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ウクライナ侵攻1年で2,800件超、世界のファクトチェックが集中した最悪のフェイクニュースとは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By JAM Project (CC BY-SA 2.0)

ウクライナ侵攻から1年で2,800件超のフェイクニュースが氾濫。その中で、ファクトチェックが集中した最悪のフェイクニュースとは――。

ロシアによるウクライナ侵攻開始当初から、のべ約90に上る世界のファクトチェック団体が連携し、フェイクニュースの検証を続けてきたプロジェクト「#ウクライナファクツ」。その検証結果は、1年で2,800件を超えた。

膨大な数のフェイクニュースは、ソーシャルメディアなどを舞台に、様々な言語で国境を越え、世界規模、リアルタイムで拡散する。

拡散が広範囲で、影響度が高ければ高いほど、各国のファクトチェック団体もこぞって検証を行い、その結果を各国語で発信する。

2,800件を超すフェイクニュースの中で、世界のファクトチェッカーによるフェイク判定を最も多く集めたのは?

●89のファクトチェック団体が連携

最も検証件数の多かった偽情報の上位10件には、侵攻前に別の場所で撮影された画像や動画、ツイートのフェイク、ゲームの画像の拡散、実際の画像をでっち上げだと主張して信ぴょう性を下げようとするもの、などが含まれていた。

スペインのファクトチェック団体「マルディタ.es」は2月23日に公開した調査結果について、そう述べている。

ロシアによるウクライナ侵攻をめぐっては、国際連携組織「インターナショナル・ファクトチェック・ネットワーク(IFCN)」による認定ファクトチェック団体が連携し、その検証結果を「#ウクライナファクツ」にまとめている。

「#ウクライナファクツ」で公開されているリストによれば、参加するファクトチェック団体は延べで89に上り、合わせて69の国や地域を担当している。この中では、仏AFP通信だけで16団体が欧州、アフリカ、中南米までカバーしているなど、活動のボリュームに濃淡もある。

その検証総数は、侵攻開始から1年となる2月24日に、2,809件となった。

侵攻開始直後にこのサイトを立ち上げ、運営を担ってきたのが、スペインのファクトチェックメディア「マルディタ.es」だ。

各ファクトチェック団体は、担当エリアで拡散した各国語によるフェイクニュースの検証結果を公開する。このため、一つのフェイクニュースについて、複数のファクトチェックが集まることも多い。

では、最も多くのファクトチェックを受けたフェイクニュースとは何なのか。「マルディタ.es」がその上位10件を明らかにした。

●「ファクトチェック」を偽装する

マイクを握るレポーターの背後に整然と並べられているのは、多数の遺体収納袋。だが遺体収納袋に収まった一人が、もぞもぞと体を動かし、顔を出してしまっている――。

その動画にはこんなテロップが表示されていた。

これこそ典型的な情報戦だ。ただ、やや混乱があったようだ。これは新型コロナの期間にポーランドで撮影されたものだ。それをウクライナでのことのように見せている。

フェイク動画を「ファクトチェック」した、という体裁の動画が、ウクライナ侵攻開始から5日後の2022年3月1日ごろからフェイクスブックやティックトックで拡散していたという。

だが「マルディタ.es」などのファクトチェックによれば、これ自体が「ファクトチェック」を偽装し、ウクライナ侵攻による被害を否定するフェイクニュースだった。

※参照:ウクライナ侵攻で氾濫する「フェイク動画・画像」の3つのパターンとは?(03/04/2022 新聞紙学的

元になった動画は2月4日、オーストリアで行われた環境保護団体による抗議活動のパフォーマンスを、地元テレビ局が撮影したものだ。

この元動画は公開直後から、「新型コロナの死亡者を誇張するフェイク動画」として、フェイスブックなどで拡散されていた。それがウクライナ侵攻で、再利用されたことになる。

そして、「ファクトチェック」を偽装することで、ウクライナ侵攻による被害を撮影したリアルな写真や動画の信ぴょう性や、本来のファクトチェックの信頼性が、損なわれる危険がある。

このフェイクニュースだけで、「#ウクライナファクツ」で公開されているファクトチェック件数は57に上る(※「マルディタ.es」の集計では60件としているが、重複や誤ってカウントしてあった3件を除いた)。

拡散に対してファクトチェックが行われたのは次の36の国と地域。

アルゼンチンバングラデシュ、ベルギー()、ボリビアボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル()、ブルガリアチリチェコデンマークジョージア、ドイツ()、ガーナ、ギリシャ()、香港、インド()、インドネシア、イタリア()、リビアリトアニア、メキシコ()、オランダ()、北マケドニアポーランドポルトガルルーマニア、セルビア()、スロバキア、スペイン()、スリランカシリア台湾トルコ、ウクライナ()、英国()、米国

