮半島に入って来ることがあるかもしれない」と発言したことを問題視し、「私は過去の侵略の事実を反省すらしない日本の自衛隊が再び朝鮮半島の土を踏むのを絶対に容認しない」と尹候補を批判していた。また、最近、日韓でホットな問題となっている佐渡の金山の世界遺産登録問題についても触れ、「歴史の法廷に時効はない」と、妥協しない姿勢を示していた。

 但し、「両国の特殊な関係を考慮し、歴史・領土問題と社会・経済の部分を分けてツートラックでアプローチすべきだ。過去と未来の問題を切り離し、真剣に対話することで、両国が共に同意できる道を見つけていける」と、大統領になった暁の関係改善に向けた意欲を付け足すことも忘れていなかった。

(参考資料:「竹島の日」に抗議した与党の李在明候補、沈黙した野党の尹錫悦候補 3月1日の「独立運動の日」は?)

 一方、大統領選挙期間中、李候補とは異なり日本に関する発言を極力控えていた尹候補はこの日はフェイスブックではなく、特別声明を出していた。

 李候補の自身への「反日攻撃」を意識したのか「3.1精神は無条件的反日でも、排日でもない。103年前の1919年3月1日我が先祖は朝鮮の自主独立を越え、人類平等と世界平和の大義を宣布した。古臭い反日扇動だけで国際社会の巨大な変化に立ち向かうことができないことを3.1独立宣言文はすでに予見していた。我々が真に日帝占領期の傷を回復し、グローバル中枢に向かうには国際協調に基づく自強を成して、克日、即ち日本を越えなくてはならない」と「克日」を強調していた。

 「克日」は目新しいキャッチフレーズではない。最初に「克日」を強調したのは軍人出身の全斗煥(チョン・ドファン)元大統領で1982年8月、8月15日の光復節記念式典で「異民族支配の苦痛と侮辱を再び経験しないため確実な保障は、我々を支配した国よりも暮らし易い国、より富強な国を作り上げる道しかあり得ない」と「克日」を強調していた。

 また、文在寅大統領も日本から輸出規制(半導体素材の輸出厳格化)を掛けられ、「ホワイト国」から除外された2019年8月2日の国民向け談話では「(日本の)挑戦に屈服したら歴史はまた繰り返される。今日の大韓民国は過去の大韓民国ではない、我々は十分に日本に勝てる」と、「克日」を国民に呼びかけていた。

 どちらにしても、尹候補は韓国の対日政策を軌道修正し、融和姿勢に転じるものとみられるが、尹候補の発言を盧武鉉政権下で保健福祉部長官を務めたことのある盧武鉉財団の柳時敏(ユ・シミン)理事長は尹候補が大統領に当選すれば「北朝鮮とは『なめるなよ』との言葉による爆弾の応酬を行い、日本とは慰安婦合意を復活させ、アサヒビールを飲み、ユニクロも着るかもしれない」と揶揄していた。

(参考資料:韓国大統領選のジンクス通りならば野党の尹錫悦候補が当選か!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事