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リモートドラマ花盛りの中、オーソドックスな秀作ドラマ『路(ルウ)~台湾エクスプレス~』

碓井広義メディア文化評論家
(写真:アフロ)

最近、頻繁に目にするようになったのが「リモートドラマ」です。出演者がスタジオやロケ現場に集まるのではなく、それぞれの場所にいたままで自らの役を演じていく。

画面が、パソコンを使った「リモート会議」みたいな絵柄になることも多いのですが、様々な制約を承知の上での果敢な取り組みと言えるでしょう。どんな形でもドラマを作りたい、見てもらいたいという意欲、そしてチャレンジ精神が頼もしい。

そんな中、全3話とはいえ、オーソドックスな作りの秀作ドラマがありました。5月半ばから月末にかけて放送された、NHK土曜ドラマ『路(ルウ)~台湾エクスプレス~』です。

台湾エクスプレスとは、2007年に運行を開始した台湾新幹線のことです。日本の700系新幹線をベースにした700T(Tは台湾)という車両を導入し、それまで4時間以上かかっていた台北と高雄の間を約90分で結ぶようになりました。

タイトルだけ見ると、日本が協力した台湾新幹線の開業までを追った、『プロジェクトX』のような内容が思い浮かびます。しかし、このドラマは、台湾新幹線が実現するまでの歳月を物語の時間軸としながら、日本人と台湾人の運命的な“つながり”を描いていく作品でした。

学生時代から台湾が大好きだった、主人公の多田春香(波瑠)。大手商社に就職して4年目、台湾新幹線プロジェクトのメンバーに抜擢され、台湾へと赴任します。

けれど春香は、日本に残してきた恋人には言えない、ある秘密を抱えていました。学生時代、最初の台湾旅行で出会った、エリック(アーロン)という台湾人青年への思いです。当時、アーロンが渡してくれた連絡先のメモを、春香が紛失したまま、長い年月が過ぎました。

その間、1995年の「阪神淡路大震災」の際には、春香を心配したエリックが日本にやってきました。また1999年に台湾で起きた「921大地震」では、春香がエリックを探しに行きましたが、互いの動きは全く知りません。

そんな2人が、台北で、8年ぶりの再会を果たすことになります。しかし2人の関係は、単純な「国境を越えた恋」とは違っていました。男と女ではあるのですが、何より人として好ましく、また“こころの支え”として大切な存在だったのです。見ている側が、もどかしくなるほど抑制され、深く沈潜した恋情。波留とアーロン、2人の繊細な言葉のやりとりや表情が見せ場です。

そして、この「日台共同制作ドラマ」では、春香とエリック以外の“つながり”も、同時併行で見せてくれました。

日本統治下の台湾で生まれ育った老人、葉山(高橋長英)と台湾人の元同級生、中野(ヤン・リエ)。春香が一緒に働く先輩社員、安西(井浦新)と台湾人のクラブホステス、ユキ(シャオ・ユーウェイ)などです。

彼らは、台湾と日本の歴史的経緯、さらに国籍や立場の違いなどから、心ならずも相手を傷つけてしまうのですが、徐々に分かり合い、許し合っていきます。

原作は吉田修一さんの小説『路』。脚本は大河ドラマ『篤姫』などを手掛けてきた田渕久美子さん。そして演出は、朝ドラ『花子とアン』などの松浦善之助さんです。

美しいだけでなく、どこか懐かしい台湾の町並みと自然。それを背景に、丁寧に織り上げられた物語は、見る側の気持ちを静かに揺さぶりました。久しぶりで、いいドラマに出会った時の喜びを思い出させてくれたのです。

番組サイトより筆者スクリーンショット作成
番組サイトより筆者スクリーンショット作成
メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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