ファクトチェックの公開は3月2日から始まり、3月中が51件と大半を占める。だが、4月に入ってからもボスニア・ヘルツェゴビナ、デンマーク、ベルギー、リトアニア、5月にもウクライナでファクトチェックが行われている。

また、ブルガリアのAFP通信は、3月5日に最初のファクトチェックを公開した後、テロップを差し替えた同じ動画が拡散しているとして、5月23日に検証結果を更新している。

フェイクニュースは、同一の素材が、ストーリーを変え、体裁を変えながら、広範囲に長く漂い続けるということがわかる。

●「ロシア空軍がウクライナ上空に」

「遺体収容袋」に次いで、ファクトチェック件数が多かったのは、ウクライナ侵攻初日から拡散した、「ロシア軍の戦闘機がウクライナに飛来」という動画のフェイクニュースだった。

戦闘機の編隊がビルの上空を次々に飛び去っていく動画が、フェイクブックなどに拡散し、侵攻開始のインパクトもあって、それぞれ数千回規模で閲覧されたという。

AFP通信などのファクトチェックによると、これは2020年5月に公開されたロシアの対独「戦勝記念日」軍事パレードのリハーサル映像だったという。

ファクトチェックの件数は計43件。27カ国で39のファクトチェック団体が検証結果を公表している。27カ国は次の通り。

アフガニスタン()、アルジェリアアルゼンチンアゼルバイジャンバングラデシュ、ブラジル()、チリフランス、ジョージア()、ギリシャハンガリー、インド()、イタリア()、コソボメキシコミャンマーオランダ北マケドニアポーランドルーマニアスロバキア、スペイン()、シリア台湾、トルコ()、英国()、米国()。

ファクトチェックは侵攻初日の2月24日が22件と半数を占め、これを含めて2月中だけで38件に上る。だが5月にもアルジェリアでファクトチェックが行われており、やはりこのフェイクニュースも長くネットを漂流している。

●「最前線の大統領」「空挺部隊の降下」「CNNの誤報」

ファクトチェック件数の第3位は3件。

一つは、やはり侵攻初日から拡散した「ゼレンスキー大統領が軍服姿で最前線に立つ」という画像のフェイクニュースだ。

ファクトチェック件数は24カ国、33のファクトチェック団体により41件に上る。

マルディタ.es」などによると、ゼレンスキー氏の画像は、侵攻前年の2021年から出回っていたものだった。

もう一つ、これも侵攻初日から拡散していた「ロシア軍の空挺部隊がウクライナ東部ハリコフに降下」とのフェイク動画だ。

ファクトチェック件数は27カ国、35のファクトチェック団体により、やはり41件だ。

英ファクトチェック団体「ロジカリー」などによると、これは2014年からネット上で公開されている動画だという。

さらに、「CNNが同じ人物が2度死亡したと報じる」というフェイクニュースも、29カ国、39のファクトチェック団体により、41件のファクトチェックが行われている。

マルディタ.es」などによると、これはCNNを偽装したツイート画像を使い、「CNNが2021年にアフガニスタンで死亡したと報じた同じ人物を、2022年2月23日にロシア・ウクライナ紛争の最初の米国人犠牲者として報じている」とするもの。

同一人物として使われた画像は米国のユーチューバーのもので、死亡してはいなかった。

以下、第6位は侵攻初日から拡散した「ウクライナと交戦中のロシア軍機」とする動画(実際はゲームの画像)。

第7位はやはり侵攻初日から拡散した「ウクライナでの爆発」とされた動画(実際は2015年に中国・天津で起きた爆発)。

第8位は、「爆撃で負傷したウクライナの女性の写真は、2018年のガス爆発の犠牲者」とするフェイクニュース(写真は侵攻初日にウクライナ東部ハリコフのロシア軍による爆撃で負傷した女性を撮影したものだった)。

第9位は、「兵士に対峙する少女」の動画。ウクライナとは関係なく、2012年にイスラエル兵とパレスチナの少女を撮影したもの

第10位は、キーウ近郊の「ブチャの虐殺」で遺体が「動いている」とする偽「ファクトチェック」動画。自動車のウインドウの歪みなどによる錯覚であることが明らかになっている。

※参照:ウクライナ侵攻「ブチャの放置遺体が動いた」偽ファクトチェックを繰り返す狙いとは?(04/05/2022 新聞紙学的

●連携するファクトチェック

ウクライナ侵攻をめぐるフェイクニュースの拡散は、2022年2月24日の侵攻開始と同年3月2日の国連のロシア非難決議の前後で大きなピークを迎えていたことが明らかになっている

ファクトチェック件数の多いフェイクニュースがこの時期に集中しているのも、世界規模でのその拡散のすさまじさを物語る。

このような規模のフェイクニュースに対抗するには、ファクトチェックの国際連携がいかに重要かということも、このランキングは示している。

(※2023年2月27日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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