声震わせ憤る立憲・牧山氏「全部まやかしだった!」、齋藤法相は疑惑の柳瀬氏かばい、自公は強行採決目指す
政府与党が来週にも参院での採決を目指す、入管法改定案。その大きな争点は、難民申請者の強制送還を可能とする規定だ。難民認定が適切に行われていない日本において、本来、難民として救うべき人々まで、強制送還されないかが、懸念されている。法務省および出入国在留管理庁(入管)は、「申請者の中に難民はほとんどいない」として、制度の濫用者を強制送還できるようにすると主張するが、その根拠とされた人物の発言の信憑性が大きく揺らいでいる。だが、非常に疑わしい情報を元に国会審議が行われてきたにもかかわらず、自民党および公明党は、来週の強行採決を目指している。
〇法案の根拠=柳瀬発言へ重大な疑い
「(難民)申請者の中に難民はほとんどいない」―国会審議にあたり法務省および入管側が入管法改定案の根拠(=立法事実)とした主張、その発言の主は「特定NPO法人難民を助ける会」名誉会長の柳瀬房子氏だ。同氏は、入管の難民認定審査に不服を申し立てた人々の審査を行い、難民として認定するか否かを法務大臣に助言する難民審査参与員の一人だ。だが、柳瀬氏の発言は、この間の国会質疑や他の参与員達からの指摘などで、その信憑性が大きく揺らいでいる。
その一つが「1年半で500件の難民審査をした」と受け取れる発言をしていることだ。柳瀬氏は、2021年の4月21日の衆院法務委員会に参考人として出席。「これまで2000件の(対面)審査を行ってきたが、難民と認められたのは6件だけ」との旨の発言をしている。その1年半年前には、法務省会合「収容と送還に関する専門部会」で、「これまで1500件の対面審査を行ってきた」と話しているので、これらの発言から柳瀬氏は、1年半で500件の難民認定審査を対面で行ったと受け取れる。
だが、対面審査は、難民認定申請者に直接、参与員が話を聞き、また膨大な資料を読み込むため、時間はそれなりにかかる。先月末31日に野党が行った入管へのヒアリングで、入管の堀越健二審判課長は、「対面での難民審査は、最大でも年100件が限度だろう」と述べ、つまり、柳瀬氏が1年半で500件の難民審査を対面で行ったというのは、あまりに非現実的だということを認めた。それは、入管法改定案の根拠が失われた、立法事実が崩壊したことを意味する。
〇怒りに震える牧山議員
これに憤ったのは、野党の国会議員達である。参院法務委員会理事の牧山ひろえ参議院議員(立憲)は、上述のヒアリングで、「私達は間違った情報をもとにずっと審議させられてきた」「全部まやかしじゃないですか、責任とってください」と声を震わせて憤った。
牧山議員など野党の議員達は「立法事実が崩れた法案の審議は出来ない」と口々に訴えたが、参院法務委員会の委員長である杉久武参議院議員(公明)は「十分な審議は行われた」として、昨日6月1日の法務委員会での採決を行うとしたが、立憲民主党が杉委員長の解任動議を提出したため、採決は行われず、来週へと持ちこされた。
柳瀬氏の「1年半で500件の対面での難民審査」については、5月30日の記者会見での顛末も興味深い。会見で、Dialogue for Peopleの佐藤慧記者に「それは可能なのか?」と質問された齋藤健法務大臣が「可能だ」と答え、同日夜に訂正、筆者含む会見に参加した記者達全員に、「不可能だと言おうとして可能だと言ってしまった」と釈明するのメールが法務省を通じて送られたのだった。
〇柳瀬氏かばう齋藤大臣、立憲国対の姿勢も問われる
今月1日の法務委員会後、会議室から出てきた齋藤法務大臣に、東京新聞の望月衣塑子記者が駆け寄り、柳瀬発言の信憑性および入管法改定案の立法事実が失われたことを質問したが、齋藤法務大臣は「対面審査の件数についての発言以外で柳瀬参与委員を信頼できるところがある」と述べ、足早に去っていった。問題は、齋藤法務大臣の「言い間違い」だけではなく、柳瀬発言の信憑性そのものであるのに、そこはあくまで深く追及しないとの姿勢だ。齋藤法務大臣も柳瀬発言を何度も引用するなど、ある意味、騙されていたと言えなくもないのに、随分と「お人よし」だと感じたのは筆者だけだろうか。
来週、入管法改定案の採決されるか否かをめぐっては、立憲民主党の本気度も問われる。法務委員会委員長の解任動議に止まらず、法務大臣の問責決議案を出すかが焦点となる。牧山議員らの憤りも当然であろう。立憲民主党の参院国対委員長である、斎藤嘉隆参議院議員の動向に、筆者としても注視したい。
(了)